第43話 船上での戦い

 相手は、勇者、聖騎士と約100人ほどの護衛の騎士、さらに幽霊船までいる。

 僕らはどうすべきか話し合っていた。


「目的は勇者アイリスを使った移動砲台が王都に戻るのを阻止することだね。

 さてどうしようか?」


そう僕が言うと、リンが言った。

「出航したところを、ラヴィーネ姉さんが魔法で沈めちゃえば良いんじゃ無いですか?」


「なかなか過激な発言ね。

 確かに一理あるけど、いくつか問題があるわ。

 まずあの手の船はだいたい防御結界が張られていて、一撃で沈めるのは難しい。それが3隻だと尚更ね。

 それでこちらの居場所が知られて砲撃戦となったら、火力では勝てない。」


「他の難点は?」

僕が聞くとラヴィーネは答えた。


「アイリスが死ぬわ。」


その答えに僕は意外だった。

「ラヴィーネがアイリスの生死を心配するなんて思わなかった。」


「心外ね。私もアイリスとは一緒に戦った仲よ。

 今更アーサーはともかく、アイリスのことは気の毒に思っているわ。

 それに助けたいのは私じゃなくフリューあなたでしょ? 私はあなたの意見を尊重するの。」


ラヴィーネがそう言うと、エレナが発言する。

「私もラヴィーネと同じ意見よ。まあ少し妬けるけどね。」


「私も兄さんに従います。」

リンが手をあげてそう付け加える。


「ありがとう。

 僕は王都でみんなに裏切られ見捨てられたと思って途方にくれたんだ。

 でも、それは誤解だった。結局僕はみんなを信じてなかったんだよ。

 それでもみんなは僕を諦めずに信じてくれて僕は救われた。

 次は僕がアイリスを信じる番だと思うんだ。

 だから僕はアイリスを助けたい。」


 そして僕らはアイリス救出の作戦を立てた。

 僕とエレナとリンは、手分けをして船に潜入し、アイリスの乗った船を突き止める。

 そして、協力してアイリスを救出し、その後船はラヴィーネが沈める。

 

 キルケが目撃したとおりなら、今のアイリスは自らの意思を持って戦うことは出来ないはず。

 もし、アイリスが自らの意思で戦うのであれば、その時は僕が戦う。それがアイリスを殺すことであってもだ。


 荷物の積み込み作業は夜間までかかりそうなので、作戦は日没後に決行することとした。

 

 1番目の船は他の船に比べて状態が良く、100人の騎士たちが乗り込み、アンデットの船員は居ない。ここにはリンが潜入することにした。


 2番目の船は、例の荷馬車が積み込まれ、監視中にアーサーの姿が見えた。

 故にアイリスが乗っている可能性が高いと見て、僕が潜入することにした。


 3番目の船は、1番目の船とは逆に、ほぼ全てがアンデットの船員であり、エレナが見たヴァンパイアもその船に乗っていた。

 エレナは自ら3番目の船に潜入する事を進言した。

 

ーーーーーーーーーーーーーー


 リンはその小柄な体を生かし荷物に隠れて潜入する。

 フリューは泳いで船に取り付き潜入する。

 そして私は、ラヴィーネに認識阻害の魔法と浮遊魔法をかけてもらい、マストてっぺんの物見台まで飛んで隠れることにした。

 少し、いやめちゃくちゃ怖かったので悲鳴を我慢するのが大変だった。


 私には二人の様に船倉に潜入するような技量は無いし、アンデットばかりのこの船にはアイリスが乗っているとは思えない。

 だから私は時が来るまで、このマストの上で隠れることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 兄さんと姉さんは無事に潜入できたかしら?

