第42話 ゴーストシップ
僕らが砦に着いた時には、すでに戦いは終わっていた。
砦の建物は炎上し、城壁は崩れ落ちていたが、不思議と直接戦った形跡はなかった。
燃えずに残った建物には、負傷兵が多数運ばれていた。
その建物に入った時に、必死に兵を治療するキルケを見つけた。
「姉さんよかった。」
ラヴィーネが駆け寄って、キルケを抱擁した。
キルケは気丈に振る舞っていたが、ラヴィーネの顔を見て安心したのか、その胸ですすり泣いた。
「あとは私がやります。
キルケ様は、休んでください。」
エレナがそう言って、治療を引き継いだ。
キルケは、ラヴィーネに肩を抱かれながら建物を出て、砦の一角にあるベンチに座り、リンが差し出した水を口にした。
「ありがとう、少し落ち着いたわ。」
「何があったか聞いても良いですか?」
僕の問いかけにキルケがうなづいた。
「この砦は、先ほどアーサー王子が率いる部隊の砲撃にあったの。
砲撃は全部で5回、最初の一撃でフリッツは死んだわ。」
「フリードリヒが亡くなったの?」
ラヴィーネが聞くとキルケは微笑んで言った。
「そうよ死んだわ。物見の塔ごと消し飛んだから何も残っていないけど。
私たちにとって仲間の死は身近なものでしょ? 大丈夫よ私は。」
それが強がりであることはラヴィーネにはよくわかり、そっとキルケの肩を抱き寄せた。
「五発の砲撃だけで、アーサーたちは引き返して行ったのですか?」
「たぶんフリッツ、いいえフリードリヒが死んだのがわかったからでしょうね。
私が反撃するまもなく、すぐ引き返したからそれが目的だったのでしょうね。」
次にラヴィーネが聞いた。
「五発でこの惨状とは、王国に私たちと匹敵する術師なんていたかしら?」
「これは魔法の類じゃ無いわ。
聖剣ライトブリンガーによる攻撃よ。
勇者アイリスによるものだけど、状況が少しおかしいの。」
キルケはそう言って、キルケが見たアイリスの状況を説明した。
「なぜそうなったかは分からない、でも私が見た限り勇者に意思があったとは思えないわ。」
キルケの説明にラヴィーネが意見を言った。
「アイリスは『眷属化』の支配を受けて聖剣ライトブリンガーによる砲撃のための部品にされた。
王国はアイリスを意思のない移動砲台にしたということでしょうね。」
僕は、ラヴィーネに言った。
「僕らは、アーサーたちをこのまま追跡するべきだと思う。このまま戦場に持ち込まれたら危険だ。」
キルケは僕の目を見て言った。
「相手は、100人以上の騎士団を護衛につけていたわ。それに勇者の他に、勇者一行の攻守の要、聖騎士アーサーもよ。」
「大丈夫さ、意思のないアイリスになどに
遅れを取らないよ。
それに、いま僕は一人じゃないしね。」
そう僕はラヴィーネの目を見て言った。
「そうね。行きましょう。
それにあなたはアイリスも助けたいのでしょ?」
僕はうなづいた。
「私たちは、このままアーサーたちを追跡する。
姉さんは、残った兵をまとめてアウグストと合流してちょうだい。」
「わかったわ。メーデイアも気を付けてね。
絶対に無事で戻りなさい。」
その数刻後、僕らは砦を後にした。
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僕らは、馬に乗りアイリスたちの行方を追った。
時間的に丸一日ほど遅れていたが、アイリスが向かった方向はわかった。
「兄さん、なんで勇者が向かった方向がわかるんですか?」
僕の馬上で後に乗っていたリンが聞いてきた。
「僕はね。アイリスとお互いの居場所が分かるペンダントを交換して持ってるんだよ。
アイリスが持っていた方は僕が壊したから向こうからはわからないけどね。」
「でも勇者が持っていたペンダントを壊れしちゃったのに、場所わかるんですか?」
「それがね、僕にも不思議だったんだけど、たぶんアイリスは壊れたペンダントをまだ持っているんだよ。
僕も、それに気づいたのは昨日なのだけど、この砦の近くにいた事をペンダントから感じたんだ。」
「ちょっと兄さん? 勇者の場所がわかるということはこの際置いておきます。
しかし、これだけのことがあってまだ勇者から貰ったペンダントを大事に持っていると?」
そう言ってリンは抱えていた僕のお腹をつねってきた。
「いい痛いって、、、いや僕に未練があったわけじゃ無いけど、思い出の品なんだから捨てなくなっていいだろ?」
リンはムッとすると、大きな声を出した。
「姉さんたち!兄さんが勇者との思い出の品物をまだ大事に持っているんですって!どう思いますか?」
「「最低ね。」」
僕はなぜかラヴィーネとエレナから睨まれた。
半日ほどして、間も無くアイリスたちに追いつきそう頃になり、空気の匂いが変わった。
これは水の匂いだ。
僕らが森を抜けると、そこに海が見えた。
「なるほどね。
気配がしなかったのは海を通って迂回してきてたからなのね。
でも王国にそんな足の速い船があったかしら?」
そうラヴィーネが言った。
僕らが丘を駆け上がると崖の下には入江が広がり、そこに3隻の帆船が係留されていた。
その船は、どれも黒く薄汚れ、壊れかけているようにも見えた。
「まるで
少なくともあれは王国の船では無いわ。」
その船を見てラヴィーネがそう呟いた。
エレナは、強化魔法により一時的に視力をあげると、船の状況を見た。
「乗組員が、馬車を積み込んでいるのが見えるわ。
でも乗組員の状況がおかしい、ボロボロの服をきていて、まるで死体が動いているよう。
ちょっと待って、船室にちょっと上品そうな服を着た男が乗っているわ。」
エレナが、背中をむけている男に集中して視力を上げると、男がエレナの方に振り返った。
「ヒィッ!」
エレナはすかさず岩陰に隠れた。
「どうしたの姉さん、大丈夫?」
リンが、顔が青くなっているエレナを心配して聞いた。
「今乗っている指揮官らしい男が見えたの。
あれはたぶんヴァンパイアよ。
幽霊船みたいじゃなく、あれは幽霊船なのよ。」
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