第67話 クラーケンからの解放

 ティアマトは、多少もがいて見せるもクラーケンの足はびくともしなかった。


『さて、全盛期の魔力を取り戻したと言っても、クラーケンを振り解くのは至難の業じゃな。

 なんとかクラーケンの足を何本か解ければ......』


「とりあえず、裏返ることは出来る?」


『なんとかなるとは思うが』


「じゃあ、少し時間をちょうだい。

 僕が合図したらクラーケンの頭が海上に出るように頑張って見てよ。」

 そう言うと、海岸線に言ってウェヌスを呼んだ。


「ウェヌス! これから少し時間をおいてクラーケンの頭が海上に出るようにする。

 僕が合図を出したらその場所にできる限りの威力で攻撃してくれるようにアリタリアに伝えてくれる?」


「どうやってティアマト様を裏返すんですか?

 そのまま攻撃されるとティアマト様が......いいえフリュー様を信じましょう。

 分かりました伝えてきます!」

ウェヌスはそう言ってアリタリアの元に向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 フリューが神竜ティアマトのもとに向かってしばらく経った頃、一度、濃い霧の中で轟音とともに光輝くのが見えた。

(あれば神竜のブレスね、本当に大丈夫かしら?)


 私がフリューを心配していると、しばらくしてウェヌスが戻ってきた。


「アリタリア様! フリュー様からの伝言を預かってきました! 合図を送ったらその場所にいるクラーケンに向かってできる限りの攻撃をしてくれとの事です。」

 フリューは無事だったのね、私はウェヌスの言葉にほっとした。


 それにしても無茶を言ってくれる。

「この霧じゃクラーケンの場所は見えないわよ」


「詳しい説明は無かったのですが、この霧の中でも見える合図を送ると言うことでは?」


 今はフリューの言葉を信じるしか無いわ、奥の手を使う時ね。


「今から魔導砲を使用する! 船首を海岸線に向け、魔道砲発射準備!」


 私の号令によりデッキ中央から魔道砲が迫り上がってくる。

 この魔道砲は、カードリッチに充填した魔力を解放することにより、通常の大砲数倍の威力を発揮する秘密兵器だった。

 

「魔導砲カートリッジ充填完了しました。

 いつでも撃てます。」

マーカス副長より報告を受け指示を出す。

「しばらく待機、照準と発射のタイミングは私が指示する!」

 さあ、いつでもきなさい!



 

ーーーービジュン!


 しばらくすると、霧の中に上空目掛けて立ち上る光の柱が現れた。

 あれね!

「照準はあの光の柱の根元!

 照準がつきしだい魔導砲発射!」


「アイマム!

 照準0時方向光の根元、魔導砲、撃て!」

マーカス副長の号令により魔導砲が発射された。


ーーーーーーーーーーーーーーー


それより数分前


「準備はいい? それじゃあティアマトは上空目掛けてブレスを吹いた直後に全力て潜ってクラーケンを洋上に出すんだよ!

 遅れたら痛い一撃を受けることになるからね。」


『わかった、やってみる』

ティアマトは緊張する目で僕を見ていた。


 僕は衝撃に備えて岩陰に隠れる。

「いいよ!やっちゃって!」


ーーーーーービジュン!

ティアマトは、上空めがけてブレスを吐いた。


『ちょっと!! 重いぞ!』

ティアマトは全力で暴れてなんとか半分海面に入った。

『まずいぞ、お主、助けるのだ!』


「大丈夫! クラーケンを沖の方に向けてそのまま耐えて!」


ヒュー......ドゴォオッ!!


 その直後、ブレスに匹敵する衝撃がクラーケンに命中した!

