第百三話:采配(2)
報告を受けると言うよりは、どちらかと言えばねぎらいにかけた時間の方が長かっただろう。
だが彼らの怒りと不満がすさまじかった分、事の詳細はわざわざ確認せずとも把握出来たのは幸いであった。
拓斗はヴィットーリオの行動を脳内で再現し、その意図がなんであるか推測を試みる。
当初彼が考えていた方向とはまた別の様相を呈する奇抜な作戦であったが。拓斗ならその真意を推し量ることができた。
「『邪教イラ』……か。ふざけた名前はフェイクだとしても、なんとなくやりたいことは見えてきた」
一通り、だが情報として入手していなかった部分までヴィットーリオの行動を確認できた拓斗は、少しばかり面白そうに笑うと皆が最も求める言葉を告げた。
アトゥを、そしてマイノグーラの住民を今日まで悩ませてきたヴィットーリオの行動の真意が判明する。
すなわちそれは現在マイノグーラが行っている戦略の詳細が明らかにされるのと同意義であるのだから。
加えておおよその予想はついてきたものの、拓斗の記憶が失われたことの原因と、その対処法が判明することも意味している。
むしろ配下の者達にとって、そちらの方が重要なのかもしれない。
「拓斗さまの健康が回復したことと何か関連性があるのでしょうか? 正直、アレの行動は突拍子もないものばかりで、私にはどういう意図があるのか到底分かりませんでした……」
「もちろん意味はあるよ。僕の体調が回復したことと明確な関連性がある。まぁ有り体に言うと、信仰を集めることが重要なんだ」
拓斗の健康を第一に考えるアトゥとしては、なんとしても事の詳細を確認したかった。 確かに今回は結果としてアトゥは無力だった。だが仕組みさえ知っていれば今後同じ問題が発生した際に対処することも容易だ。
その点で言えば、拓斗の答えは彼らにとって示唆に富むものだった。
つまりヴィットーリオの行動は明確に拓斗復活を支援するものであったという事実である。この答えが得られた時点でヴィットーリオが考えなしの行動をしていたり、また拓斗を回復させる以外の目的を持っていたりした可能性が消える。
「信仰――すなわち祈りが王の力の源になると言うわけですな」
いち早く気づいたのは、モルタール老であった。
拓斗に次いでヴィットーリオが召喚されたことでその知恵の順位は一つ下がってしまったが、それでもなお年月によって裏打ちされた知は他の追随を許さない。
今までの情報をまるでパズルのようにくみ上げ、一瞬にしてその答えに至った。
そして答えさえ提示されてしまえば、ここにいる者たちにはその意味をくみ取ることは比較的容易だ。
「つまり、ヴィットーリオは拓斗さまを称える宗教を新たに創設することによって、より多くの信仰を拓斗さまに集め、そのお力が戻るように差配したと?」
アトゥが少しばかり不思議そうに考えながら、自らの推論を述べる。
彼女自身はあまりピンと来ない理屈ではあったが、考える限り祈りが拓斗の力の源となるらしいのは確からしい。
事実、彼は現在復活している。
指導者としての能力を振るうことはまだ無理なものの、こうやって元気に皆と会議を行うに至った事実は覆しようがない。
「大枠としては正解だよ。破滅の王イラ=タクトとしての力は信仰に依存している――いや、僕が有する《名も無き邪神》が信仰を力の源としていると言った方が確かだね。祈りを向ける人が多ければ多いほど力も回復するわけだ」
すなわち……。
イラ=タクトはプレイヤーであり、マイノグーラの指導者として存在している。
そして『Eternal Nations』というゲームの中においてマイノグーラの指導者は《名も無き邪神》として設定されていた。
《名も無き邪神》は神だ。
神であるがゆえに、その力の源はその存在を信奉するものによる祈りの力によって支えられている。
無理に力を使った事による消耗が発生しているのなら、信仰心を高めることによってその力を回復させればよい。
これが拓斗の示唆によって賢き者たちが導いた結論だった。
「つまり、これから王の信奉者が増えるに連れ、王はそのお力をどんどんと取り戻すことになると?」
「むしろマイノグーラの国家規模はまだ数千人。それであれだけの奇跡を起こされたのですから、さらに王を崇拝する人が増えたらもっとすごいことになるんじゃ?」
「むぅ……なるほど、良い着眼点じゃエムルよ。そう考えると、より狂信的な信仰を捧げる者を生み出す国家宗教の設立も必然的にその意味が理解できよう!」
モルタール老とエムルの二人。話になんとかついて行ける者たちが盛り上がりを見せる中、アトゥは周りを見渡す……。
ギアやエルフール姉妹などはそもそも話が難しくてついていけないようではあったが、話についていける二人は納得がいったとばかりに感心と敬愛の念を深めている。
もっとも、彼らは《名も無き邪神》という存在を、《破滅の王》同様に拓斗が持つ顔の一側面であると考えているようだったが……。
とうの拓斗は肯定するでも否定するでも無く、穏やかな笑みを浮かべそのやりとりを見守っている。
(本当に、そうでしょうか?)
