第八十七話:名も無き…(1)

 三つの影がレネアの空を疾駆する。

 一つは汚泥の魔女アトゥ、一つは啜りの魔女エラキノ、一つは顔伏せの聖女フェンネ。

 この場にはいない聖女ソアリーナを案じ、その内に秘めたる膂力とGMによる援護が許す限りの速度で都市の屋根を凄まじい速度で駆けていく。


 その姿に気づいた眼下の人々が指を指す暇も与えぬ程の中、アトゥは風切り音を吹き飛ばすように仲間の二人へと声をかける。


「簡潔に言います! イラ=タクトの英雄としての名は《名もなき邪神》! その性質は――」


 ダンッと屋根を蹴り一跳躍。数十メートルはあろうかという大通りを安々と飛び越えたアトゥは大きく息を吸い込み叫ぶ。


「名前が無いゆえに誰でもなく、同時に誰でもあること!」


 《名前の無い邪神》については『Eternal Nations』においてもその設定が記される場所が非常に限られる。

 そもそもゲーム上におけるデフォルトの指導者という存在はプレイヤーを世界に没入させる為にその設定が極めて限定的だ。

 これがイスラなどの指導者として使用できる英雄であれば話は別だが、こと《名も無き邪神》については、『Eternal Nations』における様々なデフォルト指導者の中でも群を抜いてその存在が未知に包まれていた。

 ただ一つだけハッキリとしていることは……。

 マイノグーラの神である以上、それが世界に対してありえぬ程の害をもたらすということのみである。


「おそらくその権能は完全模倣! ゲーム上ではあまり詳しく明示されていませんでしたが、状況や行動を踏まえるにそうとしか考えられません! 本来はありえぬがゆえに判断に窮していましたが、もはや確定的です!」


 アトゥがその結論に達した理由はいくつか存在している。

 まず第一に『Eternal Nations』における膨大なストーリーの中に存在している、《名も無き邪神》が相手になりきる能力を有しているというごく僅かな描写から。

 第二に、本人たちにしか到底不可能であるレベルの情報操作を拓斗が行っていたという事実。

 そして極めつけは、イベントの行使。

 それはRPG勢力であるブレイブクエスタス魔王軍の専売特許だ。

 先の情報開示請求でシステムより通達された「騎士団員殺害事件を追え!」というイベントが果たしてブレイブクエスタスにて存在していたイベントなのかどうかはアトゥに知る術はない。

 だが一つ確実なのは、魔王が討滅されその配下が全て排除されたブレイブクエスタス魔王軍に置いて、イベントを行使出来るものはいない。ゆえに唯一の例外としてイラ=タクトが行ったと判断するしかほかならないのだ。

