第125話 戦の後

 僕の元へ肉体を持ったラヴィーネとアイリスが走ってきて僕に抱きついてきた。


「流石に死んだかと思ったじゃないフリュー! 無茶な作戦だと言ったが、最後私の雷撃魔法で焼き払うと言ったでしょ? 剣の力を全て解放するやつがいるか!」

 僕はラヴィーネに怒られて縮こまった。


「……あそこまでやらないと殺しきれないと思ったんだよ。」


「知ってたら同意なんかしないわよ!! 

 ……ほんとに無事で良かった」

 そう言うラヴィーネの頬にも涙が流れていた。

(そう言えばラヴィーネの涙は初めて見た気がする……)


 反対の腕に抱きついていたアイリスが僕の腕を引っ張った。

「本当によくやった! やはりお前は私の勇者だよフリュー」

 アイリスの瞳にも涙が滲んでいる。


「そうだ!」

 アイリスは何かを思い出すと、突然僕の唇を奪った。(何を!!!)


「何やってるんだ! この色情魔!」

 熱烈なキスは続き、ラヴィーネが引き剥がすまで続いた。


「お前、気でも狂ったか?」

 ラヴィーネの剣幕にもアイリスは悪びれもしなかった。


「知ってるんですよラヴィーネ、あなたとエレナがフリューの唇を勝手に奪ったって。

 それって抜け駆けでしょ? 平等を期して私もいつか奪ってやろうと思っていたんです。」


 僕は苦笑いするしか無かったが…


「あんたたち、いい加減にしなさいよ!」

 アリタリアがむすっとしながら、僕たちがいた丘に登ってきた。


「勝手に消えるは、勝手に気を失うわ。

 その重たい女を運ばされてこっちはクタクタよ!」

 ラヴィーネも言い返したいことがあったが、アリタリアの剣幕に覚えのある二人は目をそらせた。


「あれアリタリア、2人と知り合いだった?」


「知り合い? ビジネスパートナーよ、ビ・ジ・ネ・ス!

 私は魔王国に雇われたの、終わったんだから報酬を要求するわ」


「わかったわよ。 いくら欲しいの?」

 

 ラヴィーネが渋々そう言うとアリタリアはニヤッと笑って腕を組んだ。


「私は自慢の新造船を沈められたの。

 まあ、幸い船員は全員無事だったからいいけど。

 はっきり言って高いわよ」


「何でも欲しいだけ言いなさい、私にできる限りの便宜は図るわ。」


「今何でもって言ったわね?」


「金でも土地でも地位でもいいわ。」


 ラヴィーネがそう言うとアリタリアは僕を指差した。


「報酬にフリューを貰うわ!」


「「何ですって!?」」


 当事者の僕をよそに女3人は掴み合ってもめていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 南部のミドワルドでは、ティアマトにより停泊中の船が全て焼かれた後、後続の帝国の艦隊はセイレーンに惑わさられて到着せず、ルクトヴァニアの船は裏で手を回したヴァンパイア・ロードにより自国に戻されていた。


 街に残った戦力は、ミドワルドの上空にキルケが雷雲を呼び寄せると戦う事なく白旗をあげた。


 帝国からの和平の使者にアウグストが聞いた。

「結局わざわざこんな所まで来て……、で一体お前たちは何がしたかったんだ?」


 アウグストから睨まれ、使者は答えにくそうに言った。

「戦争を主導していた皇帝と宰相が相次いで亡くなりまして……」


「暗殺か?」


「詳しく聞いていませんが...

 極秘裏に開発していた人工勇者の生き残りが反乱をおこしたそうです。

 彼らが命と引き換えに皇帝らを殺したと、そう聞いています。」


「やけに諦めが速いと思ったが...そういう訳か」


 使者は突然土下座をした。


「慈悲深い王よ! 他国へ売却できる鉱物資源が枯渇し、我が帝国の民は飢えています。

 無駄に誇り高い皇帝が亡くなった今、もう取り繕う必要はありません。

 帝国兵は家族を飢えさせない為にこの地に来ました。

 どうかご慈悲を!」


 頭を下げる使者に対して、アウグストは冷たく言い放った。

「……お前馬鹿か? 飢えるのが嫌ならなぜ武力に金を使えるんだ?

 生産性をあげるとか土壌を改良するとか、武力に回すより先にやることがあるだろ?

 お前の言うことはなんの説得力も無い無意味なものだ!

 恨むなら間抜けな皇帝と宰相を恨むんだな。」


 アウグストの言葉は帝国民が誰しもが思っている事であり、使者も言い訳は出来なかった。

「王のいうとおりでございます。

 ですが、何卒ご慈悲を……」


 アウグストはむすっとした態度で言った。

「お前の国には飢えた民がたくさんいると言ったな?」


「はい、そのとおりでございます。」


「それならばその民を俺によこせ。」


「それは奴隷として差し出せと?」


「違う! 奴隷にとは言わん。

 このグリンデンブルクの地は、まだまだ開墾する余地がある。

 開墾して作物を作ってそれを祖国に送ればいいだろ?

 我が国民として多少の税を払えば支援もしてやろう、どうだ?」


 あまりにも帝国に都合がいい提案に使者は戸惑っていた。


「祖国を捨てろというんだ、言うほど楽な選択じゃねえよ。

 だが、お前たちを救ってやれる手段は他には思いつかん。」


 使者は涙を流して頭を下げた。

「感謝いたします。慈悲深い王よ。」


「やめろよ、早く行け。 あとは宰相のロメと詰めろ。」

 アウグストはそう言って使者を追い出した。


 後ろで立ち会っていたリンの顔は満足げだった。

「さすが我が旦那様、惚れ直しました。」


「よせよ。

 今回は幸いこちらの被害もほとんど無い。

 お互いが得する選択を選んだだけだ。」


「それが王の選択なら、必ず後世に名を残す王となるでしょう。

 私は鼻が高いんです。」


 そう言って、人目を盗んで王に口付けをするリンであった。



 その姿を柱の影から見守っていたキルケが呟いた。

「どうやら孫の顔を見るの日も近かそうねぇ」



ーーーーーーーーーーーーー


 僕は一人離れ、堕天使リリスが死んだ場所に来ていた。

 

 ラヴィーネたちはエレナが居なくなったことに気づいていたが、僕が言い出さなかった事から誰もそのことに触れなかった。


 それは僕を気遣ってのことだとは気づいているが、僕自身エレナを失った実感が無かった。


 だから僕はエレナを探しに来た。


「ここには居ない。

 さてどこに探しに行こう?」

 この先の予定はエレナを探すことに決めた。


 イブリンなら、何か分かるかも?


 僕がその場を立ち去ろうとしたとき、背後に気配を感じた。


 突然眩く光が生まれ、その光の中に女性の人影が現れた。

 そして光が徐々に収まると、そこには優しく懐かしい微笑みがあった。


「……エレナ?」


 僕が語りかけると、エレナはうなづいた。

 

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