第124話 デーモンロード VS 英雄

 敵はデーモンロード

 とは言えまだ完全に覚醒していない今なら殺す手は残っているはず。


 僕の今までの戦いの中で得た経験で最適解を求めた。

 アイリスやティアマトの火力でも表面を傷をつけるのが精一杯。

 暴竜の時はどうだった、クラーケンを倒した時は?

   あれなら殺せるか?


 僕が導き出した答えは、僕としては不本意な作戦であり、また僕らしいとは言えば僕らしい他力本願な作戦であった。


「ラヴィーネ相談なんだけど……」


『また何を考えたかと思えば……

 まあ出来なくは無いわね。』


 アイリスとティアマトに牽制してもらい、僕は隠密スキルを使って、デーモンロードの背後へと向かった。


 そのころ、ヴァンパイア・ロードのアルカードは城壁の上で戦況を見つめていた。


 僕はアルカードの背後に忍び寄ると、剣先を喉元に突きつけた。


「ずいぶん楽しているようだけど、僕に付き合ってもらうよ。」


 アルカードは和かな笑顔で振り向く

「僕は結界で民を守るのが精一杯であんな化け物と戦う力はないよ。」


「はぁ、もうその優男の演技は必要ないよ。

 あんたが油断できない男だって分からないと思った?」


 アルカードはニヤリと笑うと、サーベルで僕の剣を払い距離をとって構えた。

「人間風情が我を使おうとする気か?」


 急に変わったアルカードの態度にも僕は驚かなかった。


「あなたは聖女エレナが居なくなったことで脅威が無くなったと思っているようだけど。

 僕はあの時の僕では無いんだよ。」


 そういうと、ラヴィーネが魔力を解放させ僕は魔力のオーラを放出した。

 ヴァンパイアの目で見れば、僕が老練の魔導士の気配を感じさせただろう?


「貴様は魔法戦士だったのか? 

 …いやその力は賢者!」


 アルカードはさらに数歩後ずさると、羽を広げ逃げようとした。


『ーーーà sealladh agus a 'nochdadhーーー』


「ちょっとどこへ行く気さ。」

 僕は瞬間移動でアルカードの背後に立つと再び首元に剣をあてた。


 アルカードはサーベルを落とし両手を上げる。

「あー降参するよ。 僕は君に従う。」


 僕はアルカードの変わり身の速さに呆れた。

「不利になるとまた演技かい?」


「君は信じないかもしれないけど……、これも僕の素さ。

 それで僕は何をやれば良いのかい?」



 僕はアルカードの足を掴んで、デーモンロードの上空にいた。

「もっと近づいてよ!」


「大丈夫かい? 僕は人を連れて飛ぶのは初めてだけど、見つかって攻撃されたら避けられないよ。」


「大丈夫さ、大賢者ラヴィーネの認識阻害魔法がかかっているんだから。」

 僕がそう言うとアルカードは高度を下げていった。


 僕は心の中でティアマトを呼んだ。

「ティアマト、そろそろお願い。

 そう言えばティアマト飛べたんだね?」


『ふふふ、我も暴竜と同じ竜だからな。

 泳ぐのに羽は邪魔だから消していたのだよ。』

 ティアマトは急降下してアイリスのもとに向かった。

 

 アイリスが舞い降りたティアマトの背中に飛び乗ると、ティアマトは再び空に上がった。

 ティアマトは更に高度をあげてデーモンロードの頭上に上がった。


『そろそろいくぞ。

 奴のブレスを避けきれないかもしれないが死ぬなよ。』


ティアマトに促されてアイリスはうなづいた。

「いつでもいいわよ。」


 ティアマトはデーモンロードに向かって急降下を始める。

 デーモンロードは、二つの敵が一つとなったことを好機と見てブレスを吐いた。


ブォーーーーーーー


 咄嗟にティアマトが身を捩って避けたとき、背に捕まっていたアイリスが離れた。

『しまった!!』


 完全自由落下となったアイリスにデーモンロードのブレスが迫った。


ーーーピキンッーーー


 その時、アイリスの正面に防御結界が展開されブレスを跳ね除けた。


 地表では、抜け殻となったラヴィーネを背負ったアリタリアが輝くワンドを掲げていた。


「これ重いんだから、さっさと片付けなさいよ!」


 ティアマトはアイリスを背中に受け止めると、ブレスを吐いた。

ーーービジュン!ーーー


 ティアマトのブレスはデーモンロードの表面を焼き、デーモンロードはブレスを止めて雄叫びをあげた。


グォーーーー!!


 アイリスはデーモンロード頭上で飛び降りると聖剣ライトブリンガーに力を溜めた。

 聖剣は光り輝きその刀身は数倍に長さの光の刃となった。


「これで終わっていい、ぶった斬る!」


 アイリスはヴァンパイアロードの肩口から袈裟斬りに斬った。

 そのデーモンロードは肩口から深く切り裂かれ、傷口からは炎を伴った黒煙が上がった。


グォーーー!!!


 ヴァンパイアロードは再び雄叫びをあげる。



 僕はアルカードの足を話すとデーモンロードに向けて落ちていく。


『ーーーà sealladh agus a 'nochdadhーーー』

 ラヴィーネの瞬間移動により、僕は雄叫びをあげるデーモンロードの口の中に飛び込んだ。


『「いまだ!(よ!)」』


 過去からシャドウブリンガーに溜め込んだ暴竜ニーズヘッグやクラーケンの力の全てを解放した。


ーーードドッーン!!ーーー


 力の奔流はデーモンロードを内側から破壊し、デーモンロードはアイリスが切りつけた傷口から真っ二つに引き裂かれた。


 僕は失われていく意識の中で勝利を確信したが、無茶な戦法は自身の命を犠牲にするものだった……


ーーーーーーーーーーーー


 僕は目覚めると真っ白な世界が広がっていた。

 ここは死後の世界ってやつか?


「あなたは死んで無いわ、私が守護しているんだから。」


 僕の目の前にはエレナがいた。


 僕はふと自身の手のひらを見ると、まだ小さい子供の手だった。

 僕の身体は幼い孤児院にいた頃に戻っていた。

 エレナの姿も、孤児院で初めてあった少女の姿だった。


「あの時に出会った私、エレナ姉さんは今の私じゃないの。

 私はお父様に貰われた後、病気で一度亡くなった。

 私は亡くなったエレナを器として長い眠りから目覚めたの。」


 そう語るエレナの姿はいつのまにか魔王討伐の旅のころの姿に成長していた。

 そして僕もあの時の僕だった。


「私は目覚めてからもエレナの記憶を保っていたし、女神フォルトナの記憶は失っていた。

 だからフリューを騙した訳じゃないのよ。

 私が私である意識が目覚めたのはここ最近、リリスが召喚されてから。」


 10代の僕は涙を流していた。

「エレナでもフォルトナでも関係ない、一緒にいてよ

 まだ別れたくないよ、全てが終わったら僕と一緒にいるんでしょ?

 もうどこかに行かないでよ!」


 僕を見守るエレナは微笑んでいた。

「ふふふっ、私はあなたを守護して、いつもあなたと一緒にいるわ。」


 

 気づくと僕はデーモンロードが死んだ爆心地に立っていた。

 

 僕を包み込んでいた光のバリアが消えていく。


 エレナが僕を守ってくれていたのか……


 僕の頬からはいまだに涙が流れていた。

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