 かつて自分たちを苦しめ、英雄を一人死に追いやった強制イベント。

 すでに終わったはずの過去が、死人のように蘇り彼女たちを苦しめていた。


「けど! ならどうしてマスターが見破れなかったの!? そんなのありえないぢゃん!!」


「言ったでしょう! 本人だと! おそらくイラ=タクトが宣言し模倣した存在は、全てデータ上で本人と設定されるのです!!」


 本人をいくら疑ったところで、本人であるがゆえに模倣を見抜くことはできぬ。

 もはやそれは模倣ではないのだ。何者にもなれぬ邪神が、何者かになろうとあらゆる情報をそうあれと偽る。

 そこに一切の疑念を挟む余地はなく、まるで呪いのように現実を書き換える。

 それが《名も無き邪神》という存在であった。


「本人なんですよ! だから偽の命令書も作ることができた! だから騎士団員に気づかれることなく近づくことができた! だから――」


 一呼吸おき、叫ぶ。


「私たちに混ざり、その対策の一挙一動を観察することができた!」


 その言葉に、フェンネとエラキノは言葉を失う。

 そしてこの世界のどこでもない次元の狭間に隠れこもり、この状況をつぶさに観察するGMもまた、そのありえぬ能力に絶句する。


《名も無き邪神》は全てを模倣する。

 いや……模倣という言葉はそれを表すのに些か不適だ。

 それは自らをそうであると定義した瞬間、それになるのだ。その能力は盤上に置いて絶対。


 アトゥがエラキノの持つ啜りの能力によってその所属を強制的に変更させられたように。

 イラ=タクトという存在の定義が根本から書き換えられている。

 相手が完全に本人であるからには、並大抵の方法でその違いを看過することは不可能だろう。

 よしんば、《名も無き邪神》など存在していないと思い込んでいる状態ならばなおのこと……。


(けど、だとしたら拓斗さまは――)


 ぎりっと歯を軋ませ、アトゥはその足に力を込める。

 その表情は、何故か悲痛さが溢れ、瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。


 ………

 ……

 …


 開け放たれた扉の先には、ソアリーナ唯一人が呆然と立ち尽くしていた。

 教会の礼拝堂は事前情報通りに荒れ果てており、盗人でも入ったのかボロボロに破壊された椅子と装飾品が根こそぎ奪いつくされたであろう内装が、忘れ去られし物が持つも有る種の物悲しさを引き立てている。

