第九十三話:愛

 全てが巻き戻された時の中で……アトゥは何もかもを忘れて拓斗へと駆け寄った。


「拓斗さまっ!」


「アトゥ!」


 自らの主の胸へと戸惑いなく飛び込むその姿はまるで物語のヒロインの様で、受け止めた拓斗もその積極的な姿に一瞬戸惑いつつも顔を綻ばせる。


「ああ、良かった。ずっと心配していたんだ。本当に戻ってきてくれて嬉しいよ」


「私こそ……ご心配をおかけしました拓斗さま! ですがっ! 私をこの牢獄から必ずや助け出してくれると信じておりました!」


 はたして巻き戻りは彼女の心のどこまで起こったのだろうか?

 それとも、彼女の中にある疑念は所属が戻ったことによって霧散したのか。

 とにかくアトゥは感動に打ちひしがれており、このような絶望的な状況下ですらものの見事に敵を欺き翻弄してみせた主に対していつにも増して感動と忠誠心を抱いていた。


「まるで囚われのお姫さまなのです」

「本気で殺しにきてたのにねー」


 反対に、終始この男女に翻弄し続けられた双子の少女は不満気である。

 とは言え、彼女たちとしてもアトゥが戻ってきたことは喜ぶべきことだったらしく、文句は言いつつもその顔には笑顔が浮かんでいる。


「王よ、此度の作戦における戦士団の目標。全て達成にございます」


「ああ、ありがとう」


 そんなある意味で朗らかな雰囲気を切り替えるように、いつの間にか側にやってきたモルタール老が膝をつきながら報告をしてくる。

 わざわざそこまでしなくてもと思った拓斗だったが、モルタール老本人がアトゥ同様に拓斗の鮮やかな手腕と力に感服していることには気づかなかった。


「さて。ここまでくればあとは消化試合だね。実に上手くことが運んでくれた」


 TRPGのシステムは、拓斗にとっても最良の形で巻き戻しをおこなってくれた。

 聖騎士たちはみなが傷つき倒れ、あるものは忘却に狂い、あるものは疫病に悶え苦しんでいる。

 復活したはずの聖騎士団長フィヨルドは、まるでそのことが夢であったかのように戦場の片隅で絶命しており、傷から回復したはずのフェンネは倒れ、ソアリーナは疲労困憊の状態で膝をついている。


