第九十一話:決着
それは異常な光景だった。
この国に一人で乗り込んでき、一人で戦いを挑んできたと思われていたイラ=タクトがナニカに変化し、次いで何らかの能力を行使した瞬間。
無数の闇の勢力がその場に湧き出てきたのだ。
動作の一切ないその出現、ただ最後の現れた双子と思わしき少女を見た者は、それが自分たちに致命的な悪影響をもたらす存在であることを瞬時に見抜いた。
そう、曲がりなりにも神の祝福を授かりし聖騎士たちには、彼女たちがどのような存在であるかひと目で分かってしまった。
「魔女だ! 魔女が現れ――がびゅ!」
ゴウンと今まで聞いたことのない、鼓膜が張り裂けるような音が響く。
同時に割れたザクロのごとき醜態を見せる聖騎士の頭蓋。
その攻撃を成した双子の一人は、煙の沸き立つ短筒を片手にニコリと可憐に笑った。
「目標は~?」
「手当たりしだい! 動くものはとりあえず撃つ、のです!」
「ひゃっはー! にげまどえー」
ガシャリと、エルフール姉妹がその身に余る巨大な装置を掲げた。
複数の筒が一つに束ねられ、背負われた背嚢らしきものより金属製の何かが連なって繋がっている。
神の国にてミニガンと呼ばれしそれは、己が産み落とされた目的を全うするために死を呼び寄せるその銃口を回転させる。
「いけない! 避けなさい!」
アトゥが警告の言葉を発する。
だがそれは、聖騎士たちを救うにはあまりにも遅すぎた。
「「ふぁいあーっ!!」」
「ぐあっ!」
「がぁっ!」
「ひぃっ!!」
それからの光景は、まさに地獄絵図と呼ぶにふさわしいものであった。
英雄となりし双子の腕力によって振り回されるミニガンは、不気味な唸り声をあげ手当たり次第にその銃弾をばら撒き、相手の区別なくその身体へと死を叩き込んでいく。
攻撃を受ける聖騎士の不運は、彼らがその兵器の性質を知らなかったことに尽きるだろう。
当たりどころの悪かった者はことごとくがその屍を晒し、たとえ致命傷を避けたものですら戦闘行動に支障をきたすほどの傷を負っている。
頑強な聖騎士の鎧と肉体を突き破りダメージを与えるその恐ろしき死の豪雨に、聖騎士が出来ることはただ己の身を守ることだけだった。
「部隊散開! 各自目標を抑えろ!」
巨大なライフルを軽々と肩にかけ、殺意に満ちた表情で戦場に降り立ったギアが仲間の戦士団に指示を出す。
同時に四方八方へと散り散りになる戦士団。
させるものかとアトゥが触手を繰り出そうとするが、まるで想定済みとでも言わんばかりにギアと数名のダークエルフたちによる執拗な銃撃で阻止される。
「ちぃっ! まさかこのような手段があるとは! ――手が足りない!」
「よもやこのような場所までわしが出てこようとはな……では先の失態、ここらで挽回するとしようかのう! ――《破滅の大地》!」
更に背後ではモルタール老が素早い動作で軍事魔術を構築し、すぐさま行使する。
途端。大地が腐り、空気に毒が交じる。
神の威光が消え去った土地は、まるで地獄の如き魂を凍らせる気配を漂わせていた。
「なっ! これは――!」
「聖なる属性の者の能力を低下させる特殊効果です! これではこちらの戦力が大幅に削れてしまう!」
ダークエルフが、異形の昆虫が、そして皮を被った化け物が。
その全てが闇の空気を一身に受け、その気配を一際強大にさせた。
対する聖なる軍勢は、初撃の蹂躙によって壊滅的な被害を受けてしまっていた。
相手が持ち出した銃器の恐ろしさを知っていたアトゥは、自分に攻撃が集中していたこともありなんとか仲間を守ることがでた。
だが逆に言えば負傷したフェンネや肉体的頑強さに欠けるソアリーナを銃弾の雨から守りながら戦う事を強制されてしまっているとも言える。
加えて《破滅の大地》によって彼女たちの力は大きく削がれている。
それはアトゥが持つ戦闘能力に枷をつけられたことと同意であり、より相手への対処が困難になったことへの証左でもあった。
そしてアトゥの戦力低下はすなわちレネア側の危機に直結してしまう。
「さて、ではパーティーを始めましょう。とてもとても、素敵なパーティーです」
