第123話 堕天使リリス

『我の記憶が正しければ……

 お前はお前の剣を呼び出せるはずだろう?』


 そのティアマトの言葉で僕は我に帰った。

 なぜアイリスの元にラヴィーネが居ないのか……、僕はその可能性を勝手に否定して考えていなかったんだ。

 

 僕は折れた剣の柄を捨てると、リリスに向け走り出した。

 信じるんだ、なまじ逃げ道など作らない方がいい!


 僕は両手を振り上げて手のひらに意識を集中した。

「ラヴィーネ!」


 僕の手のひらからは燃え盛る炎のように黒い霧が吹き出し、その中に黒いやいばの精霊の剣シャドウブリンガーが具現化していった。


『やっと呼んでくれたわね』


 僕は一気に間を詰めて、リリスに斬りかかった。

 リリスは僕の突然の動きに反応が遅れ、翼でシャドウブリンガーを受けたが、その刃は簡単に翼を斬り裂いた。


「なんなの? その剣は?」

 リリスは翼を再生しようとするも傷口は黒い炎で焼かれ再生を妨げた。


「なぜ魔素のない空間でその剣は機能するの?」

 リリスの疑問に精霊の剣と一体となったラヴィーネが答える。


『そんなの魔力によって生み出された力じゃないからに決まっているじゃない』


 しかしラヴィーネの声はリリスには届いていなかった。


「ラヴィーネは精霊の剣に戻ったことに驚いていないようだね。」


『私はこの姿でいた時間の方が長いのよ。

 肉体が放置されるのは困るけど、今頃アリタリアが守ってくれているわ。

 アリタリアが心配してるから、さっさと片付けなさい!』


「そうは言っても、相手は堕ちても天使だからね。」


『じゃあ私が手を貸すわ

ーーーBacaidhーーーluathachadh corpーーー』


 ラヴィーネの呪文により僕の体は光の幕に覆われて、身体が軽くなるのを感じた。

 これならやれる


 僕は自ら殺戮の衝動のスキルを呼び出し、身体が加速していく。


 キンッ、 ズバッ


 リリスは身体のいくつもの傷から黒い炎を吹き出して、その顔色は変わっていた。


「おまえが勇者じゃないなら何なの?

 1000年前の勇者でさえ何も出来なかったというのに」


「僕は僕さ、僕は勇者と違って自分の力だけで戦っている訳じゃないからねぇ。」


「なんで! 魔法は使えないはずなのに」


『二重に張った結界の中で精霊の剣から魔力の供給を受けているからよ?

 天使はそんなテクニックも見通せないのかしら?』


「だから、その声は僕にしか聞こえていないよ」


 その時、5色の魔法の光がフリューを包み込んでいった

   体力回復

   移動速度向上

   反応速度向上

   防御力向上

   攻撃力向上


 エレナによる支援魔法が重ねられていくのを感じた。


『あらあら、あなたの姉は過保護ね。

 負けないのに』


 これでしばらくの間、僕は無敵になった。

 この機を逃すと反動がくることを僕は経験上心得ていた。


   ここで決める!

 僕は一瞬のうちに間合いを詰めるとシャドウブリンガーでリリスの心臓を貫く。

 

 ブシュッ


リリスは口から血を吹き出しひざまづいた。


「……この身体もここまでね」


 リリスは前のめりに倒れると、身体から黒い霧が吹き出し天に上って行った。


 その時、王都を覆っていた光の結界が消えた。

 そして、その光の粒子がリリスから漏れ出た黒い霧と交わり螺旋を描いてまとわりついた。

 そして、黒い霧は次第に光の粒子に変わっていく。


『あれは堕天使の精神体が、女神の力で浄化されているんだわ。』


 光の粒子は一つとなり、人の身体を形作っていく。

 その光は長い髪をたなびかせた、女性の姿と変わった。


「あれはエレナ?」


 僕が見つめると光りはデーモンロードを指差す。


「分かったよ、あれを殺すんだろ?

 僕ら勇者パーティーにはそんなの簡単なことさ。」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



 結界を解かれると同時にリリスによる呪縛を解かれたヴァンパイアたちは呆然としたまま地表へ降り立った。


 その時、上空から何者かの声が響いた。


「私はヴァンパイアの王、アルカード=ルクトヴァニアだ。

 我が民よ、堕天使による呪縛は解かれた。

 戦うのは我一人で良い。

 私はお前たちに何かを求めることは無い、ただ生き延びろ。

 デーモンロードの手から生き延びて、それからの事はそれから考えよ。」


 アルカードは、そう言って腰に付けたサーベルを抜いた。

 

 デーモンロードは傷を癒そうと、ヴァンパイアを取り込もうと結界を失ったヴァンパイアに向けて業火を吹き出した。

 しかし、アルカードがサーベルを振るうと目の前に魔法陣を形どった結界が出現し、その業火を防いだ。


「勇者たちよ、我が民は我が守る。

 デーモンロードの相手は、お前たちに任せたぞ。」


 アルカードは、城壁に立ってそう言った。


 

「勝手なことを……」

 アルカードの言い草にアイリスが呟いた。


『まあそうぼやくな、どのみち倒さねばならん相手だ』

 ティアマトの言葉にアイリスはため息をついた。


「それはそうですが...」


 先ほどからティアマトのブレスとアイリスによる聖剣の攻撃によりデーモンロードは多少の傷を追いながらも、再生能力が勝り仕留めるにはいたらかなった。

 

 逆にティアマトもアイリスの力も限界を迎えようとしていた。


   ここで止まったら終わる

1頭と1人は戦い続ける中でお互いの友情に芽生えていた。


『悪いことばかりじゃない。

 ここで我が友が参戦するようじゃよ。』


「そうですね、我が愛する者が参戦するのであれば負けられませんね。」


『なんと、お主もか?

 我もこの身が竜ではなかったら奴を番にするのに』


 そんな話をしていると、アイリスの横にフリューが走ってきた。


「なんの話?」


『この小娘がお前さんのことを…』


「んんっ、なんでもないわ! 

 さあフリュー、お前ならどう奴を殺す?」

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