 反対にマイノグーラの軍勢は全てが無傷と言っても良い状況だった。

 無論足長蟲やブレインイーターにいくらか損耗はあるが、ダークエルフの戦士団やモルタール老などの重要人物に被害は一切ない。


 システムは、繰腹慶次が《裁定者》の能力で持って不当に得た結果を元に戻したのだ。それもTRPG勢力にとって益となっていた結果だけを選択的に。

 だからこそ、こちらが与えたダメージは確かに残り、GMによって回復されたという現象だけが取り消されている。


 光の国の軍勢は、もはやその戦力を保てぬ程に壊滅的状況だった。

 だからこそ拓斗とアトゥは先程のようなこの場に似つかわしくないやり取りをのんきに演じることができたのだ。

 ここはもう、彼らが気を張るべき戦場ではないがゆえに。


「つっ……」


「ど、どうかなさったのですか拓斗さま!?」


 拓斗の言葉通り後は消化試合。そう思われた時だった。

 彼は突然頭を抑え、頭痛を耐えるような仕草を見せた。

 その行動にいち早く気づいたアトゥが血相を変えてその肩を支え、様子を窺う。


「いや、少しばかり。無理をしたかもしれないね……」


 それは彼がフレマインに変化するときにも一瞬見せていた仕草だった。

 あらゆる姿を模倣するその権能。

 ゲームのシステムすら模倣してしまうそれは、使い方によっては強力無比な力を発揮する。

 その応用力は無限大で、手練手管に優れた拓斗が用いればまさに敵無し。

 アトゥの能力奪取とはまた違った形で猛威を振るうであろうその力が、なんのリスクもなしに使えるはずがなかったのだ。


「拓斗さま! まさかっ! 私を助けるために!?」


「いやまぁ、そうだけど……」


 アトゥはその事実にすぐさま気づいた。

 自らの主が自分を助けるためにどれだけの苦労を重ねていたのかを。

 彼が、どれだけの負担を感じていたのかを。

 その全てが……自分を助ける為に行われたのだということを。


「拓斗さまぁぁぁぁ!」


 アトゥは号泣した。まるで子供のようにびえーんと泣きながら拓斗に抱きつく。

 鼻水と涙でビショビショになった自らの服を見て流石に思うところがあったのか、拓斗はアトゥが傷つかぬように配慮しつつだがやんわりと自分から離す。


「はいはい、よしよし。というかまだ一応戦場だから離れてね」


「アトゥさん、こっちなのです」

「かくほーっ」


「ああっ! ご無体な~っ!」


 阿吽の呼吸でエルフール姉妹がアトゥを回収していく。

 彼女たちとしてもこのまま下手な恋愛演目を見せられても叶わないと思ったのだろう。

 さっさと終わらせて、さっさと帰りたい。

 それが二人が抱く、嘘偽りない本音であった。


「よし、じゃああと片付けして帰ろっか。ちょっと疲れたから、ゆっくりしたいよ」


 まるで仲間内でキャンプでもしに来たかのような、そんな軽い調子で拓斗が命令を下す。

 聖なる者たちはその殆どが傷つき、倒れ、この国の人々は双子の少女が撒き散らした疫病と忘却に今現在も苛まれているというのに。

 ただ、拓斗にとってはそれすらも日常の一コマに過ぎないのかもしれなかった。

 なぜなら彼は……破滅の王なのだから。


「そうそうモルタール老。今のうちに皆に命じて集合してもらってくれる?」


「かしこまりました。すぐに配下を集合させましょうぞ」


 ブレイブクエスタスの技でこの場に軍勢を呼び寄せたのであれば、その逆もまた可能であろう。

 拓斗がまるで自分たちを無視するかのように帰り支度を始めていることに、その場に残っていたエラキノは敗北を認められないとばかりに叫ぶ。


「まだ――まだ終わってねぇんだよぉぉぉぉ!」


 だが、残念ながら、すでに終わっていることなのだ。


「がはっ!!」


「本当に、もう終わってないと思っていたの?」


 飛びかかるエラキノを配下が排除する前に蹴り飛ばした拓斗は、片手をあげて配下を制するとゆっくりとその元へと歩いていく。

 ……エラキノの腹には大きな穴が空いており、片手は腐り落ちている。

 最初にソアリーナの姿を模した拓斗がつけた致命的な傷だ。

 GMによって理由なく不当に回復されたのだから、当然それらも元に戻されていた。


「GMの気配はすでに消えた。おそらく……こちらに干渉する手段を失ったんだろうね。直接始末をつけられないのは少し気がかりだけど。まぁこちらに降りてこない以上仕方ないか」


 かひゅー、かひゅー、と枯れた息を繰り返すエラキノ。

 魔女であるがゆえか、それともゲームにおける重要なキャラクターであるためか。

 その生命力はいまだ彼女をこの世にとどめていたが、遅かれ早かれその生命の灯火が消えることはその姿から明らかであった。


「君は……あくまでTRPGのキャラクターだ。全ての力はそのシステムの恩恵の下に発揮されている。GMの権限が剥奪された以上、たとえ君が傷を負っていなかったとしてもこれ以上生きていくことはできない」


 まるで無知なる者に言い聞かせるかのように、エラキノを見下ろしながら拓斗がその現状を説明する。

 無論、エラキノとてそのようなこと言われずとも分かっている。

 だからこそ憎悪に濡れた鋭い視線を拓斗へと向け、返答の代わりに罵倒を投げつける。


「くそが……他人の力を借りて粋がるだけの小物がっ! 調子にのって、いつか……いつか殺してやる!」


 その言葉に、また同じように無視を貫くかと思っていた拓斗は、突如大声で笑い出した。


「アハハハハッ! ここにいるみんな、誰も彼もが何かから力を借りているだけだって言うのに、変な事を言うね。まさか自分だけは違うと? あれだけGMの力で好き勝手やったのにさ! なにそれ、ハハッ、アハハハハハ!!」