=Message=============
《全ての蟲の女王イスラ》が世界に出現しました。
この世界に存在する全ての昆虫ユニットが戦闘力+2の修正を受けます。
―――――――――――――――――
目の前に、唾棄すべき異形の存在が立ちふさがる。
この世の存在ではおおよそないと思われるその巨大な蟲の女王は、ひどく美しい声音で開戦の合図を下した。
「聖騎士団前へ! 神の敵を討ち滅ぼせ!」
「「「神よ、我に邪悪を討ち滅ぼす力を!!」」」
フィヨルドの言葉によって無事だった聖騎士が前に出る。
各々が一騎当千の強者。
それ単体で一軍に匹敵するとも言われる聖騎士たちの群れ。
邪悪を討ち滅ぼすために鍛えられし神の剣が、今ここに抜剣される。
「さぁ行きなさい可愛い我が子らよ。マイノグーラの敵を討ち滅ぼすのです」
「複雑な気持ちですけど……ここは王さまに乗ってやるのです!」
「がんばるぞ、おー!」
「「「ギギギェェェ!!」」」
対するはマイノグーラが誇る邪悪の軍勢。
後悔の魔女を筆頭とし、戦闘能力の強化された足長蟲に人種特攻の能力を持つブレインイーター。
互いにその数は数百の小規模な集団戦とも言えよう。
だがそれぞれが内包する戦力を考えるのならば、万軍に匹敵する戦いがここレネアの地で繰り広げられることとなる。
「クソが! クソがぁ!!」
エラキノによる怒りの叫びを聞きながら、アトゥは必死で降り注ぐ銃弾の雨をしのいでいる。
それ一つ一つは彼女にとっては取るに足らないものだ。
だが背後にいる仲間をここで見捨てることはできない。
アトゥはエラキノの《啜り》によってTRPG勢力の仲間としてその性質を変えられている。
その書き換えられた偽の仲間意識が、巡り巡って彼女たちを窮地に立たせていた。
「いけない! ダークエルフたちが!」
「なんてことだ! 奴ら、街に火を放っている!」
いち早く気づいた聖騎士が悲鳴にもにた叫び声をあげる。
街に火の手が上がった。
先程の散開したダークエルフの部隊が工作を始めたのだろう。
密集した木造建築が数多く存在するこの都市部での火災は致命的だ。
対処を怠ればいずれ大規模な火災に発展し、それはことごとく街を焼き尽くすだろう。
住民もこの異常な状態に我先にと避難を開始しており、普段このような問題の対処を率先して行う聖騎士たちはこの場で命をかけた戦いを続けている。
街の崩壊は、決定づけられたも同じだった。
「くっ! このままでは! 聖騎士! 聖女とエラキノを命にかけても守りなさい! 私が巻き返します!!」
その言葉に動けたのは数名。だが最も頼もしき上級聖騎士が駆けつけたのはレネアにとって幸いであった。
彼らは限界まで鍛え上げられたその肉体でもってエラキノたちを抱えあげ、銃弾の届かぬ場所へと退避する。
ようやく反撃の糸口が見えたと足に力を込めるアトゥ。後は一跳躍して相手の懐に入れば同士討ちを恐れて迂闊に銃撃が行われることはないはず。
そのまま内側から食い破ればと、瞬時に作戦を組み上げる。
だが……。
「もしかしてー、私たちを忘れてる?」
「まさかアトゥさんと戦うことになろうとは思ってもいなかったのです」
その反撃を決して許さぬ者がいた。
エルフール姉妹である。
彼女たちはすでに打ち尽くしたミニガンをどこかへと放り投げ、自らの得物とした魔王武器を手に少女が放つにはひどく物騒な気配でもってアトゥへと切りかかってくる。
「ちぃっ! 小癪な! しかし来るタイミングを間違いましたね! 今は昼! 月はおろかまだ日が高いこの時間では、到底あなたたちの力は発揮できない!」
二人の魔女の攻撃を優にいなしながら放たれた言葉は正鵠を射ていた。
彼女たちは月の輝きと悲劇が生み出した魔女。その力と狂気が最大限に発揮されるのはまさしく満月の夜。
真逆の天候であるこの時においてはその内に秘めたる能力を行使することもできず、ただ他よりも少し強力な戦士でしかない。
だが……果たしてイラ=タクトはそのことに気づかなかったのだろうか?