 天井は一部が崩れ落ち、空いた穴から入り込む陽の光が幻想的な光景を作り出している。

 その光の下、ソアリーナは司祭が説法を行う壇上の前にいた。


 その場にいるのはただ一人、華葬の聖女ソアリーナ。

 いや、その場に生きているものはただ一人と訂正せねばならぬだろう。

 なぜなら、その胸に大きな穴を空け、憤怒と絶望の表情で血の海に沈み絶命している聖騎士フィヨルドの遺体がそこにはあったのだから……。


 誰かの息を飲む声が聞こえた。

 目の前の聖女は、ぼんやりとした視線で眼下に倒れ伏すフィヨルドを眺めていたかと思うと緩慢な動作でアトゥたちに視線を向け、やがてポツリと呟いた。


「あっ、エラキノ……」


「ソアリーナちゃん!」


 その言葉にエラキノが叫びを上げる。

 間違いなく何かがあったことは明らかで、フィヨルドが地面に倒れ伏している様子からも何者かから襲撃を受けたことは間違いなかった。


「大丈夫だった!? 怪我はないっ!?」


「ええ、問題ありません。ただ聖騎士フィヨルドさまが……」


 その安否を心から案じていたエラキノは、両隣にいる仲間の気配が変わらず強い警戒を抱いていることも忘れ、駆け出す。


「まっ、まちなさ――」


 フェンネが慌てて声をかける。

 アトゥがエラキノの突発的な行動にその瞳を見開き驚愕する。


 全員が一瞬、一瞬騙された。

 ずっと警戒していたにも関わらず、ソアリーナを見た瞬間それがどちらであるか判別がつかなかった。

 奇妙なまでに仕組まれた密会。そして倒れ伏すフィヨルド。

 その状況全てが目の前のソアリーナが真実ではないと告げているのに、もしかしたら……というありえない懸念が沸き起こり、行動を止めた。

 この一瞬こそが致命的。

 刹那の時におけるミスが命に直結する超常者たちの世界に置いて、三人は理解していながらも、エラキノがソアリーナへと駆け寄ることを止められなかった。


 だから――。


「迂闊に過ぎますよ、エラキノ」


 その結果は当然だった。


「がっ!!」


 ドスンという衝撃とともに口から血が吐き出される。

 腹に強烈な熱と痛みを感じ、エラキノはようやく自らがソアリーナから攻撃を受けたのだと理解した。


「な、なんで――」


 くすくすと、目の前の女が笑う。

 エラキノの友人であり、かけがえのない人であり、命に代えてでも助けるべき人が……。

 彼女の大切な友達、ソアリーナが。

 いや、違う。

 へばりつくような異質な認識を意志の力で引き剥がし、エラキノは目の前の相手をにらみつける。


「簡単すぎませんか? 本当に雑魚なんですね……」


 いつしか誰かに言った言葉が、そのまま自分に返される。

 友の顔で、侮蔑の籠もった言葉が投げかけられる。

 すぅっと掲げられたソアリーナの右手は血に濡れ、だがまだ足りぬとばかりにエラキノの頭蓋を砕くべく振り下ろされようとしたその時。


「させるかぁぁぁぁぁ!!」

「神よ! 我が瞳に魔を払う奇跡を与え給え!」


 エラキノの本当の仲間が、彼女の窮地を救った。

 振り下ろされたソアリーナの腕がバチィという強烈な破裂音とともに弾きあげられ、同時にエラキノに巻き付いた触手が凄まじい速度で彼女を引き戻す。


=GM:Message===========

ゲームマスター権限行使。

魔女エラキノのHPを全快します。

―――――――――――――――――


 次いで《裁定者》の能力が発動し彼女の傷を完全に修復する。

 結果として見れば、この場所に突入した時と同じ状況まで戻ったと見えよう。

 だがエラキノが受けた衝撃は生半可なものではなかったらしく、顔を青ざめさせながらその場にうずくまっていた。


「がはっ! げほっ! げほっ! こほっ……」


「大丈夫ですかエラキノ!?」


「だ、だいじょうぶ。間一髪助かったよ……」


 刹那の攻防でこちらの首を狩りに来た。

 分かっていながらも、相手の先手を許してしまった。

 ソアリーナの攻撃を弾いたフェンネ、エラキノを引き戻したアトゥ。

 そして彼女の傷を癒やしたGM。

 一人でも欠けていれば、エラキノはこの場より失われていただろう。

 相手の……イラ=タクトの持つ異質な気配と攻撃に、この場にいる誰もが口を開けずにいる。


「くすくす……失敗してしまいました」


 朽ちた教会に笑い声が響く。

 およそソアリーナが出すには不釣りあいな軽薄な声音。

 本人であるはずなのに本人ではないかのような、そんな悍ましい音色がその可憐な口より汚泥の如く流れ落ちる。

 ふと向けられた視線に心臓を鷲掴みにされたかのような怖気が走り、だが同時にまるで何者かに強制されているかのように目の前の存在をソアリーナであると認識する自分たちがいる。

 ああ、どうしてあれをソアリーナだと思ってしまうのだろうか。

 ああ、どうしてあの心優しく民を思う娘の笑顔を思い出してしまうのだろうか。

 その顔はべっとりと、まるで世界から切り離されたかのように黒い影で塗りつぶされているというのに……。


「迂闊すぎるわよエラキノ! その可能性は説明されていたでしょ!」


「あっ、いや……だって!」


「いいえ、残念ながらエラキノを責めることはできません。これが、これこそが《名も無き邪神》の能力。情報として知っていようが、心が誤った認識を継続している。洗脳でも認識阻害でもない、本人であるがゆえにそうとしか判断できない力。当たっていて欲しくなかったですけどね……」