 まるで上質のコメディを見たとでも言わんばかりに腹を抱えて笑う。

 突如見せたその姿が異様に不気味で、事態の推移を見守っていた配下の者たちですら思わずぎょっとする。


「――ここは笑う場面じゃなかったか。しまったな。いまいち苦手だこういうのは」


 その笑いも、ピタリと止む。

 バツが悪そうに頭をかきながら、ちらりと背後で控える配下の様子に視線を向ける。

 何故かそうせねばならぬと感じた配下たちが自然と頭を下げる中、いつの間にか双子の拘束を抜け出したアトゥが静かにやってくる。


「拓斗さま……」


「アトゥ……か。うーん、そうだね。うーん」


「た、拓斗さま?」


 心配そうに主の元へとやってきたアトゥを見て、何を思ったのか拓斗はうんうんと唸りこみ考え出した。

 その意図が全く読めず、自分に何か落ち度があったのだろうかとアトゥは思わず不安になってしまう。

 だがそんな彼女の予想に反して、拓斗が考え込んでいた内容はまた突拍子もないものだった。


「いや、少し考えていてね。僕はアトゥを奪われて凄く悲しい思いをしたのに、そのお返しがまだできていないと思って。きっちりケジメをつけないと、フェアじゃないでしょ?」


「……はっ? け、ケジメですか?」


 そうだよ。

 端的に答え、拓斗はまた悩みだす。

 拓斗が容赦なく、敵対する相手を徹底的に討ち滅ぼしその心をへし折る性格であることはアトゥもよく知っている。

 『Eternal Nations』においてもライバルとして対等にゲームを楽しむという行為から逸脱し、暴言を吐いたりマナー違反を行ったりした相手には容赦がなかった。

 ここまでするかという偏執さが、彼には常に存在していたのだ。


 無論、その言葉を聞いてエラキノが黙っているはずはない。

 彼女は消えゆく命を振り絞り、思い通りには決してなるまいと最後の抵抗を行う。


「だれがてめぇなんかにしっぽを振るかよこの引きこもり野郎が! とっととアトゥちゃんの胸に顔でも突っ込んで悦に浸ってやがれこの――」


 だが、忘れてはいないだろうか?

 相手はあの伊良拓斗なのだ。


「システムに質問。空位になったゲームマスターの権限は残っている?」


「――は?」


=SystemMessage==========

 セッションは継続中です。

 ゲームマスターは現在未設定です。

―――――――――――――――――


 システムが回答をよこしてくる。

 この瞬間。アトゥはようやく自らの主が何を目的としていたのか全てを理解する。

 自分を助け出すという目的は確かにあったのだろう。

 拓斗の関係性を考えるのであれば間違いない。

 だがそこで終わりではない。その程度で終わるような思考を彼は持ち合わせていない。

 ゆえに今までの全てが偽りで、先程のわざとらしく悩む姿もパフォーマンスの一つなのだろう。



「――じゃあその権限、僕が貰ってもいいよね?」



 全ては、この瞬間のために用意周到に準備されていたのだから。

 拓斗は、彼にしては珍しく比較的声を張り上げて皆に聞こえるように語りだした。


「僕は今までルールブックに則って適切にゲームをプレイしてきた。……まぁダイスを振った回数は本当に僅かだけど、それでもルールを遵守したのは確かだよ。公正で不正を許さず、暴言などの輪を乱す行為も一切ない。実に模範的なプレイヤーだ」


 拓斗は言葉を続ける。

 それはまるでシステムに説明を行うかのようなものであったが、分かる者にはそれがエラキノともしかしたらこの状況をまだ見ているかも知れない繰腹に向けたものであることは明らかだった。