「本当に、そう思いますかアトゥちゃん?」
「なにを――」
顔面が黒く塗りつぶされた異形の蟲が淑女の声音で尋ねた。
アトゥはその言葉に一瞬怪訝な表情を見せる。だがいくら戦闘時においては類い稀なる才能と勘を有する彼女と言えど、その可能性に気づけるはずもなく……。
「我が名は月。夜空に浮かぶ闇の標なり――」
その瞬間。世界は夜に沈み。煌々と輝く巨大な月に見下されることとなる。
「馬鹿なッ!!」
ここに満月の夜が再現される。
何者でもないがゆえに何者にもなれるその邪神は、ついに世界の事象まで模倣してみせたのだ。
「「アハハハハハハハハハハハ!!!!」」
そしてそれは同時に、後悔が生み出した二人の魔女が長い正気の眠りから目覚め、狂気のままにその力を撒き散らすことの宣言に他ならなかった。
「まただ! またキャリーたちの幸せを奪おうとする奴らが現れた! やっぱりそうだ! 世界は私達が嫌いなんだ! 大嫌いなんだ!!」
「くすくす。馬鹿みたい。喧嘩なんてしないで静かに暮らしていればこんなことにはならなかったのに。誰も失うことがなかったのに」
「《疫病感染》」
「《白痴感染》」
もっとも邪悪で、もっとも唾棄すべき能力が最大の出力でもって撒き散らされた。
基礎能力で強引にレジストが可能とは言え、それは魔女の能力だ。
加えて同時に二つ。
殆どの聖騎士は自らの使命を忘れないことに必死で、身体を蝕む病魔にただ膝をつくばかり。
「ぐぅ! こ、これは! こんなことが!!」
フィヨルドが絶望の表情で叫ぶ。
この場に連れてきたおよそ数百名の聖騎士団員。その位階と練度は千差万別なれどどれも一騎当千の強者。
その神の尖兵たる騎士が、民を守る光の盾が、ことごとくその悪意の前に無様を晒している。
「ちぃっ! クソが調子に乗るんじゃねぇぇぇ!」
「これ以上はやらせません!」
エラキノとソアリーナが同時に飛び出してくる。
ようやく体制を整えたのか、それともこの状況にもはや守勢では埒が明かぬとしびれを切らしたのか。
だが放たれたソアリーナの火炎はメアリアによって忘却させられ、振り上げられたエラキノの爪はキャリアによって無残にもその腕ごと腐り落とされた。
「ねぇねぇどうするアトゥさん! このままじゃ大切なお友達がどんどん死んじゃうよ? それってとっても悲しいことだよね? 辛いよね? もう生きていたくないよね!? じゃあ忘れよう! 何もかも忘れよう!!」
「いくらアトゥさんが強いと言っても、キャリーたち二人を抑えることは不可能なのです。というより、キャリーたちはやることがあるのでタダ飯食らいの無能な穀潰しは少し大人しくしておいてほしいのです」
魔女エラキノと聖女ソアリーナを軽々しく撃退した二人がそういうや否や、その圧力が増す。無論アトゥも常に触手を操り攻撃の手を緩めていない。
だが闇夜にまぎれてどこからともなく無数の弾丸が飛翔し、足長蟲やブレインイーターと言った魔物たちがエルフール姉妹への接近を妨害してくる。
その間に、英雄と勇者の二つの性質を持つこの少女たちは外道にも劣る所業を平然と行ってみせた。
「街ごと腐っちゃえ」
「街ごと忘れちゃえ」
「これはっ! まさか! ――能力の範囲を都市全域に広げると言うのですか!?」
驚愕の声は無力に響く。不可視の力は、だが薄いヴェールのように都市へと広がり無辜の民を蝕んでいく。
そもそも、彼女たちの目的はアトゥらの対処ではなかった。
その真の目的は……都市の住民への疫病と白痴の蔓延。
死なず、されど看病が必要な程度の病魔と、彼らが今ままで信じてきた神への信仰心の忘却。
イラ=タクトにより呼び出された彼女たちの役目は、この地を真なる地獄へと落とすことに他ならなかった。
「ほっほ、ギアたちはよくやっておるようじゃのう」
背後にいるモルタール老が各所の魔物に指示を与えている。
