第112話 研究施設襲撃

 エスメラルダ二世号は、魔術師2人の風の魔法により通常の帆船の倍の速度で航行しタンジェ海峡を渡ってリドニア帝国に向かっていた。



 甲板上で、ウェヌスは仲間のセイレーンから送られた情報をラヴィーネに報告していた。

 

「現地に残っているセイレーンの戦士から報告が入りました。

 どうやら研究施設から複数の者がリドニア帝国の軍に合流したとのことです。」


「宝珠も使わずに遠距離で連絡できるなんて便利ね。」


「神竜ティアマト様の眷属同士ですからね。

 でもイメージだけで細かい情報交換は出来ないのですよ...

 そんなことより研究施設から出てきた者についてですが、どうやら精霊の気配が感じられたとのことですので恐らく……」


「到着時には行き違いになってしまうわね。

 当初の予定通り研究施設を潰します。

 我が魔王国に手を出したことを後悔させてやるわよウェヌス。」



ーーーーーーーーーーーーーーー


「魔道砲、照準を港側ゲートに固定」

「照準、港側ゲート」

 ウェヌスの指示にマーカス副長が復唱し魔導砲の照準が合わせられた。


「打て!」

 再度のウェヌスの指示で魔導砲が火を吹いた。


ーーードガァンッ!ーーーー


 四方を城壁で囲まれた研究施設の、海側の門が魔導砲の砲撃により破壊された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その時、研究施設の責任者は轟音を聞き、その後すぐに警備の兵が報告に入ってきた。


「施設長に報告いたします。

 南側海上を艦船1隻が接近中、同艦船の砲撃により海側ゲートが破壊されました。

 賊三名がゲートから侵入、現在警備兵が応戦にあたっています。」


「三名だけだと?」


「それが、二名は高位魔導師らしく警備兵では全く歯が立たちません。

 それに、もう一人の剣士もめっぽう強く・・・・・・

 それが、おそらく例の勇者かと?」


「勇者だと、それは本当か?」


「先の手配書のとおりなら間違いないかと」


「うぬ、この施設は放棄する残った人工勇者を出して時間を稼げ。


「人口勇者はもう『廃棄ナンバー』しかおりませんが」


「その廃棄ナンバーをだ。

 どうせ長くは生きられん、数を出せば多少の時間稼ぎにはなるだろう」


「……了解しました」

 施設長から指示を受けて、警備の兵は走って出て行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ラヴィーネたち3人が中央の広場に入ったときには、すでに警備の塀は逃げ腰となっていた。


 ラヴィーネが防御結界を展開し、アリタリアが火炎魔法で研究施設と思われる建物を焼き払っていった。


 アイリスは、アリタリアが船倉から引っ張り出してきた大剣を手に持ち、その斬撃で警備の兵を倒していった。

 その大剣は長さがアイリスの背丈よりも長く、幅も20センチを超える大剣で、到底人間が扱えるような物ではなかった。


「どうその剣の使い心地は?」

 アリタリアから聞かれ、アイリスは剣を振り回して感触を確かめた。


「ちょっと重いけど、頑丈だし十分使えるぞ。」


「あぁ・・・・・・それは良かったわね。

 それも迷宮から出土した一品よ、あなたにしか使えないからあげるわ」

(迷宮でミノタウロスが振り回していたのだけど)


「それはありがたい、魔王城の宝物庫にあった宝剣を壊してはイブリン様に怒られてしまうからな」



ーーービジュンーーー

 その時、建物の影から衝撃波が放たれ防御結界に当たった。


「また偽勇者か?」


 アイリスらが凝視すると、建物の影からぞろぞろと人影が現れが、その姿は身体が子どもであるが、その顔は老人の様であった。

 

 現れた人口勇者は10体、そのうちの一人がしわがれた声で言った。

「アインは僕らを迎えに来てくれるかな?」


「勇者を倒せば、アインも僕らの真の実力を認めざる得ないよ。

 研究所のやつらもそう言っていただろ?」



 アリタリアが、牽制にファイアーボールを一発放つと、人口勇者の前に展開された防御結界で弾かれた。

「もう死にそうな顔をしているけど、あの数をどうする?」


 アリタリアに聞かれたラヴィーネは顔をしかめたていた。

「あんなに失敗作がいるなんて酷いことを。

 もう助からないし、人魚の魂も開放しなければならない、せめて楽に死なせてあげるわ。」

 

「でも、防御結界で守られているし攻撃力もそこそこありそうよ。」

 

「アリタリア、あなたに防御を任せるから少し時間を稼いで。」

 ラヴィーネがそう言うと、ワンドを掲げて詠唱を開始した。

 その詠唱とともに、低い空に黒い雲が広がっていった。


「それでは私が時間を稼ぎましょう。」

 アイリスはそう言うと大剣を構えて前に出る。

 すると、自己加速の術式をかけた3人の人工勇者が襲いかかってきた。

「勇者だ! 殺せ!」


 3人が剣を振りかぶってアイリスに斬りつけると、アイリスは大剣を振り回して人工勇者たちを弾き返し、さらに素早く間を詰め、その返す剣で人工勇者一人を切り捨てた。

「なんで? バカでかい剣なのに速すぎるよ」


「いや、お前たちが遅いのだ」

 アイリスは、何もなかったかのように前進した。

 

「アイリス、そこまででいいわ下がって。」

 アリタリアに声をかけられアイリスは歩みを止め後方に飛んで下がった。


「ーーーBuail dealanach, loisg a h-uile càil sìosーーー」


 ーーードガァン! バリバリバリ!!ーーー


 ラヴィーネの呪文とともに、広範囲の雷撃が落ちた。

 その雷撃は、人工勇者の張った防御結界を突き破って全員を片付けると、さらに残りの全ての建物を焼き払った。


 また、その時反対側の門から逃げようとしていた施設長の乗った馬車も雷撃を受け焼き払われた。



「これが賢者の本気の魔法・・・・・・」

 アリタリアはその光景を見て、海賊として敵対していた可能性を考えると恐怖した。 


 その時、アイリスは上方を指さしてラヴィーネを呼んだ。

「ラヴィーネ、あれは落としますか?」


 アイリスが指したはるか上空には、雷撃魔法で認識阻害の魔法が解かれた竜騎士が飛んでいた。

 

「ほおっておきなさい。

 竜騎士が飛んでたのは魔力のゆらぎで気づいていてわざと派手な魔法を使ったの。

 都の直近でこの状況を見れば帝国軍は私達を無視できないはずよ。

 偽勇者たちは必ずここに戻ってくる、その時が本当の勝負よ。」

 

 

 




 


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