「どうかな? システムに申請。ゲームマスターの権限を伊良拓斗に設定することを提案」


=SystemMessage==========

 申請を受理し、ゲームマスターの権限を伊良拓斗に付与します。

 新しいゲームマスターよ。最高のゲーム体験をお楽しみください。

―――――――――――――――――


 ここに『Eternal Nations』の指導者であり、エレメンタルワードのゲームマスターでもある、相手にとって最悪のプレイヤーが生まれた。


「エラキノって言ったかな? 次は君の番だよ。まぁいろいろあったけど、今後は仲間としてよろしくね」


 ニッコリと笑顔を作り微笑みかける拓斗。

 だがその笑みはどこまでも軽薄で、まるで感情が籠もっていない空虚なものに感じられた。


「だってほら? 僕はきっちりやり返すタイプだからさ」


「や、やめ――」


=GM:Message===========

GM権限行使。

エラキノの管理権限を初期化。

新たなGM伊良拓斗の管理とする。

―――――――――――――――――


 そして誰憚れることなく、公正で模範的と言ったそばからその《裁定者》の力を無制御に振り回し――、

 突如。


=■■■■■============

 神が与えし権能を駒が奪い取ることは規定違反。

 判定――神罰を与える。

―――――――――――――――――


 世界が止まる。

 何か異質な空間が拓斗を包み込み、魂の奥底から警鐘を鳴らす。

 自分が何か踏み込んではならない場所へと立ち入った事を拓斗が理解し、慌てて対処を考えようとするが。


=■■■■■============

 逾槭′縺ソ縺?繧翫↓鬧偵↓蟷イ貂峨☆繧倶コ九r險ア縺輔

 却下

―――――――――――――――――


 バチィと、この世のいずれとも思えぬ膨大な音と力の衝突を感じさせながら……。

 世界は、動きを取り戻した。


「ぐっ! ……ちっ」


 自分では把握できないより上位の次元で何らかの攻防があったことをなんとなく察する拓斗。

 危機的状況であったことを理解し、思わず舌打ちをする。


「システムに問い合わせ。状況を確認したい」


 今まで脳裏に浮かび上がってきていたシステムからの回答は、その沈黙をもって返答とされた。


「……流石に、それは無理だったか」


 今後は方針をより慎重に変更しなくてはならないと、拓斗は意識を切り替える。

 ゲームのシステムを好き放題に使ってやろうと企んだが、自分は繰腹慶次以上に踏み込んではいけない領域へと手を伸ばしていたらしい。

 当初の目的はこれにて失敗に終わる。

 だが最低限達成すべきアトゥの奪還が叶い、更にはこの世界で行われている不可思議な争いについての情報もある程度知ることができた。

 結果を評価するのなら、まぁ及第点と言ったところであった。


「というわけで、これはもういらないや」


 であればこのような場所にもう用はない。

 拓斗は自らの懐から人が持つにはあまりに巨大すぎるリボルバー型の拳銃を取り出し、その銃口をエラキノへと向けた。


「エラキノ!!」


「来ちゃ駄目だソアリーナちゃん!!」


 疲労困憊のソアリーナがなんとか友を助けようと声を上げる。

 だが幾度となく奇跡を行使し、巨大な悪にその精神をすり減らしてきた彼女にすでに戦う力は残されておらず、自らの聖杖を支えになんとか立ち上がるのが精一杯だ。


「逃げて。コイツには敵わない。きっとソアリーナちゃんが来ても殺されちゃう。逃げて」


 エラキノは……自らの敗北と死期を悟りソアリーナに向けて力なく笑った。

 もはや自分はここまで。ゲームマスターがいない以上、イラ=タクトの言う通りここから巻き返すのは不可能。

 それどころかここで彼に時間を与えてしまえば、また思いもよらぬ手段で彼女たちを苦しめようと画策するだろう。

