第3話 賢者ラヴィーネという女
賢者ラヴィーネ
長い黒髪に漆黒の瞳を持つ美女
その美貌以上に彼女は知謀が有名であり、若き賢者として名が知られていた。
私は、大賢者ラヴィーネ=イスマイル
今年で公称28歳。とは言っても何度目の28歳だったかしら?
私が大賢者の血筋であるイスマイル家の隠し子として表舞台に出たのは今から8年前
私の容姿は8年前と全く変わらない、だから表舞台に立てるのもあと何年もない。
私は、ここ500年こんな生活を続けている。
宰相サイロスから、国王の勅命の命令書を示された。
「私に、王子と結婚しろですって?」
サイロスの言葉に私は呆れた。
命令書はうまく作っているけど、宰相サイロスが自身の野望を達成するには、一つ大きなミスを犯した。
ここに私の名前を入れたのは失態ね。
私はサイロスに確認した。
「王の勅命には従うわ。でも、一応確認するけど、これは本当に王の勅命よね?」
「何をバカなことを。
疑うならこの命令書を王室公認の鑑定士に確認させても良いのだぞ。
真正だったらどう責任をとる?宮廷魔術師といえども王への無礼は許されんよ。」
「だから、確認って言ったでしょ。
王命に背くつもりはないわ。
王が本当にそう命ずるなら王子の妻でも、貴方の妻にでもなってあげるわよ。」
私がムスッとして言うと、サイロスはいやらしい笑いを浮かべた。
「それは残念ですね。命令書には王子にと書かれていますから。」
私が魔王討伐で王都を離れていた間に、国王は宰相の
私が、大賢者として国王の力になってあげられるのは一世代10年が限界。
これは王家との契約で、このことを知っているのは当代の国王の他数人だけ、王弟のサイロスすら知らない秘密だった。
だから国王が王子の妃として私を指名することはありえない。
フリューは、ここ何十年、いや何百年で、久々に興味が湧いた男。
彼には勇者アリシア以上に英雄の気質がある。
私が表舞台から降りた後、彼の一生を見守ってあげてもいい、私はそう考えていた。
だから、彼には私を信じるように言ったのだけどうまく伝わらなかったみたいね。
この宰相の『謀略』が、私の思惑を超えてくるとは迂闊だった。
彼が旅立ったのも、きっと宰相サイロスが裏で糸を引いている。
そう考えると、このサイロスという男はここで消し炭にした方がいいかと思えてきたわ。
まさか...
この時、私はある不安を感じて、サイロスに聞いた。
「あなた、
まさかフリューを消そうと追手を差し向けたりしてないわよね?」
私の問いかけに対し、サイロスは慌てた。
「何を言ってるんだ。彼奴は、自ら進んでこの王都を出て行ったんだぞ!
私も奴の活躍は評価している、だから私の庇護の元で王子を支えてほしいと、そう引き留めに行ったんだ。
しかし、それを奴は、自分の存在が王子たちの障害になるからと、そう言って出て行った。
これ以上私を疑うような発言は王に報告するぞ!」
こいつ、やったな?
私はサイロスの発言で確信した。
こいつが自分自身が言った、フリューの存在が障害になると。
最悪だ!
表向きには正規の兵は使えない。
となると追手は宰相直下の暗部機関か?
暗部機関ごときにフリューを処分できる訳がないだろう?
この旅でのフリューの成長を見誤ったな。
フリューの命には心配していない。
それよりも、王国から追手が差し向けられたことが悪手だ。
フリューを敵に回すことは私でさえ想像したくない。
魔王の方がまだマシだ。
「王宮魔導師長として急ぎの要件ができた、大賢者ラヴィーネが出る!
王国の危機だ。宰相からも異議の申し立ては受け付けん。
王には大賢者の要件だと伝えろ!
私はここで失礼する。」
そういうと、宰相が止めるのを聞かずに、私はフリューを追いかけるため王城を後にした。
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「なんだあの女は、賢者と言えども国王の謁見を前に勝手なまねをするなど許されんぞ!」
残された宰相は憤慨した。
アーサー王子は宰相に言った。
「賢者ラヴィーネは、魔王討伐の旅の間、私に心を開くことはありませんでした。
それはアイリスやエレナにもです。
ただ一人、フリューにだけは実の弟の様に接し、楽しそうに話しかけていました。
きっと弟の様に可愛がっていたフリューを追いかけたのでしょう。」
宰相はイライラしながら言った。
「余計な真似を!」
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王の間にて国王フリードリヒとの謁見の開始前に宰相サイロスから謁見の段取りについて説明が行われた。
国王は、横に立つ宰相サイロスに問いかけた。
「サイロスよ。確かに賢者ラヴィーネは、大賢者の要件だとそう言ったのだな?」
「はい陛下。やつは確かに大賢者と言いました。そのことは王子たちも聞いています。
賢者といえども大賢者を名乗るなど無礼が過ぎますぞ。
その上国王の謁見を反故にするなど重罪です。
魔王討伐の功績をもってしても罰を与えないなどいかがなものかと。」
「いや、これ以上賢者のやる事に口を出すな。
私はお前の報告を聞いて王子との結婚を許可したんだぞ。
それを賢者が納得できないというのであれば、お前の報告自体に疑問を持たねばならん。」
「賢者も王子との結婚については反対されてはおりませんでした。
ただ先に王都を立った斥候の行方を案じたのだと思われます。彼女は斥候を弟のように可愛がっていたと聞いておりますから。
されども国王、この国の未来の為には、王子と三人の娘たちとの婚姻は必要。
次世代の王が勇者、聖女、賢者を妃とすれば我が国の発言力も増えます。
それについては納得いただいたではありませぬか」
「確かにそう言った。
だがな、それは勇者ら3人がアーサーとの結婚を望んでいればこそだ。
この王国のために尽力をつくした彼女らに報いずになんとする」
「王妃の座を望まない女などいましょうや?」
「お前の報告を聞くまで、勇者や聖女はともかく、あの賢者が王子との婚姻を望んでいるとは思わなんだのだがな。」
王は勇者一行の活躍は、実の弟である宰相サイロスからの報告として聞いていた。
サイロスは、自らの野心を感じさせることもなく兄である王を立てて仕えてきてくれていた。それだけにサイロスのことを信用していた。
サイロスには国王になることが出来ない決定的な秘密があった。
『謀略家』のジョブをもち、偽装など、犯罪系スキルを持つこと
これは、宰相としての長所であるが、この王国の法律では犯罪系スキルを持つものは国の要職につくことは禁じられている。
他人のジョブは、ジョブを鑑定可能な、上級神官スキルを持つものだけが判別することができることから、宰相サイロスのジョブについてはこの国の重要な秘密となっていた。
サイロスは自身のもつスキルが王国の足枷になっていることに悩みながらも、それだけに王国のことを考え献身的にその任に務めていた。
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