第69話 ルーク船長の最後
レブロン号は、ティアマトが水中から襲いかかる直前に向き変えかわし、出てきた瞬間に砲撃を浴びせた。
「まるで未来が見ているような動きだった」
僕の意見にアリタリアは首を振った。
「違うわ。
あの船の周りだけ時間の進み方が違うのよ。
エイミアを救出した時の航海日誌を覚えている?
あの日記の終わりが前日の夜だとすると、私たちより3日進んでいる。
3倍早く時間が進んでと考えると辻褄が合うのよ。」
その説明を聞いて僕は思い出した。
「確か、ウェヌスがグローリア号からあの船に宝珠を積み替えていたとも言っていた。」
「この仮説が正しいとして、打開策があるわけじゃ無いのだけど。」
「いや仮説を検証することは出来るよ。
3倍早く反応出来ても近づけばそれだけ回避する時間がなくなるはず。」
「つまり突っ込むって事ね分かったわ。」
アリタリアが決断すると、エスメラルダ号は防御結界を展開しながら敵船に突入して行った。
すると敵船は砲撃を繰り返しながら一定距離を保っていく。
「やはりね。
で、仮説が正しいとしてこれからどうするの?
防御結界を張ったままではこちらも撃てないし、結界を解いたら砲撃の餌食よ。」
アリタリアの意見に僕はウェヌスを見た。
「僕にいい案がある」
ウェヌスは首を傾げていた。
アリタリアが指示を出す。
「今から進路を右寄りで距離を詰め、あの船を右回りに誘導する、距離感を間違えるな。」
その指示によりエスメラルダ号が進路を右に変えながら敵船との距離を詰めていくと、敵船は右回りに一定距離を保った。
「良いぞ! そのまま進め」
その頃、僕とウェヌスは、元いた場所の海中に潜っていた。
僕は筒を海上に出して呼吸し、その位置をウェヌスが保ってくれている。
エスメラルダ号に誘導され、レブロン号が徐々に僕達がいる場所に近づいてきた。
(今の自分は3分の1の速度でしか動けない。
見つかったら死ぬ)
まもなくぶつかる、僕とウェヌスが海上に少し顔を出すと甲板の状況がはっきり見えた。
船員は、動きが遅い屍人であるが、不自然に早回しのように動いていた。
そしてその瞬間が訪れた。
船が数メートルの範囲に入った瞬間、突然甲板の状況がゆっくり流れていた。
(時間を進める魔道具の範囲に入った!)
「今です」
僕はウェヌスに乗って船と並走すると、シャドウブリンガーの刀身を伸ばしレブロン号の船体に突き刺し取り着いた。
後方のウェヌスを見ると、魔道具の範囲外に出ており、ゆっくり潜っていくのが見えた。
ウェヌスが無事逃げられホッとした。
僕はもう一本ナイフを出して船体に突き刺し、船の外周を移動すると、開いていた窓を見つけ船室に入った。
僕は気配を消して、気配察知スキルで船内の様子を確認した。
基本的な作りはグローリア号と同じか、甲板上にヴァンパイアが1体と、船長室にもう1体、あとは屍人だな。
僕は船長室に宝珠があると見て、船長室に向かった。
僕が船長室のドアを開けると、船長の机の上に青く光る宝珠が置かれ、椅子には青白い顔の若い男が座っていた。
男は僕に気がついた。
「お前は誰だ?」
「僕はフリュー、アヴァロンで雇われて海洋調査に来ました。
確かルーク船長でしたね?」
この状況においてルーク船長は落ち着いていた。
「ほおぉ、生前の僕を知っているのか。
僕はもう船長じゃないよ。
人間ですら無い。」
そういうルーク船長の顔は諦めているようであった。
「ヴァンパイアの血を多量に与えられ、ヴァンパイアの仲間になった......というところかな?
それでも正気を保っているのは大した精神力ですよ。」
僕は偽りなく感心していた。
「なかなかその歳でヴァンパイアに詳しくようだね。
そうさ僕はヴァンパイアに迎えられた。
それもこれも海洋国家ラーフェンの貴族であるこの僕を傀儡とするためさ。
僕が正気を保っているように見えるのならそれは間違いさ。
僕は諦めているんだよ......父上の跡をついで立派な船乗りになろうと思ったんだけど......
僕はどこで間違えたのかな?」
ルーク船長は泣いていた。
「運が無かったんですよ。」
「そうかもな」
ルークは僕に向き合うと席を立って窓の方に向かった。
「さあ、僕が僕であるうちに僕を殺してくれ。」
僕はルーク船長を気の毒と思いながらも、もう人には戻れないことを知っていた。
「わかったよ。」
僕はそう言ってシャドウブリンガーでその首を落とした。
ルーク船長の遺体は灰となって消えて行った。
ルーク船長が亡くなるとともに、宝寿は光を失い、それまで早く流れていた窓の景色は元に戻った。
「僕はまた人一人助けることも出来なかった。
無力だな......」
後の始末はアリタリアにお願いする事にして、僕は窓から海に飛び込んだ。
そして海中で待機していたウェヌス引かれて、船を離れた。
振り返るとレブロン号はすでに燃え上がっていた。
「攻撃するタイミング早すぎない?
僕が脱出したって分からないだろ?」
僕のぼやきにウェヌスは笑っていた。
「アリタリア様は、フリュー様を信じているんですよ......たぶん。」
「きゃぁ!」
突然海中からティアマトが浮上し、僕とウェヌスを頭の上に乗せた。
「ああ、ティアマト無事で良かった! 心配したよ。」
僕はティアマトが無事であることに安心したが、ティアマトは焦っているようであった。
『我も無事という訳では無いが、それより問題がある。
娘よ、おまえの故郷にクラーケンが向かっている。』
「なんだって?」
ティアマトの言葉が分からないウェヌスは首を傾げていたので僕が説明した。
「人魚の里にクラーケンが向かっている。
早くなんとかしないと......」
「里に......」
ウェヌスは真っ青な顔で狼狽えていた。
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