 私は荷車に載せられた食料の木箱の間に潜んで、船に乗り込んだ。

 

 木箱は船底まで運ばれてしまって、ここから出るのは容易ではない。

 が、私も兄さんと一緒にいるうちに度胸がついたみたいだ。

 なんかこの潜入作戦もドキドキよりもワクワクしていた。


 私は船底を出ると、隙を見て搬入口から船の外側に出た。

 そしてよじ登って窓から船室を覗いたが、どこも大勢の男たちが酒を飲んで騒いでいるばかりで、勇者らしい人は見つからなかった。


 他の窓も探して見ることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 僕は、泳いで船腹にとりつくと鉤爪を使ってよじ登った。

 なぜかこの2番目の船は、他の船に比べて乗員が少ない。

 いや少なすぎた。

 何か嫌な予感がした。


 船は3隻とも出航の準備が出来ていたが、そのまま沖合に停泊していた。


 僕が甲板を覗くと明かりの無い暗闇の中に、20人くらいの人影があった。

 あれは暗部機関責任者エウドアとその部下たち、そしてその中心にアーサーがいた。


「準備は出来ましたアーサー様」

エウドアがそういうとアーサーはうなづいた。

「よし連れてこい。」


 その様子を見ていると、船室から人形のように両腕を抱えられたアイリスが連れて来られた。

 あっ!

 僕は、一瞬腰を浮かしたところで踏みとどまり、そこでアイリス救出の隙を伺うことにした。


 暗部機関の構成員は、アイリスをデッキの高台にある椅子に座らせた。

 そして置いてある木箱を開け中から聖剣ライトブリンガーを取り出した。

 

 何をする気だ?!


 構成員は、ライトブリンガーをアイリスに握らせると、その腕も持ち上げ刃先を1番目の船に向けた。


「準備が整いました。」

エウドアのその言葉の後、アーサーはアイリスに命令した。


「アイリス、打て」


 僕は、その時初めてアーサーたちが何をしていたのかに気がついた。


「アイリス!やめろっ!!!!!」

僕が叫ぶが間に合わず、聖剣の剣先から光に衝撃波が放たれた。


ビジュン!!


その光線は、1番目の船を貫くと船は轟音をあげて燃え上がった。


「リンッ!!!」


 僕の声で、暗部機関の者たちは一斉に振り向いた。

「何者だ!」

振り向いたアーサーと目があった。


「お前、フリューか?!」


「アーサーなぜこんなことを?」

僕の叫びにアーサーは答える。


「お前の知った事ではないがな、王を私が殺したことは誰にも知られてはならんのだよ。

 お前もな。だからここで死ね。」


 アーサーと僕の間に暗部機関が割り込んでいた。


「邪魔だお前たち。この前だって20人足らずじゃ相手にならなかったろ?」

 僕は腰からシャドウブリンガーを引き抜き、黒く実体のない刃を出現させた。


 アーサーは笑いながら言った。

「知ってるぞフリュー! その奇妙な剣は、眷属化をした者だけを切るんだってな。

 フランドルが死んだ時に聞いていた生き残りがいたんだよ。

 ここにいる者たちは誰も眷属化などされていない。

 最初から私に忠誠を尽くす者たちだ。」


 アーサーの言葉のあとに一斉に暗部機関が間合いを詰めてきた。

 僕は、シャドウブリンガーの刃先を伸ばし、一振りし、3人の暗殺者の首をはねた。


「なに! 汚いぞフリュー!」

憤慨するアーサーに僕は言った。


「勝手に勘違いしたのはそっちじゃないか?

 僕は、闇に囚われた者を選別して切ることが出来ると言っただけで、普通に切れないとは言っていないだろ?」


 僕は、自分が戦いの中で気持ちが高揚していくのを感じた。

 暗部機関の訓練の中で培われた悪癖であり、僕は戦いの中で殺戮機械となってしまう自分に嫌悪していたが、それは抑えられない衝動であった。

「さあ、僕の相手になるかな?」


 僕が自身の気を練って自己加速を行い、暗殺者の中に割って入ると、一振りで2人を切り殺した。

 さらに素早く横移動すると、マストや荷物の間を走り抜け、一人また一人と殺して行く


「これで8人か?」


 僕がそういうと、暗殺者らは僕から一定距離をとって取り囲み、僕は船首部分に追い詰められる形となった。


 しかし、その状況においても僕は近づいて来る者を一人、また一人と仕留めて行った。

 3人目を殺したところで、僕の視界の隅にアイリスが映った。

 アイリスの腕は、エウドアに支えられて聖剣の切先がこちらを向いている。


 まさか!


 ービシュッ!ー


 その時、聖剣の光の衝撃波が放たれ、船の船首部分ごと吹き飛ばした。

 その衝撃派により、暗部機関の暗殺者の多くが巻き添いになり消し飛んでいた。


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