第41話 砦の惨劇

 魔王軍と合流した連合軍の陣営は、王都付近まで迫っていた。

 

「これから王都を攻略する訳だが、我々が1万8千に対して、一方王国側にはおよそ4万の兵力を残している。

 この先はだだっ広い平野だ。

 魔導師の差を考慮しても分が悪いだろう。

 誘い出して削っていくというのが定石だが...」


 アウグストがみんなに案を求めた。


「フリードリヒ国王にお出まし願って、王国側騎士団のいくつかに中立を決め込んでもらうのを待つというのはいかがでしょう。」


その案に対して、ラヴィーネが意見する。


「魔女エルゼベエトの『眷属化』がある以上、中立や寝返りを期待するのは難しいわね。

 例え中級幹部が寝返っても、司令官クラスはすでに『眷属化』されていると考えて良いと思うわ。 

 逆にこの『眷属化』をなんとかすれば、勝ち筋が見えてくるかも。」


「眷属化ねぇ、オーランド神官長は何か知らないか?」


 アウグストの問いかけに神官長は考えた。


「うーむ...

 教会の書物にヴァンパイアの記述はありますが、あまり深くは研究されていません。」


その時、ラミアが立ち上がった。

「ちょっといいですか?

 我々『魔王国ファーレーン』は、長い間、ヴァンパイアロードが支配する『ルクトヴァニア』と敵対してきました。

 当然、眷属化についても情報はあります。

 通常、敵国に渡せる情報ではないのですが、信頼の証として、あなた方を信じてお話ししましょう。」


ラミアの言葉にアウグストが言った。

「そうしてくれるとありがたい。

 必ず信頼には答えるつもりだ。」

 

「眷属化の解除には2つ方法があります。

 一つは眷属化を行ったヴァンパイアを殺すこと。つまり今回の場合は魔女エルゼべエトを殺せば解除されます。

 もう一つは...

 なら、解除が可能です。

 例えば先代の魔王様は眷属化を解除できました。」


その言葉に僕はピンときた。

「イブリンの力?」


「そう、我が姫さまなら解除は可能でしょう。

 ただし、我々としても姫さまの安全は絶対です。

 完全に無力化した上で姫さまの前に連れて行くことが出来れば、眷属化の解除は可能やもしれません。」

そうラミアは説明した。


アウグストが言った。

「結論としては、魔王軍の姫さまにお出ましいただけない以上、魔女エルゼベエトを殺すしか無い、つまり少数精鋭での暗殺、またフリューの世話になるしかない、ということか?」


「僕にできることならやりますが、さすがに魔女の正確な位置をつかむことは僕にも」


「だよなぁ」


その時、リンが天幕を訪ねてきた。


「ちょっとお客様が来たので通しました...」

なんとも言いにくいそうにそうにそう言って、女の子の手を引いてきた。


「「「イブリン(姫さま)!!」」」


ラミア、僕、エレナとラヴィーネは驚いた。


「部下にお願いして連れてきて貰ったのよ。

 今私の力が必要でしょ? 私には分かるのよ」

イブリンは悪びれることなくそう言った。


イブリンは、アウグストを見て言った。

「私はイブリン、魔王国のお姫さまよ。

 魔王様とは呼ばないで欲しいの。

 あなたはアウグストね。

 精霊たちがあなたは大丈夫と言っているわ。」


アウグストは戸惑いながらも挨拶をした。

「私はアウグストです。姫さま、あ、よろしくお願いします。」


「こちらからもよろしくお願いします。」


 イブリンはそう言ってペコリと頭を下げ、そしてラヴィーネのところまで行くと膝をよじ登って、膝の上に座った。


「フリューは、魔女の居場所を知りたい?

 魔女は今、この先のお城にいるわよ。

 図面を見せてくれれば、居場所を教えてあげる。」


「おい、誰か城の図面を用意してここに持ってくるんだ!」

アウグストは部下に指示した。


僕はイブリンに聞いた。

「イブリンには何がの?」


「私は精霊おともだちが話していることを伝えているのよ。

 ちょっと待って、」


 イブリンは、中空を見つめぼーっとした後、慌てたように正直に戻り言った。


「翡翠色の髪の精霊の縁者と共にいる高貴な血が危険だわ。

 もう間に合わないかもしれない。」


 イブリンはそういうと、ラヴィーネがハッと気づいて言った。

「キルケ姉さま!? フリードリヒ国王は今どこ?!」


 その様子にアウグストも気づき慌てた。

「王は途中で制圧した砦だ! 誰か至急救援に向かわせろ!」


「僕らが先に行く」


 僕とエレナ、ラヴィーネ、リンは直ちにフリードリヒ国王のいる砦に向かうこととした。



ーーーーーーーーーーーーー


その頃砦にて、


「フリードリヒ国王、至急お越しください。」


 警戒をしていた兵に呼ばれ、フリードリヒ国王とキルケ妃は、砦にある物見の塔を上がった。

「あれです。」

塔の上から、兵が指さす方向を見た。

 

「なんだあれは?」


 王は、遠方の丘に異形の物体を見た。


 それは、荷台にやぐらが組まれた多頭立ての荷馬車だったが、その櫓には白い服を着た人形が括り付けられていた。

 さらにその人形の手には剣が握られており、その剣を握った腕ごと櫓に固定されていた。

 遠目ではさながら剣を構えたカカシの様に見えた。

  

 キルケは遠見の魔法で、それを確認すると、顔を顰めた。

「あれは人形じゃない。人よ。

 それにあの手に括り付けられているのは、たぶん聖剣。

 あの人は勇者アリエスじゃないかしら。」


「なに勇者アリエスだと?

 なんで勇者があのような姿に?」


「それは分からない。でも何か禍々しいものを感じる。

 あと、あの馬車と共にいる騎士たちの指揮官らしい男は、あなたの息子アーサーじゃないかしら?」


 王の目にも遠目にアーサーらしい人影が確認できた。


「アーサー自身がワシを殺しに来たか...

 ワシはまだここで死ぬわけにはいかない、キルケすまんが応援が来るまでなんとか防御結界で凌いでくれんか?」


「わかったわ。結界の準備をしてきます。」

そう言ってキルケが物見の塔からの降りた


 キルケが塔から離れたところ、突然上空に閃光が走った。


 ビシュン!!


 その光にキルケが振り返って見上げると、一瞬遅れて、物見の塔が燃え上がった!


「フリッツ!!!」


 キルケは塔を見上げた時には、塔の物見台は吹き飛んで無くなっていた。

 それがフリードリヒ国王の最後だった。




「打て、、、打て、、、打て」


ビシュン!!  ビシュン!!  ビシュン!!


 アーサーの指示に合わせて、アリエスが握る聖剣ライトブリンガーから、光の衝撃波が放たれていく。


 五発ほど放ったところで、砦の城壁は崩壊し、建物が炎上していた。


 アーサーに暗部機関の長エウドアが耳打ちをした。

「国王代理、監視班から1撃目の攻撃の際に、櫓の上にフリードリヒ国王の姿を確認したと。」


「そうか...

 目的は達した引き上げるぞ。」


 目的を達したと言いながらも、アーサーの顔は沈んでいた。

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