第121話 女神フォルトナ
ルクトヴァニアの王都周辺の警備は相当厳しくなっていた。
消耗しきったイブリンを船に残し、僕とエレナの二人は夜の海を泳いで上陸した。
僕らは夜中のうちに移動し、王都を見下ろす丘の上にいた。
エレナに考えがあるらしくここまで来たが、その考えについては聞いても教えてくれなかった。
エレナはいつもの白い法衣ではなく、僕と同じ黒い戦闘服を着ていていつもと印象が変わっていた。
僕がチラチラ見ていたのに気づき、エレナはにっこり微笑んだ。
「どう、この格好は?」
「似合ってるよ。 ちょっといつもと雰囲気が違うから戸惑っちゃうけどね。」
「良かったわ、あなたにそう言ってもらって。」
そう話すエレナの顔はいつになく寂しげに見えた。
「そろそろエレナの考えを教えてくれても良いんじゃない?」
僕がそう言うと、エレナは質問には答えず王都の街並みを指差した。
「見て、月明かりで王城が見えるけど、でも何かがおかしくない?」
確かに何か違和感がある。
「なんか……廃墟みたいな感じだ。」
「そうよ。
いくらヴァンパイアが夜目が効くと言っても街に灯りが全くないと言うのはおかしいわ。
暗闇で見えないけど、あの王城の周りにはこの王都にいる全てのヴァンパイアが取り囲んでいるの。」
「それはイブリンも言っていた。
上位のデーモンを迎えるためだって。」
「そう、あの都市のヴァンパイアはアークデーモンの贄なのよ。
1000年前、アークデーモンはエルフとヴァンパイアを贄として進化したの。
悪魔の王デーモンロードに。」
僕にはそれが何を意味するかまだ実感がわかなかった。
「確か神話では1000年前に神は人類を作ったと言われているけど、エルフには1000年以上前の記憶が残っていると聞いたよ。
矛盾があるから神話は御伽話だと思っていたんだけど。」
「1000年前にデーモンロードが目覚めてエルフもヴァンパイアも人間も、一度全てが滅びたの。」
「それが事実だと言うの? それでは今生きている人類はどこからきたの?」
僕の疑問にエレナは当たり前の事実のように答えた。
「デーモンロードに破壊された後に時の女神が再構築したのが今のこの世界、女神はデーモンロード誕生前に巻き戻して、デーモンロードが生まれなかった並行世界を作ったの。」
今伝えられている神話は女神が再構築した時に始まったとすれば説明はつくし、エルフの記憶が残っていることも矛盾はない……でも
エレナの説明には大きな矛盾が残った。
「その話が真実として……
デーモンロードが世界を滅ぼしたことを知りえる者は、女神だけだよ。」
その指摘にエレナは微かな微笑みを浮かべた。
「時の女神には
過去を司る女神と未来を司る女神
2つの人格が入っていたの。
2つの人格の意見が対立し、世界を再構築するときに女神は2つに別れた。
過去を司る女神リリスは、デーモンロードと共に元の世界に残った。
未来を司る女神フォルトナは再構築で力を使い果たし、長い眠りについた。
並行世界が存在することは、ラヴィーネが生還したことでフリューも知っているでしょ?」
(最近のエレナは何かがおかしい。)
この世界で全く知られていない知識を披露するエレナに、僕は不安を感じていた。
「その話は疑問の答えになっていない」
「私の言っていることは事実。
私を信じて話を最後まで聞いて。」
エレナの真剣な目に僕はうなづくだけだった。
「神による世界の創生と対になるシステムとして悪魔による世界の破壊があるの。
並行世界でデーモンロードが世界を破壊した後のことは分からない。
でもイブリンがあの王城で見た白翼の悪魔は堕天使リリスよ。
リリスは運命に従い世界の破壊を望んでいたから、フォルトナが再生したこの世界を嫌っているはず。
ヴァンパイアを
エレナの話に僕は絶望と魅力感を感じていた。
「堕天使と悪魔相手に、神々ではない僕らに何が出来るの?」
「アークデーモンであるうちは、アイリスの勇者の力でなんとかなるわ。
ヴァンパイアをアークデーモンの
私がこれから王都に結界を張って遮断してアイリスが到着する時間を稼ぐ、フリューは堕天使リリスを倒して、あなたなら出来るわ。」
堕天使を僕がどうやって……
僕を見るエレナの顔がいつになく神々しく見えた。
「わかったやってみるよ。」
「ありがとう私を信じてくれて……
フリュー、あなたにはラヴィーネもアイリスもついている二人を信じなさい。
ちょっと焼けちゃうけど、二人があなたを助けてくれるわ。」
「エレナもでしょ? ちょっと言っていることが少し変だよ。」
「私はあなたの横であなたの一生を見続けたかった、あなたと子供を作って子供の成長を見守るのよ。
素敵でしょ?」
「何言ってるの? そうすればいいじゃないか! 要は勝てばいいんでしょ?」
エレナは首を振った。
「私の夢はラヴィーネとアイリスに託すわ。
二人とも離しちゃダメよ。」
エレナの様子が変なことに僕は不安になった。
「エレナが何者かなんて僕には関係ない、エレナはエレナでしょ?
僕がエレナを幸せにする、これからの一生を一緒に生きてよ!」
突然のプロポーズのようなことを言ってしまい僕は真っ赤になっていたが、エレナは嬉し泣きをしていた。
エレナは近づいてきて、首に手を回すと小さく囁いた。
「キスしてくれる?」
僕は、エレナの唇をふさぎ、長い長いキスをした。
エレナの目からは涙が流れ落ちていったが、僕にはその涙の意味が分からなかった。
キスをしている間、エレナの体が光り輝き出した、そしてそれは光の粒子となって溢れ出していく。
その光の粒子が外に溢れるにつれて、エレナの体は薄く消えていった。
僕はエレナの唇の感触が無くなり目を開くと、透明になりかけたエレナが僕を見つめて微笑んでいた。
「……エレナ?」
「大丈夫よフリュー、私はいつまでもあなたのそばにいるわ……」
そう言い残しエレナは光の粒子となって消えていった。
その瞬間王都全体を包み込むように光のドームが生まれた。
僕はその光のドームを見つめると自然と涙が落ちた。
そして信じたくなかった考えが現実だと確信した。
「君は女神フォルトナなんだね?」
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