アトゥは……どうにも納得がいかなかった。
確かに《名も無き邪神》は神である。
『Eternal Nations』の設定でもそうあるし、《完全模倣》もまたゲーム上では動作しないものの設定としては確かに存在した。
だが彼女の知る限り……『Eternal Nations』における神という存在が、その力を信仰に依存しているなどどこにも記されてはいなかった。
(拓斗さまは何かを隠している? だとしたら……なぜ?)
その感情は、不信と言うよりは困惑に近かった。
アトゥはギアやエルフール姉妹と同様に頭に疑問符を浮かべつつ、ふと以前拓斗へ尋ねた問いを思い出していた。
レネア神光国で彼が模倣したソアリーナと対峙して以降、ずっと心の奥に刺さっていた小さな棘のような疑念だ。
すなわち――伊良拓斗という存在は、《名も無き邪神》という『Eternal Nations』のユニットがその能力で模倣しているだけの偽物なのではないか?
本当の拓斗などどこにも存在せず、ただゲームのキャラクターである自分たちだけが滑稽に踊っているのではないか? と。
そうでは無いと否定して欲しくて、信じているのにどこか不安で。
質問する際は決死の覚悟であった。
だが答えは意外な程に簡単で、拓斗はいつものように彼女が好きな優しい笑みを浮かべて安心して欲しいと答えたのだ。
大丈夫、伊良拓斗という人間は、ちゃんと君が知る伊良拓斗だと。
本当に全て幻でゲームのキャラクターだけが自意識をもって動いているのだとしたら、GMなんて存在しないしこんなに苦労することはなかったと。
伊良拓斗が存在しないのであれば、そもそも二人で一緒に乗り越えた数々のプレイに関する記憶も存在しないはずだと。
僕らが歩んだあの輝かしき日々は、決して嘘偽りの無い本物だと。
その時の言葉が、なぜか今になって思い起こされる。
(拓斗さまはこのような時に嘘をつくお方ではありません。ですが……)
あの日、彼は同時に言ったのだ。「これは二人だけの秘密だよ。あんまり人に言いふらしたら恥ずかしいから、ゲームをプレイしていた時の話は誰にも聞かれないようにしよう」と。
――再度、指切りまでして。
その時は特別な扱いに舞い上がったし、確かに今はどうあれ当時ゲームのキャラクターでしか無い画面の中の自分に一方的に話しかけるのは恥ずかしい思い出だろうと納得した。
今はそれが疑問に思う。
そこまで念押しする理由は、果たして恥ずかしいという想いによるものだけだろうか?
否――。
おそらく聞かせたく無い相手は、聞かれてはいけない相手は、他ならぬヴィットーリオ。
拓斗は、まだ何かを隠している。
それが何か分からず、アトゥはチラリと拓斗の横顔をうかがってしまう。
「ん……どうしたのアトゥ?」
「あっ、い、いえ! なんでもないです!」
慌てた返事に「そう、ならいいんだけど」と答え、拓斗は思わせぶりにアトゥに向かってウィンクして見せた。
その仕草で――二人だけの合図でアトゥは自分の考えが正しいことを納得する。
ヴィットーリオの目的は、完全に拓斗の意に沿ってはいない。
彼の主と同様に、その目的の中に自然と分からぬよう、別の目的を滑り込ませている。
それはきっとマイノグーラの、いや……拓斗の未来を左右するものだ。
拓斗は、きっとその事実に勘づいているのだろう。だからこそ真実を全て話さなかった。
拓斗とヴィットーリオ。二人の考えは依然として知れない。
だが互いの手札を読み合う知恵の戦いは、すでに始まっているように思われた。
「――さて、少し話が逸れてしまったけど続けるよ? ヴィットーリオの目的は判明した。とは言えそのまま放っておくのもまた問題だ――その上で、少し確認をしたい。教典はあるかい?」
「ええっと……教典、ですか?」
オウム返しでアトゥが尋ねる。
少しばかり話の流れが突拍子だったような気がしたからだ。
アトゥの言葉を意図が伝わらなかったかと勘違いした拓斗は、あーっと言いながら軽く天井に視線を向け考える仕草を見せる。
「聖書と言った方がわかりやすいかな? ああ、邪教だから邪書? まぁなんでもいいや。とりあえずそれを読んでみたいんだ。もしあるなら持ってきてくれるかい?」
アトゥは周りを見渡し、誰か教典を入手していないかを確認する。
だが他の者たちもアトゥと同様の態度を見せていることから当てにはならないようだ。
あれほど嫌ったヴィットーリオの行動を一挙一動観察し、その詳細を把握しておくなど彼らの内心を慮れば少しばかり無理難題だったかもしれない。
もっとも王が復活して冷静さを取り戻した今となっては、それすらもヴィットーリオが用いた策の一つだったのかと考えてしまうのだが……。
だがどうして?
