第44話 アーサーの言葉

「やったか!」


 アーサーはその燃え盛る船首部を見たが、全てが消し飛んでおり暗殺者のも含めて死体が確認出来なかった。


「僕に代わりに数を減らしてくれて助かったよ。」

僕は、アーサーの後ろから声をかけた。


 アーサーが振り向くと、そこには首の落ちたエウドアの死体が転がっていた。


「なんでだ! なんで生きているフリュー!」


 アーサーは自らアイリスの腕を掴んで僕に剣先を向ける。

「アイリス打て! 打て!」


聖剣の剣先から光の衝撃波が放たれる。


ービシュッ!ー


ーシュルルルー

僕は、シャドウブリンガーで衝撃波を受け止めた。


「何をやった、その剣はなんなんだ!」


激昂するアーサーに僕は答えた。


「これは精霊の剣シャドウブリンガー、聖剣ライトブリンガーと対なるもの。

 勇者の暴走を止めるため、勇者殺しのための剣さ。」



「そうか、はっはっはっは!」

 アーサーは突然笑い出すと自らの剣を抜いた。


「お前はいつでも私の欲しいものを持って行く、その剣があればあの叔母様にでも勝てるかもしれんぞ。

 私は、人生をめちゃくちゃにしたあのエルザベエトを殺したいのだ。

 その剣を譲れフリュー!」


 アーサーはそういうと僕に切り掛かってきた。

 

 さすが勇者一行の聖騎士だけあってその剣は鋭く、その連撃で僕は後退して行った。


 僕はフェイントステップを踏んで、横、後ろへと回り込もうとするも、その都度体を入れ替え視界に捉えられていた。

 アーサーは僕の短剣の間合いを完全に読んでいた。

 逆に僕は、戦闘が長引いていたせいで速度が落ちていった。


「アーサー、に戦えば強いじゃないか。なんでに生きようとしない。なぜアイリスにこんなまねをした!」


 僕は悪態をつくとアーサーは返した。

「私は、いつだって自分に正直だったよ。

 欲望のままアイリスをオモチャにしてやったよ。女を取られてどんな気分だフリュー!」

 

 アーサーが一気に踏み込んできて、連撃を叩き込んできた。

「お前は知らないだろう、ベッドの中のアイリスは上物だったぞ。

 さあフリュー! 嫉妬に狂え! そして死ね!」


 僕は、アーサーから罵られ逆に冷静になった。

「バカか? アイリスがそんなことする訳ないだろ?」


 僕は一瞬の隙を見てサイドステップでかわし、横から精霊の剣を振り抜く。

 それをアーサーは体をひねってかわそうとしたが、僕の剣先はアーサーの喉元を切り裂いていた。

 アーサーは喉元から血飛沫を上げ、そのまま膝をついた。


 アーサーは息絶え絶えの状態で僕を見上げた。

「...汚いぞ、その剣は短剣じゃなかったのか?...」


「勝手に短剣だと思っていただけでしょ?

奥の手は隠しておくから奥の手なんだよ。」


アーサーは虚ろな目をしながら話し始めた。

「...私は、3人の愛などいらなかった。

 ただ一人でも私に振り向いてくれればそれで満足だったんだ。

 お前がいけないんだよフリュー...」


「あなたの境遇には、僕も気の毒だと思ってるよアーサー。

 王子としてのあなたとは敵対してしまったけど、旅の仲間としては頼れる兄貴分だと思っていたよ。」


「...死ぬ前にそんな優しいことを。やめてくれ。

 私は、アイリスを助けたかった...それは本当だ。

 あの魔女は国を滅ぼす。エルザべエテに勝てる力が欲しかったんだ...」


 グホッ、、

 アーサーは口から血を吐くと目を瞑った。


「なあフリュー、さっき言った話しは嘘だ。」


「さっき? どの話だい?」


「アイリスをオモチャにしたって話だ。

 私はアイリスには指一本触れていない...

 アイリスは純潔のままだ、お前に返そう。」


「返そうって...

 アイリスは僕のものではないし、それは僕が決めることじゃ無いよ。」


「まあそう言うな...あの旅は楽しかった。」


その言葉がアーサーに最後だった。


「僕も楽しかったよ。アーサー」


ーーーーーーーーーーーーーー


 船の船頭は未だ燃えているが、かろうじて船は沈んでいなかった。

 船員は誰も残っていないようだ。


 その時、船縁に指がかかった。

 そして、よじ登ってきたリンが顔を出した。

 

「あーびっくりしましたね。兄さん。

 突然、船が爆発して大変でしたよ。

 幸い私は船腹に取り付いていたんで、海に落ちただけですが、船底にいたら危なかったですねぇ。」


僕はリンの顔を見てほっとした。


「おーい!! そっちは大丈夫だったの?」

3番目の船のマストの上からエレナが叫んでいた。


「はーいこっちは大丈夫です。そっちは大丈夫ですか?」

とリンが叫び返した。


「うん、こっちはアンデットばかりだから、出てきたのを順番に上から聖なる光ホーリーライトで焼いていくだけだから簡単だったよ。

 あとヴァンパイアっぽいのも居たけど一緒に焼いておいた。」


「みんな無事で良かった。戻ろう。」


 僕は、アイリスを抱き抱えると、非常用の船を降ろして岸に戻った。


ドガァン!!ドドドン!!!!


 その音に驚き振り返ると、3隻の船に雷が落ち、燃え上がっていた。


「今更燃やしても、ラヴィーネ」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 浜辺では、なんとか岸までたどり着いた兵が十数人かいたが、皆戦意が喪失しており、全員が浜辺で座り込んでいた。

 僕は剣先を向けると、一人の兵士に質問した。

 

「君たちは誰の命令でここにきたのか教えてくれる?」


 その兵士は、僕を見上げると首を振った。

「それが俺にも分からないんだ。

 気がついたらここに居たとしか説明できない。

 そうだ...思い出した。」

そう言うと兵士は、耳の下あたりの首に手を当てた。

「俺たちは集められ、宰相が連れてきた顔が青白い不気味な男に首を噛まれたんだ...

 そこから先の事は、ずっと夢の中にいたようであまり覚えていない。」


「なるほどね。」

 僕の後からラヴィーネが現れた。

「眷属化は魔女だけじゃ無かった、背後には他にもヴァンパイアがいそうね。」


「アーサーは死ぬ間際に言ったんだ、あの魔女は国を滅ぼすって。」


「アーサーが死んでも、諦めることは無いでしょうね。」


 その時、聖剣ライトブリンガーを抱えたリンが言った。

「これはどうするの?」


 ラヴィーネは少し考えてて言った。

「これは王国の国宝だけど、とても危険な兵器よ。アイリス以外に使いこなせる者は居ないとは思うけど。

 とりあえず持ち帰って厳重に保管するというのが最善じゃないかしら?」


僕には迷いは無かった。

「こうするんだよ!」


 僕はリンから聖剣を受け取ると、それを海の中に投げ捨てた。

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