第68話 レブロン号強襲

 神竜ティアマトは、海上に頭だけを出してエスメラルダ号に向かっていた。

「ウェヌス! あなたの神竜様は私たちを狙っているわ! どうにかならないの?」


「我々は神竜様の餌だと言ったじゃ無いですか! どうにも出来ませんよ!」

 ウェヌスはアリタリアに責められると、尻尾を巻いて潜って行った。


「ちょっと!! あんた餌なんだからあんたを狙ってるんじゃ無いの? 逃げるんじゃないわよ!」


「船長、撃ちましょうか?」

冷静なマーカス副長の助言にアリタリアは首を振った。

「無駄よ、あんなに速いのに当たるわけ無いわ。」

 アリタリアは防御結界の詠唱を準備する。


「諦めないで、魔導推進を使って逃げるわよ。

 緊急発進の準備して!」

そう指示を出したところ、遠くで声が聞こえた。

「おーい!」


「竜の頭に誰かいます...あれはフリューだ」

マーカスは望遠鏡を覗いてそう言った。


 ティアマトはゆっくりエスメラルダ号近づき船の横で停止する。

「待たせたね」

 僕はそう言うとティアマトの頭から甲板に飛び移った。


「待たせたねじゃ無い! あなたドラゴンスレイヤーかと思ったらドラゴンライダーだったの? 本当のジョブは何?

 うちに元神官がいるからジョブを鑑定させなさい。」

戻ってくるなりアリタリアに怒られた。


「それは勘弁して欲しいなぁ......

 それよりも今は急がないといけない話がある。

 僕らはあのクラーケンを倒さないといけないし、あの船団も何とかしないといけない。」


 僕が話を切り替えようとしたその時、水面から恐る恐るウェヌスが顔を出した。


『我が娘か?』

ティアマトがウェヌスを一瞥するとウェヌスがまた潜っていった。


「あれ? もしかしてティアマトの声が聞こえないの?」

僕がそう言うとウェヌスが顔を出した。


「フリュー様にはティアマト様の言葉が分かるのですか?」


『我と精神を同調させられる者は多く無い』

ティアマトの言葉は寂しそうだった。


「それは寂しいね。

 自分の眷属とも意思を交わせないなんて。

 友達として話し相手くらいにはなれるよ。」

『寂しくなど無いわ!』

「僕も追放されたことがあるからね。

 その気持ちは分かるんだよ」

『勝手に話を進めるでない!』


ウェヌスが僕らの会話を不思議そうに見ていた。

「本当にフリュー様が神竜様と会話してる......」


「ティアマトの言葉は僕が通訳するから本題に移そう。」

 ウェヌスは海中から飛び上がり甲板に上がった。

「そうでした。 偵察に行っていた者から報告がありました。

 ティアマト様から離れたクラーケンは突如あの大船団の元に現れ、3隻ほどの船を沈めたようです。」


「クラーケンはあの船団とは無関係だったってこと?」

アリタリアの言葉にティアマトが口を挟んだ。

『そうではない、100年前、知能がないはずのクラーケンが何者かに操られて我を襲ってきたのだ。あの船団が無関係とは思えん。』


「・・・・・・だって。

クラーケンの生贄にされたらしいよ。」

僕はティアマトの言葉を通訳した。


 ウェヌスは続けて報告した。

「あの船団26隻中、3隻がクラーケンに沈められ、残り23隻です。

 沈んだ3隻と残りのうち13隻は、リドニア帝国の船だと思われます。」


「残り10隻は?」


「それが.......

 残り10隻の船員は皆んな死んだような顔をして様子がおかしかったとの報告です。

 その中の1隻はエイミアを攫ったあの船でした。」


 アリタリアはティアマト見て言った。

「ヴァンパイアと帝国の混成部隊ってこと? あなたも随分といろいろな相手から怨まれてるわね」

『寒い場所に住む連中は、実り豊かな暖かい場所を憧れる。

 我は、南方の民との契約により、北方からの侵略を食い止めてきたのだ。』

「私も、弱い者の為、略奪者と戦ってきたもの、気持ちは分かるわよ」

 

「アリタリア、言葉が通じないのによく会話ができるね?」


「なんとなくよ。

 それよりもどう戦う? 

 相手はクラーケンと23隻の敵船、こちらは神竜と1隻、どうしてもぶが悪いわ。」

アリタリアはそう言ってため息をついた。



 その時、ティアマトが沖を見て呟いた。

『クラーケンの気配を感じる』


 ティアマトの見つめる先には、アヴァロンの船3隻が停泊していた。

 間も無くして海面が波打ったかと思うと巨大な柱のようなクラーケンの足が1隻を取り囲む現れた、その船を飲み込んだ。

 船体は轟音と共に破壊され、あっという間に海底に引き摺りこまれていった。


 残った2隻は、緊急に帆を張るとそれぞれ別々の方向に走り出した。


「アヴァロンの船の1隻がクラーケンに沈められた。 至急救援に向かうぞ。」

そうアリタリアが指示すると同時に背後で水柱が上がった。


ドゴォーン!!

音の方向を見ると、船団から1隻だけが距離を詰めてきていた。


「なんで気づかなかった?」

アリタリアの怒声に、マーカス副長が望遠鏡で確認しながら答える。

「あれは尋常じゃない速さで近づいています。

 通常の3倍かそれ以上、このエスメラルダ号より足が速い。」


「そんな馬鹿な? 何らかの魔法かあるいは魔道具を使っているのは間違いないな。」


マーカス副長は望遠鏡を見ながら言った。

「......ちょっと待ってください。

 あれは、『レブロン号』ラーフェンの船です。」


先日のグローリア号の僚船の名前だ。

「ヴァンパイアに操られてる船だね。」


『忌々しいヴァンパイアめ』

ティアマトはそう言うと、レブロン号にめがけてブレスを吹いた。

----ビジュン!


 しかし、レブロン号はありえない動きでティアマトのブレスを回避した。

『なんだあの船の動きは?

 我がブレスを吐く瞬間には移動していたぞ。』


ドゴォン!  ドゴォン! 

 レブロン号は大砲を連射してきたが、距離が詰まってくるにしたがってその精度が上がっていく。


「魔導推進を使って緊急発進だ!」

アリタリアの指示で、船員たちが慌ただしく動いた。


「ティアマトもここから離れて!

 あの船は異常だ」

 僕がそう言うとティアマトは海に潜っていった。


「アリタリア、あの船をなんとか出来る?」

「速度も運動性もこちらより上、その上手数もある。

 こちらの攻撃が当てられない以上、私の防御結界が切れたらおしまいよ。」


その時、レブロン号は急に向きを変えると、元いた場所の海中からティアマトが飛び上がってきた。

 そして、飛び上がったティアマトにレブロン号が至近距離から砲撃を浴びせた。

 ティアマトは、そのまま落下すると再び海中に沈んで言った。


「ティアマト様!」

ウェヌスが叫んだ。


今の光景を見てアリタリアの目付きが変わった。

「分かったわよ、あの船の謎が。」

 

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