第122話 英雄 VS 堕天使

 日が昇るころ、リリスは王都を覆っている光の結界を苦々しく見上げていた。


「お前かフォルトナ! またお前が邪魔をするのか?」


 1つの女神が2つに分かれた時、ほぼ全ての権能をフォルトナが持って行ったことにリリスは腹を立てていた。

『悪魔による破壊も運命でしょ。

 それなのに神はなぜフォルトナを優遇したの?』

 自分に大義があると信じて疑わないリリスは、堕天して悪魔になった。


「女神としての力はお前の方がある、だけどバルバドス様が到着して果たしていつまで持つかしら?」


 リリスが内側から結界を破ろうと、翼を羽ばたかせたところ、少し飛び上がったところで地上に落ちた。

 なぜ、力が出ない?


「まさか!」


 リリスは結界に向けて、魔力を放とうとしたがそれも出なかった。


「フォルトナ、結界内の魔素を消し去ったわね!」


 王都に包まれた結界内は魔素が無くなり、これで魔力の行使が出来なくなった。

 それはリリスやヴァンパイアがもつ魔力を無効とするものであったが、元々身体能力に勝るヴァンパイアに生身で太刀打ちせねばならなくなった。

 


 結界はフリューを傷つけるものでは無くそのまま素通りすると、フリューは王都の屋根に上がり屋根の上を王城に向けて走った。


 王城直近まできたところで、そこから王城までは広場となっており、そこにはヴァンパイアの群で埋め尽くされていた。


 その時、王城に動く影が落ちた。

 振り向いて日の出の太陽を見ると、太陽の方から翼を羽ばたかせた巨人の影が見えた。

 顔は山羊の様であり頭には雄牛の角が生えていた。

 その禍々しい気配にフリューは飲み込まれていた。

「……アークデーモン」



 アークデーモンは、王都に迫りそのまま結界に激突した。


ーーーバリバリバリッ!!ーーー


 アークデーモンが激突する音と共に、広場にいたヴァンパイアが一斉に羽ばたき飛び立っていった。


 ヴァンパイアたちは真っ直ぐにアークデーモンに向けて飛び、そのまま結界に激突していく。

 さながらガラスにたかる虫のようにびっしりと結界に面にヴァンパイアが張り付き、王城に影を落とした。


 今だ!


 僕は、広場を渡って王城にとりつくと、壁を駆け上がってテラスにたどり着いた。


「何者!?」


 有無を言わさず、僕は堕天使リリスに斬りかかった。


 キンッ


 見た目が柔らかそうな白い羽は、硬質で傷一つ付けられなかった。

 刃を伝わる感触からは竜の皮膚以上に固く感じた。


「おまえは誰だ?」


 リリスに、エレナと同じ顔で語りかけられることが僕は憤りを感じた。


 僕は答えることなく、繰り返し攻撃した。


 キンッ キンッ


 僕の攻撃を翼と爪で防いでいる。

 魔力の無い身体能力では互角であったが、リリスの防御力の前に全く刃が通らなかった。


「おまえ勇者の気配を感じるが、私の知る勇者とは異質な感じ。

 1000年前デーモンロードに勝てなかった。

 今代に勇者はどうか試してやろう。」


 リリスはそう言うと、その青い瞳が輝いた。

 僕の脳裏には走馬灯のようにエレナとの思い出が駆け巡った。


「ほお...フォルトナはエレナと名乗っていたのか? 残念だったね、捨てた肉体は二度と戻らないよ。

 私も元は女神、慈悲の心は失ってはいない。

 そうだな...どうだrぷ、この身が欲しいのなら、我が軍門に降ればこの身をおまえに捧げても良い。

 おまえの望む未来だろ?」


 僕はその言葉で、僕のスキルに火がついた

   『殺戮の衝動』

もう長いこと湧いたことがない怒りとともに、僕の頭は冷めて動きは研ぎ澄まされれいく。


 キンッ! キンッ! キンッ!


 僕の動きは早くなり、リリスに翼と爪による防御を掻い潜り、やいばがリリスの頬をえぐった。


 一瞬赤い血が吹き出したものの、その傷は瞬く間に消えていった。

 再生されたが、刃が通らない訳ではない。


 リリスは一旦距離を開くとその様相が変わっていた。

「調子に乗るなよ人間が!」


「その顔で喚くな!」

 僕が最速の剣でその胸に刃を突き立てたが、リリスはその刃を掴むとその刀身を握りつぶした。

   パリン

 刀身は砕け、僕の手元には束だけが残った。


「調子に乗るからよ。

 おまえを愛してやろうと思ったけど、もういいわ。

 おまえにはもう私を殺す手は無いでしょ、あの結界が消える瞬間を見て絶望しなさい。」


 そう言ってリリスが指差した先ではアークデーモンが結界に向けて青白い魔力の炎を吐き続けていた。

 その炎は結界を貫くことは無かったが、結界越しに張り付いたヴァンパイアが次々と焼かれていった。


 そのヴァンパイアの命が刈り取られるにつれて、アークデーモンの傷が癒えていった。


「ハハハハハ! いくら結界を張ろうが遅かれ早かれ、ヴァンパイアを贄としてヴァンパイアロードは復活するわ。

 それを黙って見てなさい。」

 高笑いするリリスを前に僕には何もできなかった。


 リリスの予言通り、アークデーモンの傷がすっかり癒えると、次第にその体はどす黒くなりその身体も到着した時の倍くらいに膨れ上がっていた。


「さあデーモンロード『バルバドス』様が復活する時よ!」


 

ーーービジュン!ーーー


 その時、光の力の束がデーモンロードの翼を

貫いてデーモンロードを地に落とした。


 夜明けの太陽の下には、まだ光の粒子の残滓を帯びた聖剣ライトブリンガーを手にした赤毛の女性が歩いてくる。


「待たせたわねフリュー」

 勇者アイリスは、再び聖剣を構えるとデーモンロードに向かって駆け出した。


グォーーーー!


 デーモンロードは雄叫びをあげて再び飛び立とうとしたところを、再び上空から熱線が浴びて地表に落とされる。


 上空を見上げると神竜ティアマトのブレスを浴びせた所だった。


『友よ! 堕天使とは言え所詮地に落ちたもの。

 そんな小物はさっさと片付けなさいな』

 僕の心にティアマトの声が届いた。


「でも堕天使を打ち破れる武器がないんだよ」


『我の記憶が正しければ……

 お前はお前の剣を呼び出せるはずだろう?』


 まさか

 

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