第百三十七話 開場
その後の旅程は実に穏やかなものであった。
途中の旅館ではサキュバスの夜這いや色仕掛けが激しく対処に苦慮したが、それも案内役の二人の一喝によって霧散しある意味で平穏無事だ。
優の方は一騒動あって一時期アイとの仲が険悪になったこともあったが、その後すぐにまたいつもの通りのイチャつきを見せていたところを見るとサキュバスの誘惑もスパイス程度にしかならなかったのだろう。
そしてエル=ナー精霊契約連合に入国して数日が経過した頃。
ようやくエルフ達のかつての首都であり、現在サキュバスの女王ヴァギアが治める首都へと到着した。
(さて、ここからが本番……か。相手が何を言い出してくるのか、どのような大層な議題を持ち合わせているのか。楽しみでもある)
「アトゥ。一応方針を伝えておくよ?」
「あくまで今回の来訪は平和目的、相手が行動を移さない限りはこちらから手を出すことは固く禁じる……ですね?」
「ご名答、話が早くて助かるよ」
「ありがとうございます。我が王よ」
『それはそれとして、情報収集も怠らずに。できればサキュバス陣営含め、他陣営のプレイヤーが持つゲームシステムは把握しておきたい』
『ん~~! 今回はそれが目標ですなぁ! 相手を知り、己を知ればなんとやら。しからば戯れはほどほどにしておきますぞ!』
案内された宮殿の控え室でアトゥに対して念押ししながら、内密の話を念話で行う。
どこに耳があるか分かったものではない。こういう時に誰にも聞かれずに相談ができる念話は防諜の面でも非常に有用だ。
今回の会議、一応の名目は平和の為の話し合いだ。
隙あらばという思いは常に持ちつつも、積極的に打って出るつもりはなかった。
誰も彼もがここにいる拓斗とアトゥを本物だと信じて疑っていない以上、手札は温存しておくに限る。それが拓斗の判断だ。
「話によると会談は明日……か。果たしてどんな人物が来るのか。興味は尽きないね」
拓斗はそう独りごちる。
その言葉にアトゥが頷き、沈黙だけが残る。
この大陸に何らかの思惑で召喚されたプレイヤー。
その全てが集まるであろう全種族会議は、もうすぐそこまで迫っていた。
………
……
…
エル=ナー精霊契約連合首都。
その中央に位置するテトラルキア評議会、審議場
拓斗達が案内されたのはかつてエルフの長達が国家の方針を決定する場所であった。
中央に存在する世界樹と呼ばれる巨木、その最上部に建造されたそれはエルフの威風を全世界に示すかのごとく荘厳で、また同時に精霊との調和を示すかのように自然にあふれていた。
淡い緑の光が辺りに漂い、濃密な魔力がこの場所が持つマナ源としての価値を存分に示している。
マイノグーラの宮殿も破滅のマナを生み出す機能がある。
この世界樹に作られた評議会も同じ機能を有していることは明らかであったが、その規模に関しては残念ながらこの国に軍配が上がるだろう。
少なくとも、今のマイノグーラ宮殿のレベルでは到底太刀打ちができない規模であった。
(エルフの国の最重要施設だろうに、ずいぶんと気前よく敵を招き入れる……)
逆に言えば、それほどこちらに譲歩しているともとれる。同時に懐で何か騒ぎ立てられた程度では自分たちの地位は揺るぎないと考えているのかも知れないが……。
どちらであるかはこれから分かるだろう。
少なくとも大陸全てを巻き込んだ全陣営会談というご大層なイベントの会場としては十分であると言えた。
巨大な木星の円卓に、他陣営の人々が案内される。
見知った顔は……優程度だ。クオリアの人間を知らないのは当然として、フォーンカヴンも拓斗の知らぬ人間だった。
どうやらペペが先に言ったとおり、代わりの使者を送ってきたらしい。
他は……。
(予想よりも参加者が少ない? それにあれは……?)
他プレイヤーの人相を知っておきたかったが、今のところ見当たらない。
その代わり、テーブルの上に不思議なオブジェクトが設置された席はいくつかあった。
その一つが粉々に砕けているのを見た拓斗は、その席が何を意味するのかをなんとなく察する。
自分と同じくすでに理解しているだろうが、念のために共有しておくかとヴィットーリオに念話を行おうとした時だった。
扉がぎぃっと開き、拓斗達を案内してきたサキュバスが二人入室してくる。
「ようこそ会議の場へ! 全国家会議への参加。心より感謝するわ♥」
同時に、彼女たちの背後からある意味でよく見知った、けれども初めて会うサキュバスが現れる。
そして、世界の命運を決める会議が始まった。
=Message=============
【イベント】全陣営会談
全陣営会談が開始しました。
各陣営の参加者は己の利益の最大化を目指し、本会談に挑んでください。
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