 だから、その前にエラキノは彼女だけには逃げてほしかった。


「……不思議だな。ゲームは巻き戻っているはずなのに、ソアリーナの《啜り》が解けていない。何か裏ルールみたいなものがあるのかな?」


 反対に、拓斗はまるで実験動物でも見るかのようにこの状況に対して興味を抱いていた。

 TRPGのシステムによって彼らに益となる全ての影響は取り払われたはずだ。

 であればエラキノの《啜り》――すなわち洗脳能力も解かれていなくてはならない。

 にもかかわらず彼女たちの友情はまだあるようで、それが彼に強烈な疑問を抱かせていた。


「アトゥも……」


 そしてその対象は、エラキノとソアリーナだけではなかった。


「アトゥもこれを殺すことに一瞬躊躇していたよね。なぜ?」


 アトゥもまた、彼女たちに一定の配慮を見せていた。

 本来の彼女の性格であれば、洗脳が解かれた瞬間に激昂のまま聖女たちに攻撃を加えているのが正しい姿だ。

 にもかかわらずアトゥはそのような態度を見せず、従順に拓斗の命令を待っている。

 アトゥの忠誠心はよく知っているがゆえに、それが不思議でならなかった。


「えっ!? いえ……それは、私は拓斗さまの忠実なしもべ! け、決してそのようなことは!」


「本当? なーんか、あやしいなー」


 図星を突かれたのだろう。アトゥが狼狽した様子を見せる。

 彼女自身、所属が元に戻ったはずにもかかわらず、未だに存在するエラキノたちへの感情をどうして良いか分からず持て余していたのだ。

 無論彼女はマイノグーラの英雄である為、命令が下れば一切の情を捨ててエラキノたちを殺して見せるだろう。

 だが捨てなければならない情が存在しているということが、問題であった。


「――想いです」


 拓斗たちの疑問に答えたのは、意外な人物。

 華葬の聖女ソアリーナであった。


「なにそれ?」


 少しばかり不愉快そうに、拓斗は尋ねた。

 いつの間にかエラキノの側までやってきた彼女は、自らの友を気遣いながら、それでも言わねばならぬと拓斗へと強い眼差しを向ける。


「いくらあなた方が強大な力を振るおうと、決して覆せないものがあります。人の想いは決して砕かれない。あなたに忠誠を誓うアトゥさんが、私達の仲間になってなおあなたを思い続けていたように。全ての生命が持つ愛は永久に不滅です」


 その言葉に拓斗は鼻白む。

 だが決して言葉を遮ることなくその話を聞いている辺り、少しばかり思うところはあるようだった。


「ソアリーナちゃん……」


「私はエラキノに助けられました。彼女の明るさが私を勇気づけてくれたのです。彼女がいたからこそ自らの意志で歩むことを思い出し、そして本心からこの国を良くしたいと思ったのです。その想いは、たとえ何らかの力が働いていたとしても覆すものではありません。だから――」


 だが伊良拓斗という人間はそこまで我慢強い性格ではなく……。


「だから自分語りはやめてって」


 何より他人に興味を持つ人間でもなかった。


「がはっ!」

「エラキノ!!」


 ガァンと火薬が破裂する強烈な音が鳴り、エラキノの心臓を撃ち抜く。

 もはや終わりかけの命は強制的に消し去られ、ここに一人の魔女が終わりを迎える。


「ソアリーナ、ちゃん……逃げて。君だけでも、生き……て」

「エラキノっ! エラキノ! どうして、どうしてこんなことに! ああっ!!」


 ほんの僅かに残った力を振り絞り、最愛の友に別れの言葉をつげる。

 自分の腕の中で消え去っていく命にボロボロと大粒の涙をこぼしながら、ソアリーナは嗚咽混じりに友の名を呼ぶ。


「愛とか想いとか難しいこと言われてもよく分からないな。今はちょっと疲れているし、また今度考えてみるよ」


 その聖女の姿を見てなお、拓斗は興味なさげにそう呟くのであった。

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