エルフール姉妹の意識が都市全域に向いたことから、ソアリーナは再度自らの炎にて敵の撃破を試みる。
今度は姉妹ではなく背後で指揮をとっているであろうダークエルフの呪賢者だ。
だがその奮闘も無為に終わる。狙いである老人はいつの間にか闇夜に紛れその姿をくらましてしまったのだ。
月明かりと燃え盛る都市の炎で視界が確保されているとは言え、夜間の戦闘に慣れていない彼女では、夜こそをもっとも得意なフィールドとする老獪なるダークエルフの賢者を見つけることは叶わない。
「ぐぅっ……くそっ! くそっ!」
「――っ!? だ、大丈夫ですかエラキノ! 怪我は……ああっ! そんな!」
腕が腐れ落ち、ぼたぼたと肩から血を流すエラキノの惨状にソアリーナが悲鳴をあげる。
意識はあるようだが、その顔色はひどく悪い。
魔女が持つ超人的な生命力でもってはいるものの、早く治療をせねばならぬことは明らかだ。
そしてこの場において唯一それが可能なGMは変わらず黙して語らない。
街への攻撃は彼らの余裕の現れだ。
聖女と魔女を押し留めてなお絶望を振りまく余裕があるとの。
いずれ……姉妹の能力は十分にその使命を果たすであろう。
その後はイラ=タクトによる蹂躙が始まる。
GMの権能を封じられ、聖騎士団を壊滅させられた彼女たちに残された戦力はアトゥしか存在しない。
エラキノはその成り立ちからGMのバックアップがあってこそ力を発揮できるし、ソアリーナの奇跡はフレマインによって完封される。フェンネは負傷により戦線を離脱しており、たとえ無事だろうがその力はひどく頼りない。
そしてアトゥ一人で乗り越えられるほど、イラ=タクトという存在は容易くはなかった。
「ちくしょう。助けて、助けてよマスター……」
「気を確かにエラキノ! 誰か! 彼女を連れて下がってください!」
ソアリーナの声に答えるものはいない。その殆どは得体のしれない人形の化け物に皮を剥がれるか、もしくは蟻のような不気味な見た目の昆虫に貪り喰らわれるばかりだ。
アトゥは必死で銃弾の雨を防いでいるし、フェンネはすでに戦線を離脱している。
そして自分はこの状況を覆す手段も知恵も持ち合わせていない。
絶望がソアリーナの心を支配し、もはやこれまでかと思われたその時だった。
「俺の名前は――
生死の境をさまよっていたはずのエラキノが、およそ彼女が出すには不釣りあいな男性の声音でそう名乗った。
「
ぼたぼたと血をこぼしながら、まるでその事に意を介さないようにエラキノは言葉を続けた。
しかしながらその内容は彼女が発するにはおおよそ不可解で、まるで別人のような雰囲気が含まれている。
その瞬間、ソアリーナは何が起こったのかを理解する。
GMが賭けに出たのだ。自らの名前を名乗ることによって、この窮地を覆すために。
ここではない場所から干渉するために、エラキノの口を借りて。
「俺の親父が言っていたんだ。男ってのは人生どこかで一度はでかい賭けをしなきゃならねぇって……。きっとそれが今なんだろうさ」
気がつけば夜は明け、その場に静かに佇むイラ=タクトが居た。
その全身は真っ黒に塗りつぶされ、だが視線はエラキノに向いていることが分かる。
いや……その視線はエラキノの先にいる繰腹に向いていた。
「伊良拓斗って言ったか? あんたゲームが随分上手いんだな。俺はゲームなんてやったことはないが。ギャンブルにはめっぽう詳しかった。……まぁ詳しいってだけで強いわけじゃなかったんだがな」
イラ=タクトは黙して語らない。
相変わらずその表情からは感情は読み取れず、ただ深い闇のみが存在しているように思われた。
「負け続けの人生だった。最後だってヤクザが元締めのしょうもねぇ違法カジノで大負けしてこのざまだ。その後も負けに負け続けて、今はお前にも負けそうになってる」