 クラーケンはもがき、一瞬ティアマトを抱えていた腕が離れる、その隙をついてティアマトは全力で足から逃れて飛び立った。


『死ぬかと思ったわ!』


 クラーケンは一時もがき暴れ、そのまま海底に潜っていった

 クラーケンが姿を消すと、付近の霧が晴れていく。


「ちょっとこれはマズいよね......」

霧が晴れたあと、海峡の北側はるか遠くから二十隻を超える船団がこちらに向かってくるのが見えた。


 逆に南側には直近にエスメラルダ号が停泊し、さらに遠方の沖に3隻のアヴァロンの船団がこちらに向かってきていた。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 突然に霧が晴れ、シーガル号と僚艦2隻はこの状況に遭遇した。


「親父様、これはどう言う状況でしょうか?」

「俺に分かるわけがないだろう?」

 リディの問いかけも、このカオスの状況にドレイク船長は混乱していた。


「オイラにも分かるように説明してくれないか?」

「だから俺も混乱してるんだ。

 この距離で見える巨大な竜はリヴァイアサンか? じゃああの巨大なタコの様な怪物はなんだ?

 あの大量の船どこからきた?

 北部諸国のどこかだろうが、あんな大船団を一斉に動かしたら敵対行為とみなされ戦争になりかねいぞ。」

 

「じゃあ反転して逃げるかい?」

ウルの提案にドレイク船長は渋い顔をした。

「逃げたいのは山々だが、あの大船団も怪物もこのまま見過ごせないだろう。

 情報を掴んで持ち帰らんと下手したら国が滅ぶぞ」

 

 ウルは、竜の手前に停泊している船を指差した。

「あっ! あの竜の手前に止まってる船って、兄貴を連れ去った船じゃないかい?

 兄貴なら何か知ってると思うぜ!」


「ありゃあ女海賊アリタリアの船だ。

 俺たちを襲った船だぞ。

 いったいここで何が起こってるんだ?」


「オイラに小舟を貸しておくれよ、兄貴に聞いてくる。」


「あんたにヨットの操船は無理でしょ? 私も行くわ。」

 そう言ってリディが、上陸用のヨットを船から下ろした。


「言っても聞かないだろ?

 俺たちかここで待機する、何かあったら逃げ帰ってこい。」

 ドレイク船長に送り出されて、ウルとリディが乗ったヨットはエスメラルダ号に向かった。



ーーーーーーーーーーー


 大船団の旗艦の船長室では、船長が大船団の指令官に意見していた。

「グンジェイ司令官殿、私はあのヴァンパイアどもがどうにも信用ができないのです。」


 グンジェイ司令官が、陰鬱な顔を船長に向けて言った。

「その気持ちは理解するが、我がリドニア帝国は宿敵リヴァイアサン殺す絶好の機会を得たのだ。

 利害が一致している以上、ヴァンパイアと手を組めと言うのは皇帝陛下の決定事項だ。

 私にも逆らえん。」

 

「ですが......どこからか集めてきた屍人の船員が不気味とは思わないのですか?

 私もいつかああなるかもと思うと怖くてたまりません。」


「船長、迂闊なことを言うな!」


 突然、部屋の陰から青白い顔をした男が現れ、その赤い目が船長を睨んだ。

「船長は我々がお気に召さないと?」


「いいやそう言うわけでは...」


「船長殿に用はない、グンジェイ司令官に連絡に来た。

 クラーケンが解き放たれてまもなくここに到着する。

 船を2〜3隻餌としてクラーケンに食わせる、出来るだけ若い船員が良い、見繕ってくれ。」

 その発言に船長は憤慨した。

「そんなこと出来るか! そちらが連れてきた船を食わせればいいだろう!」


「お主には言っていない、これは相談じゃ無い連絡だと言っただろ? そもそも屍人は餌にはならんよ。

 お主らが言う通りにすれば我々は古い盟約にしたがってクラーケンを使役してやる。

 あの化け物は犬と同じだ、何も餌をやらなければこちらの言うことも聞かんよ。

 今は飼い慣らす餌が必要だ、なんならこの船でも良いのだよ船長」

 船長は驚愕に震えていた。


 グンジェイ司令官は、渋々その話を飲んだ。

「3隻を先行させる...

 それを食わせてくれ。」


「我々が餌の船に化け物を操る宝玉を持たせる。

 それをあの化け物が食えばあとは我らの意のままに動く。

 そうだなぁ。人魚の里でも襲わせるか。

 人魚の魔力は美味だから惜しい気もするが......」

 男はそう言うと笑いながら窓から飛び出し、黒い羽を広げ飛び立った。

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