 思わず叫ばれたフェンネの叱責にアトゥは否定を持って説明する。

 自分たちもまた、一瞬の遅れを生じさせ窮地に陥っただろうと。


 それは、想像以上に厄介な能力であった。

 目の前にいるのはソアリーナではない。間違いなくイラ=タクトである。

 だがソレがソアリーナとして振る舞っている限り、本人であるとして認識される。

 意識を強くもって疑念を打ち払う、もしくは本人だったとしても殺す気で当たれば解決するかと思われるかもしれない。

 だが違う。いくら拭い去ったとしてもそれは少しでも気を抜くと心の奥から湧き出てくる厄介さを有している。

 加えてソアリーナはどこまでいっても彼女たちの仲間だ。

 そして仲間を攻撃するべき手を彼女たちは持ち合わせていない。

 愚かにも魔女と聖女がこれだけ揃ってなお、甘さを捨てられた者は一人としていなかったのだ。


「迂闊に……手を出すのは危険ね。アトゥ、あなたは何か対策が考えられるかしら?」


 フェンネはアトゥに助言を求める。

 イラ=タクトと一番親しい彼女であれば、何らかの対策を導き出すことが出来るのではないかと考えたのだ。

 もっとも、このような状況下にあってなぜ目の前のイラ=タクトが行動を起こさないのか終始不思議であった。

 イラ=タクトは依然としてその場に佇んでおり、まるで様子を見ているとでも言わんばかりの態度に誰しもが寒気を感じる。


「ソアリーナをここに呼び出してください。おそらく……犯人の発見によりイベントは終わっているはず。GMの能力が通ります」


 アトゥはちらりと、もうひとりのソアリーナの反応に注意を向ける。

 すると彼女――そう表現して良いのか不明であるが、ソレはまるでどうぞとでも言わんばかりに手をゆっくりと前に出し促した。


=GM:Message===========

GM権限行使。

聖女ソアリーナをこの場に召喚。

―――――――――――――――――

=Message=============

華葬の聖女ソアリーナが全員この場に現れました

―――――――――――――――――


 果たして、皆が予想していた通りに本物のソアリーナはそこに現れた。

 アトゥの発言通りイベントはすでに終了しており、犯人の解明を阻む不可視の強制力はすでに消え去っているらしい。

 それも当然だ。今ここに本物のソアリーナがいる以上、壇上のソアリーナがイラ=タクトの模倣であることは明らかなのだから。

 だが……それでもなお、くすくすと嗤うあの顔が真っ黒なソアリーナが同じ仲間のように思え、エラキノたちは怖気を抱く。

 敵は、確かにそこにいる。

 戦いの狼煙はすでに上がっていた。


「え? 私は……どうして?」


 だがその前に、ソアリーナに確認せねばならないことがいくつかあった。

 無論本物に、である。

 フェンネは突然のことでわけが分からず目を丸くしている彼女へと矢継ぎ早に質問を投げかける。


「ソアリーナ。あなた、今までどこにいたのですか?」


「え? 国境地帯まで進軍しているフォーンカヴン代表者との交渉に向かうと伝えたはずですが……」


 ソアリーナは不思議でならなかった。

 現在自分は国境地帯における領土問題と、未知なる魔物の対処のために馬車に揺られて移動している最中のはずだ。

 休憩も必要だろうからと気を利かされ馬車の中では久方ぶりにゆっくりとした時間を過ごすことができていたのだが……。

 気がつけば目の前に数日前に別れたはずの仲間がいる。

 加えて、記憶にはない朽ちた教会らしき場所。

 自分は夢でも見ているのだろうか? 混乱というよりも、困惑が強かった。


「なぜそんなことに? せめて誰かに声をかけるべきでしょう!?」


「いえ、その、フェンネさまに直接ご挨拶をしましたよね?」


 そう、彼女は自分が責められている理由が分からなかった。

 ちゃんとした手続きは行ったし、仲間たちの了承も得た。

 何も問題なかったはずだ。なぜなら……。


「ええ覚えています。とても丁寧な、挨拶でしたね」


 フェンネは、確かに彼女に激励の言葉をかけてくれたのだから……。

 くすくすと、壇上のソアリーナが嗤う。

 その態度と言葉で全てを理解したアトゥとフェンネが顔を歪める。

 ソアリーナに偽りの命令を出し、この地から遠ざけていたのはフェンネを模倣したイラ=タクト。

 彼女はその間にソアリーナになりすまし、悠々と彼女たちの仲間として振る舞っていたのだ。