無駄に長ったらしい宗教――『邪教イラ』の教義はわざわざ調べずとも比較的多くの情報が集まっていた。
その内容は単純だ。とにかくひたすら神であるイラ=タクトを称え、敬うものだ。
わかりやすく言えば、イラ=タクトはすごい! かっこいい! つよい! むてき! さいきょう!
これが教義である。子供でも分かる内容で、むしろ子供でも分かるからこそ伝播する速度には驚異的なものがある。
わざわざ教典という形にせずとも、とりとめて重要な意味を持つものではないと思われたのだったが……。
アトゥが言葉にせずに不思議そうに拓斗へと問いの視線を向ける。
「――興味があるんだ」
本当に興味深そうに、何かを楽しみにするように、拓斗は軽く笑いながら答える。
ただなるべく早く欲しいと付け加えたその言葉からは、教典が重要な意味を持つことは明らかだ。
玉座から決して動くこと無く、破滅の王の一手は放たれようとしていた。
=Eterpedia============
【酒池肉林】建築物
人口増加率 +10%
都市幸福度 +10%
食糧消費量 +20%
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~酒と食い物で一日中どんちゃん騒ぎ
一夜の過ちも起ころうものさ~
酒池肉林はマイノグーラ固有の建築物です。
住民の幸福度と人口増加率にボーナスを与えますが、反面食糧の消費量が増加するデメリットがあります。
前提条件として【人肉の木】の建築が必要です。
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=Eterpedia============
【工房】建築物
都市生産力 +20%
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~鉄の量こそが、国家の運命を決める~
工房は都市の生産力を増加させます。
また、特定の武器や建築物を生産するのに必要となります。
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=Eterpedia============
【見世物小屋】建築物
都市幸福度 +5%
都市文化力 +5%
都市収入 +5%
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見世物小屋は主として大道芸人がその技を披露する場所です。
文化力を増加させる効果があり、都市の規模に応じて僅かながら収入も発生します。
邪悪国家ではごくまれに敵対国家の捕虜などが展示されることもあり、この場合善国家からの評価が下がります。
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=Eterpedia============
【異形動物園】建築物
都市幸福度 +10%
都市文化力 +20%
都市収入 +10%
※《出来損ない》の生産が解禁
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――エサをあげられます! さぁオリの中に入って!
大丈夫、エサをあげられます! ほらどうぞ、オリの中に入ってください!
さぁ早く! オリの中へ! 彼はお腹がペコペコなんです! エサをあげてください!
~異形動物園の従業員~
異形動物園はマイノグーラ固有の建築物です。
他では決して見ることの出来ない、およそ動物とは言いがたい異形の存在が展示されています。
この建物は都市の住民の幸福度を上げる効果があり、都市の規模に応じて収入が発生します。
また、戦闘ユニットである《出来損ない》の生産が解禁されます。
高い能力を持つ建築物ですが、反面建築コストは膨大になるので注意が必要です。
―――――――――――――――――
=Eterpedia============
【破滅の精霊】魔術ユニット
戦闘力:7 移動力:1
《破滅の親和性+1》
《邪悪》
※《六大元素》の研究完了で解禁
―――――――――――――――――
精霊……?
はっ、あれが精霊だって? 馬鹿も休み休み言え。
あれが精霊なものか。あれはもっとそう……、良くない何かだ。
~エルフの精霊術士~
破滅の精霊は六大元素の解禁によって生産出来る魔術ユニットです。
一般的な魔術師と変わりはありませんが、破滅の親和性を持っているため破滅のマナの増加によって戦闘能力が強化されます。
また、全魔術属性に適性があるため、戦略に応じて軍事魔術を習得させることができます。
―――――――――――――――――
=Eterpedia============
【出来損ない】戦闘ユニット(魔獣)
戦闘力:13 移動力2
《捕食》《人肉嗜食》《再生》《邪悪》
※【異形動物園】で生産可能
※生産される土地の種別によって保有する能力を変える
森:《擬態》《先制攻撃》《不意打ち》
荒野:《追跡》《追撃》《看破》《包囲》
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説明が難しいな……。例えばさ、粘土で犬と猫と虫と鳥と人を作るとするだろう?
それらを全部ぐちゃぐちゃにして一つにまとめるんだ。
……それが一番近い見た目だよ。
~異形動物園の来園者~
出来損ないはマイノグーラ固有の戦闘ユニットです。
高い継戦能力と、多種多様な能力を有しています。
また、出来損ないは生産された都市の地形に応じた能力を獲得する特性を有しています。
そのため戦略に応じて【異形動物園】の建築都市を選ぶ必要があります。
生産コストは高いですが、どの地形で生産したとしてもコストに見合う能力を有している強力なユニットです。
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