第66話 神竜ティアマト

 迂回して森を抜けると目の前に白い巨体が横たわっていた。

 頭は力なく地面に臥しているが、その目はしっかりと僕の方を見ていた。

 気配察知スキルで感じた感情は敵対心。

 暴竜ニーズヘッグ以上に感情が剥き出しに感じられた。

 (ここで見ていても何も解決はしない、とりあえずあの絡んでいるクラーケンの足に攻撃が通るかやってみようか)


 僕は、森を抜けて走り出した。

 神竜ティアマトが口を開くと、その奥が白く輝き出した。


 僕はシャドウブリンガーを構える。

 その直後、ティアマトのブレスが白い力の奔流となって放たれた。

 僕はステップで直撃を躱し、躱わしきれない力は、シャドウブリンガーから力を放出して相殺した。

「僕も相棒の使い方を学んできたんだよ!」


 予想どおり、ニーズヘッグと同様に二発目は充填に時間がかかるらしい。


 僕はティアマトの頭を飛び越えると、クラーケンに足に切りかかった。


キンッ

「固ったい!!」


 シャドウブリンガーの刃は今の一撃で砕け散ったが、その直後に黒い霧が集まり刃が再生する。

 僕は自分の意思でシャドウブリンガーの硬度や質量、形状をコントロール出来るようになっていた。

 硬度をあげるとそのぶん脆くなぁ、次はこれだ。

 剣の先端を出来るだけ鋭角にし、先端の硬度をあげた。

 そして飛び上がると体重をかけてクラーケンの足に突き刺した。


パリンッ

またしても刀身は砕け散った。

「これもダメか」


 僕がティアマトの体の上で体制を整えると、ティアマトは首を振って僕を噛みつこうとしてくるが、狙いが定まっていない攻撃は当たらない。

 暴竜ニーズヘッグと同種族だとすると、随分と思慮が足りなすぎる......

 僕はティアマトの目を見て、精気がなく虚ろなことに気がついた。

「まさか正気を失っているんじゃ無いのか?」


 僕はシャドウブリンガーを棍棒の様に質量を持たせると、目一杯の力でその顔を殴り飛ばした。

 ティアマトの目が大きく開かれ、光を取り戻した。

『痛い......』

 僕の頭に中に、女性の声が響いた。


「ティアマトはメス...?」


『誰じゃ? 人間がそこで何をしている?』


「僕の声が聞こえる? あなたがクラーケンに捕らわれているのを助けに来た。

 正確には、生贄にされようとしている人魚の子を助けたいんだけど。」


『失礼な、我が好きで生贄を求めていたとでも思っているのか?

 我が作り出した眷属が、自ら自壊して我の体に戻っているだけじゃ、誰が自分が作り上げた子供達を殺そうとするか......』


 ティアマトは悲しそうな目をしており、僕はティアマトの理性的な心に驚いた。

「誤解をしていたようだ、僕が悪かったよ。

 ごめんなさい。」


『いやいい、我のために犠牲になっているのは事実だ......

お前は我を助けにきたのだろ? どうやって助けると言うのじゃ?』

 

「それを聞きに来たのだけど、クラーケンに弱点は無いの?

 僕の剣では傷一つ付けられない」

 

『ほほぉ、それは精霊の剣じゃな。

 それは我を殺せる剣じゃ。

 我を殺せば、我もクラーケンから解放される。

 我は望んで殺されよう』

 ティアマトは長年の拘束で自暴自棄になっているようだった。


「それでは何の解決にならないよ.......

 他に方法は無いの?」


『100年前、我とこのクラーケンは互角じゃった。

 何度も足を吹き飛ばしたが、その度に再生していった。

 戦いは何日も続いたが、一瞬の隙で絡み取られてしまった。

 クラーケンには知能はなく本能で動いており、求めるのは養分である魔力だけ。

 それ以来我は100年の間、このクラーケンに魔力を吸われ続けているのだ。』


「ちょっと待って......

 では魔力を補充できればクラーケンと互角に戦えるってこと?」


『竜1体分の魔力をどうやって補う?

 里の人魚が全員犠牲になっても賄えるものではないわ。』

 そう言うティアマトの目は諦めていた。


「まだ諦めるのは早いよ。

 僕の剣には伝説の竜1体分の魔力が溜められている。」


『......なんじゃと?

 その剣から漏れる気配がさきほどから気になってはいたが......

 まさかお前暴竜を喰らったか?』


「まあ成り行きでね。」


『信じられん、まさかこんなことがあるとは......

 まあ良い、我の口にその力を注ぎ込んでくれ、くれぐれも力加減を誤るなよ。

 流れが多過ぎれば我の体も耐えられずに爆発してしまう。

 こんなことで死にとうない。

 あと覚悟するのだ、我が暴竜の意識に取り込まれれば、我も破壊の竜となるだろう。』


「まあその時は責任とって僕が殺すよ。

 やってみようじゃないか?」


 僕はそう言うとティアマトの顔の前に立ち、シャドウブリンガーの剣先をその口に向けた。

 

「じゃあいくよ!」

 僕は、シャドウブリンガーから暴竜ニーズヘッグの力を解放した。

 力が膨大でありなかなか出力が難しかったが...


『モゴォ!

ゴフッ!...もうちょっと..

ゴフゥ…優しくやらんか! 

モゴォ...死ぬ...』


「なかなか難しいね...」


『お前、絶対殺す...ブゴォ』


 シャドウブリンガーに溜め込まれていた魔力が、ティアマトに吸い込まれていく。

 

 瞬く間にティアマトは全部の力を吸い込んだ。

「そう言えば、忘れてたけど聖剣の力も吸い込んでるから......

ちょっと多すぎたかも?」


『.........貴様、我を殺す気か?』

そう言うティアマトの目は座っていた。


「もしかして暴走化?」


『我は正気だ、暴竜の力は聖なる力で中和されておったわ。

 死ぬかと思ったが...今の我は全盛期の力を取り戻した、感謝する』


 感謝と言いながらも、ティアマトの顔は憮然としていた。

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