「え? 私? こ、これはどういうことでしょうか!?」


 もうひとりの自分を発見したソアリーナがぎょっとした表情で動揺の声をあげる。

 説明する間も惜しく、相手の行動を警戒するのであればそのような余裕はない。

 だが今の彼女たちにはどのような無法も貫き通せる必殺の御業が存在していた。


「GM。裁定者の権能でソアリーナに事情を説明して下さい」


=GM:Message===========

GM権限行使。

聖女ソアリーナを一連の事情を把握した。

―――――――――――――――――


 瞬間。

 ソアリーナの脳裏に全ての出来事が刻み込まれ、破滅の王がこの国で演じていた恐ろしい企みを理解させられる。


「ば、ばかな……こんなことが!」


 その驚愕にソアリーナの瞳が揺れる。

 この場がすでに戦場であると叱責するものは誰もいない。

 なぜなら、その驚愕はエラキノたちがすでに経験したことでもあるのだから……。


「これで主だった役者は全員揃いましたか……」


 ソアリーナ……否、イラ=タクトが嬉しそうに呟く。

 その口調と声音がどこまでもソアリーナ本人と似ており、強い違和感と不快感をエラキノたちにもたらす。


 ただそれ以上に、相手が何も行動を起こさないのがひどく不気味であった。

 床に倒れ伏すフィヨルド騎士団長へと視線を向ける。

 床一面に広がるその血は明らかに人が流して良い許容量を超えており、ピクリとも動かぬその真っ白な肌から彼の生存が絶望的であることが容易にわかる。

 ソアリーナは騎士団長によって内密の話があると呼び出されたとアトゥたちは説明を受けた。

 つまり彼はいち早くイラ=タクトの企みに気づき一人でこの問題を解決しようとしたのだ。その結果がこの有様。

 無謀にも程がある……だが今は彼の心の内を慮るには時間が足りなすぎた。


 ここが分水嶺。迂闊な行動は死と破滅をもたらす。

 アトゥは相手の意図と出方を見極めるために慎重の言葉を選び目の前の存在へと声をかけた。


「ずっと私たちを観察なさっていたのですね拓斗さま。それよりも、《名も無き邪神》イラ=タクトと言った方がよろしいでしょうか?」


「好きに呼んでくれて構わないですよ。そちら側になったアトゥには、アトゥなりの立場というものもあるでしょうから」


 ソアリーナの姿でクスクスと嗤うイラ=タクトはアトゥが知る彼とは違ってまさに破滅の王に相応しき悍ましさと不気味さを有している。

 それが自分が敵対者となったからか、それともまた別の理由によるものか。

 判断のつかないアトゥは何か相手を攻略する糸口はないかと探りを入れ、最大の慎重をもって一斉に攻撃を行う機会を伺う。

 先のエラキノはただ運が良かっただけで、まだどんな手を相手が隠し持っているのか分かりはしないのだから……。


「配慮はありがたいですが、役者が揃ってなお何もなさらないのですね拓斗さま?」


「ええ、少し驚いていたのです。アトゥがとてもよく働いていると、あなたがいなければエラキノは今頃胴体と首が分かたれていたでしょう。そちらでもよく頑張っていますね」


 その言葉に少しだけ笑みが浮かび、だがすぐさまアトゥはその感情を捨て去る。


「私はあなたの敵です。依然として拓斗さまを敬愛しておりますが、かといって己の領分を違えることはありません。かつてあなたの配下だった者の言葉として申し上げます。どうか不忠をお許しください。あなたを――イラ=タクトをここで完全に滅ぼします。私と私の仲間のために」


 それは決別の言葉だった。

 どれほどの想いがそこには込められていたのだろうか。

 だが今まで時折浮かべていた悲しげな表情は失せ、そこには完全に戦士としての顔があった。


「……素晴らしいですね。それでこそ汚泥のアトゥ。私が信頼する唯一無二の英雄です」


 その決別に対し、ソレは心底嬉しそうにそう言った。

 イラ=タクトの言葉にアトゥは悲しみとも怒りともなんとも言えぬ感情を抱く。

 彼女の信じる拓斗はそのようなことを言うのだろうか?

 自分が裏切っていると言ってなお、このように冷静な態度で言葉を交わすのだろうか。

 一体自分の目の前にいる存在は、何者なのだろうか?

 だがそんな彼女の心のざわめきをまるで理解していないとでも言うかのように……。


 イラ=タクトは嬉しそうに手を叩いて喜ぶばかりであった。

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