第45話 呪縛
王都の一角で、秘密裏に貴族らによる会合が行われていた。
「ここに集まっているのは、宰相サイロスの口車に乗り、自らアーサー王子に元についた貴族に間違いないな。
自らの正義を語るのであれば、この集まりにはふさわしく無い。
ここは権力にしがみつき、サイロスに靡いた者の集まりだ。」
この会の議長であるプラド伯爵が自虐的に言うのは理由があった。
参加する貴族らは自らの意思で泥舟に乗ったことを自覚しており、今更正義をとりつくれば、逃げ道がなくなることがわかっていた。
「いいだろう。先を続けよう。
すでに聞いている者もいると思うが、私の耳に入っている話をしよう。
先日フリードリヒ国王がアーサー王子の手で殺され、そしてそのアーサー王子も何者かに討たれたらしいとのことだ。」
その内容に皆がざわついた。
その時、その会議に参加していた情報将校のイレイラ男爵が発言した。
「私の耳に入っている情報では、アーサー王子と共に、王子と行動を共にしていた暗部機関が全滅したと聞いています。
それに、王子を討ったのは先日国を追われた斥候だったとか。
別の情報では、敵側は、その斥候を英雄に祭り上げていると聞いています。」
プラド伯爵が続けた。
「ワシの聞いている話と同じだな。
敵、いやもう敵と呼ぶべきか迷うが、相手側を率いているアウグスト王子の手勢は約8千、それに対して王国側はその4倍。到底勝負になる戦力差ではない。
しかし、その王国軍を率いているのは宰相サイロスと、傾国の魔女だ。
このままだとこの国は滅びるぞ。そうは思わんか?」
プラド伯爵の言葉に、別の貴族が発言した。
「それは私も憂慮しておりますが、魔女に手持ちの軍を召し上げられ、王都の貴族である我々には戦う力はありませんぞ。」
「そうだ。
だからできる事をやろうというのだ。
ここ中には王都の外に手勢を持っている者もいるだろう。
それをアウグスト王子に加勢させる。
あと中立をきめている王都外に寄子を持つ者は、王子側につくよう働きかけるんだ。
それでどれだけ対抗できるか分からんが、あとは神に任せよう。
皆、後悔しているのだろうが、もう遅いなどということはない。」
そのプラド伯爵の言葉に異議を唱えるものはいなかった。
「分かりました、やりましょう。」
「どのみち国が滅びれば遅かれ早かれ我々も死ぬ。」
そうして一人、一人賛同の言葉を口にして、この反乱者の集いは解散した。
ーーーーーーーーーーーー
僕らは、早馬で連合軍の元に戻ってきた。
仮設の天幕では、フリードリヒ国王の死去の知らせを受け沈んでおり、ラヴィーネは、一人アウグストら幹部の元で報告を行っていた。
「そうアーサー王子は死んだの。
その知らせであの人が喜んでくれるとは思わないけど、私は少し救われた気がするわ。」
そうキルケは言った。
「今ころ敵さんのところも、アーサー王子が死んだ知らせを受け混乱してるだろうよ。
他家に婿にやった王子とか、幼少の王子がいるらしいが、次は誰を国王に擁立するんだろうな。」
アウグストの言葉にラヴィーネは意見した。
「私の予感だと、もうあちらはヴァンパイアの傀儡になっていることを隠さないんじゃないかしら?
