第2話 勇者は斥候の旅立ちを知る

王宮にて


勇者一行は凱旋後、次に控える国王への謁見の為、控室にて待機が命ぜられていた。


そこには赤毛のショートヘアの凛々しい女性が立っていた。彼女は動きやすい服に革製の胸当てとラフな格好をしているが、腰にはその服装に不釣り合いな豪華なロングソードを帯剣していた。

 アイリス=ブレイズは、辺境の騎士の名門ブレイズ家の一人っ子として生まれた。

 そして勇者として魔王討伐の任務を果たし王都に凱旋した。


私はアイリス、城門からの入った際に門の衛兵にフリューが呼び止められていたことは気づいたが、その後、この場に来てないことが心配になった。


「フリューはここには来てないの?」


私が尋ねると、控室で国王への謁見の流れを説明していた宰相サイロスが答える。


「斥候フリューは、自身の出自が皆さまの今後の未来に足枷になるから...と言い残し、自らこの国を出ました。」

と宰相は淡々と話した。


嘘ね...私はそう感じた。


宰相は、私に疑いの目を向けられると、ムッとして

「斥候フリューから手紙を預かっています。」

と言って、懐から出した手紙を渡してきた。


『王子そして勇者、聖女、賢者へ

仲間の未来のため私は旅に出ます。

勇者アイリス、聖女エレナ、賢者ラヴィーネ、貴方たち3人と王子とのご結婚を心から祝福します。そして王子、3人を幸せにすることを約束してください。

             フリュー』


確かにフリューの筆跡に間違いない。

私のスキルで見ても偽造ではないと判断できる。

それでも...私の直感はそうは言っていなかった。


手紙は、4人が順々に回し読みした。


アーサー王子は「フリュー、君との約束を誓うよ。」と言った。

エレナは手紙に目を落とすと、何も言わず悲しそうな目をして俯くだけだった。

そして賢者ラヴィーネは、

「馬鹿なことをしたものだ。」

と独りごちた。


「皆様にはこの後国王陛下と謁見をして頂きますが、謁見に先立ち国王陛下からの下命を受け賜っております。」

宰相は恭しくそう言うと懐から巻物を取り出した。


「新たな下命を読み上げます。

『勇者アイリス=ブレイズ、聖女エレナ=オーランド、賢者ラヴィーネ=イスマイル、三人は第一王子アーサー=ローゼンブルクとの婚姻を命ずる。

第一王子アーサー=ローゼンブルク、前記3人との婚姻を命ずる。

  国王 フリードリヒ=ローゼンブルク』」


宰相がそう告げると、高々と命令書を4人に示した。


「「「「下命承りました」」」」


4人は膝を付き頭を垂れるとそう返した。


『国王の下命は絶対』


それは不文律ではあるが、紛れも無い王国の規律。

たとえ勇者であろうとも、この王国に住まう限りその規律に逆らうことは出来ない。


4人にはそれぞれお思うところがあるだろう。

アーサー王子などは晴れ晴れとした顔をしている。

聖女エレナは、思い詰めた顔をしているがどちらとも取れない。

賢者ラヴィーネは、「やれやれ、ね」と呆れていた。


私、勇者アイリスにも思うところはある。

アーサー王子に恋愛の情など感じたことはない。

しかし、私には親から譲り受けた貴族としての立場があり、貴族に生まれた以上婚姻の自由などない。

それに国王には、私が子供の頃に両親を亡くしたあと、王が後見人となってブレイズ家を支えてもらったご恩がある。

私は、王国の王妃の座などを望んではいないが、このような運命になることは旅の途中から容易に想像が出来た。


私は、魔王討伐の旅で斥候フリューを知った。

彼は魔王討伐という使命に、名乗ることを許されない5人目の勇者一行として参加した。


彼が暗部機関に育てられた境遇に苦しみながら、それなのに、誰よりも身を挺してこの勇者一行を支え続けていた。

「この程度のことなんて人殺しの練習より全然ましですよ。」

どのような危機でも、一番の年少者の彼が皆んなを元気付けていた。


参加した時は14歳の少年であったが、この3年で驚くほど成長していった。


そんな彼を私は好ましく感じていた。

年下だし、身分の違いがあるから、積極的には彼への好意は示せなかったけど。


この使命を達成できれば私にも上級貴族同等の権限が与えられる。

それに望みはしなくとも王妃の立場があれば、暗部機関の日の当たらない場所から表に出してあげられるとそう感じていた。


だから彼に私を信じるようにと約束したんだ。


それなのに私の意図しない方向に話は進んでしまい、実質的に私は彼との約束を反故にし裏切ることになってしまった。


フリュー、貴方は今どこにいるの?


 魔王討伐において、私のスキルはどうにも相性が悪く、最終的には魔王は斥候であるフリューにより倒された。


私達がたどり着いた時には、王の間は血で染まっており、その中、返り血を浴びたフリューが一人立っていた。

魔王の遺体はすでに消滅しており、消し炭だけが残っていた。


私自身が魔王を倒せなかった事に、勇者として不甲斐ない気持ち、魔王討伐を成し遂げたフリューへの尊敬と、また強き者への嫉妬など複雑な感情を感じていた。


 しかし、一番の思いは、フリューの境遇から魔王討伐の手柄を私と王子のものにしたことに強い負い目と、結果フリューを追い出すことになってしまった罪悪感にかられていた。

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