エラキノの瞳から生命の光が消え、その肩から滝のように噴き出していた血が止まる。
生命活動を停止したのだ。
だがGMは彼女の口を借りて吐き続ける。己が持つ決意と意志を。
「だがな、こんなところで終わらせねぇ! 俺には目的がある! 最後にはこのゲームに勝って、夢を叶えるんだ! だからよぅ――伊良拓斗」
しんと、戦場にもかかわらず静かな時がそこにはあった。
誰も命令されていないのにもかかわらず、両勢力は自然とその手を緩めて事態の推移を見守っている。
まるで、これこそが両者の勝敗を決める本物の戦いだとでも言うかのように。
「勝負だ。――やってみろ。俺を呪い殺せるんなら、いま殺してみろ!」
「んっ、あ゛あ、良かったね。そんなまほうは――ない」
拓斗が答えるには、少しだけ間があった。
喋り慣れていないのか、それとも別の理由か。
繰腹の啖呵を向けられた彼はそれだけを告げ、押し黙る。
そこには、かすかな動揺が見られた。
「はは、はははっはは……」
男の、GMの渇いた笑いが響く。
それは感嘆か、それとも安堵か。いくらか笑い続けたGMは、しばらくしてから笑いを止めて感慨深そうに空を見上げた。
「はは、ずっと負け続けの人生だったんだ。何をやっても上手くいかず、いつの間にかこんな訳の分からないことに巻き込まれている」
ここではないどこかの場所。
椅子とテーブルと、テレビのようなものだけがある暗い部屋で……。
繰腹はあらん限りに叫んだ。
「けどなぁ! あるんだよ! 俺にも意地が! 腹をくくるって、次は情けない生き方はしねぇって! 全力で足掻いてやるって、死んだあの時に決めたんだよ!」
=GM:Message===========
GM権限行使。
全ての戦闘を停止せよ
―――――――――――――――――
「俺の勝ちだ! 俺は賭けに勝ったんだ!」
=GM:Message===========
GM権限行使。
マイノグーラ軍勢の排除。
神光国レネア勢力の復活と完全回復。
神光国レネアを取り巻く全ての悪影響の排除。
―――――――――――――――――
死したる者たちが再び立ち上がり、神の国に再度光がもたらされる。
あれほど居た魔物たちやダークエルフが全て消え去り、かつての平穏が急速に取り戻されていく。
=SystemMessage==========
全処理が終わりました。
プレイヤーの削除はGMの権限を越えているため、スキップされます。
―――――――――――――――――
「……やっかいだな。でもこれならどうだ?」
=GM:Message===========
GM権限行使。
伊良拓斗の《名も無き邪神》としての能力の封印
―――――――――――――――――
「どうやら、これなら大丈夫そうだ」
気がつけば、拓斗は聖なる軍勢に囲まれて教会の壇上で一人寂しく立ちすくんでいた。
こうして彼は全てを失った。
仲間も、配下も、その能力も……全てだ。
「いくら負け越してもたった一度大勝ちすれば全てちゃら。それがギャンブルのいいところだよな。まさにダイスの神さまさまってところだ」
ここに勝敗は決する。
繰腹は高らかに宣言する。自らが賭けに勝ち、運命を切り開いたことを。
決着は意外なほどあっけなかった。
彼の判断が全てを決める鍵だったのだ。
イラ=タクトは、ただでまかせとハッタリでここまでなんとかたどり着いた詐欺師未満の愚か者。
それが、導き出された結論。
「もうお前に勝ち筋はない。ゲームオーバーだ、伊良拓斗」
レネアの聖女が、聖騎士が、そして彼が愛した魔女が見つめる中。
敗北の宣告が無情にも突きつけられる。
たった一人になった拓斗は、その言葉にただただ狼狽えるだけだった。
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