フリードリヒを討った部隊は魔女エルゼベエト以外のヴァンパイアに支配されていたけど、10人以上が王都に逃げ帰ってるはず。
王子が死んだのが伝わってるなら、もう隠し通せるとは思えないわ。」
「ということはどういうことだ?」
「正当性を主張できない以上、ヴァンパイアに乗っ取られるのでは? ってこと。
やるべきことは変わっていないわ。
魔女エルゼベエトを殺すしかないってことよ。」
「なるほどな、もうあまり時間は無いな。
あとは勇者をどうするかだが、王殺しとはいえ、あの状態じゃあな。」
アウグストにキルケが言った。
「あの子は被害者よ、罪には問えないわ。
私も死んだフリードリヒもそんなこと望んではいない。」
「だよな...俺もそう思う。
ところで当の勇者はどうした?」
アウグストの問いにラヴィーネが答えた。
「今フリューたちが魔王に姫さまのところに連れて行ってる。」
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僕らは、猟師の山小屋を間借りしていた。
そこでは、魔王国の女王イブリンは、勇者アイリスの両手の平を握り、向かい合って座っていた。
イブリンの金色の目が光を宿し、アイリスの光の無い目を通して、心の奥底を覗き込んでいる状態が長く続いていた。
僕とエレナとリンそして魔将ラミアは、そばでその状況を見守っていた。
しばらくして様子が変わり、アイリスの光の無い目から涙が流れ落ちていた。
そして突然アイリスが意識を失い崩れ落ちた。
僕はアイリスを抱き抱えると、そのまま猟師小屋のベッドに寝かせた。
イブリンの瞳の輝き消えると、みんなの方に向き、悲しそうな顔で話し始めた。
「この女の子を縛り付けていた黒い力は全て消したわ。
この子の心には鍵がかけられていた、だから今まで魔女の支配を受けずに助かったのよ。
でも、その鍵は壊れちゃっていて、もう開かない。」
「それは一生開かないってこと?」
「それは私にも分からない。これは魂を奪われないための勇者の力が施した封印」
「でも、でも自分でかけた封印なら自分で解除できるのではないの?」
僕の問いにイブリンは首を振った。
「そんなに簡単じゃないわ。
彼女の意思と、『勇者の力』は別々なの。
自分の気持ちに逆らって、『勇者の力』がかけた封印は、自分が解きたいと願っても簡単には解除できないわ。」
僕はその答えに呆然とした。
「フリューそんなに悲しそうにしないで。
いつかこの世から敵がいなくなったら、『勇者の力』が鍵を開けてくれるかもしれないわ。」
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私は、フリューを裏切ってしまった。
そしてフリューは私から離れて行った。
離れて行くフリューを見て、私は助けたいと思ったけど、それがそもそもの間違いだった...
救われないのは自分、私は気づかぬまま、王国の貴族であり勇者であることの呪縛に囚われていた。
呪縛から抜け出したエレナとラヴィーネが羨ましかった。
私は、何とかしたいともがいたが、私の思惑とは逆に、自らの手でフリューを死なせてしまった。
私は嫉妬して後悔してそして心が壊れていった。
失意と絶望のままアーサーに呼び出され、そのまま慰み者になっても仕方がないと諦めたけど、自暴自棄になった私にアーサーでさえも興味を無くしていた。
私は、辛い気持ちから抜け出したい一心で魔女に身をまかせた。
そこからは、何か夢を見ているようだった。
夢といっても悪夢を...
その夢の中の私は人形となり、殺戮機械の部品となっていた。
そしてアーサーが死んでいくのを夢で見た。
あれほど嫌っていたアーサーだったが、夢の中の私はアーサーが哀れと感じた。
そこで意識が途切れ、今、夢から覚めた。
私の目の前には、小さなツノの生えた小さな女の子が私を見つめていた。
その金色の目は光り輝き、私の心の奥底をのぞいているようだった。
この子が私を夢から覚ましてくれたことが何となくわかったが、女の子は私の最後の呪縛に触れると、諦めて引き返して行ってしまった。
『待って!私はまだ捉えられているの』
私の心の声は女の子には届かなかった。
気付くと女の子の後で見守っている人がいたエレナ、そしてフリュー。
『ああ、死んでなかったのね...良かった。』
私は涙が流れ落ちるのを感じた。
フリューが今ここにいる。
私は手を伸ばそうとしたが動かなかった。
フリューに話しかけようとしたが声が出なかった。
最後の呪縛に捉えられた私にはその光景が、決して壊すことが出来ないガラスの外ように感じた。
やっと光が見えたのに...
私はガラスに牢獄に閉じ込められている自分に気がついた。
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