第111話 それぞれの出航

 エスメラルダ二世号が出航準備をしていたところ、目に前にティアマトが浮上してきた。


『我が眷族を拾ってきたので連れて来たぞ。』

 そういうティアマトの頭の上にはウェヌスが跨っていた。


「ウェヌス! 心配していたわよ。」

 そう言うラヴィーネにウェヌスは頭を下げてると船のデッキに乗り移ってくる。


「ラヴィーネ様、ご心配を掛けました。

 連絡があった例の研究者ですが、街から離れた海辺にある砦に入りました。

 その後、砦を出て帝国の王城に入っていきましたがそこで足取りが途絶えました。

 そこで私がつけていたのが見つかってしまいまして、なんとか逃げてきたのですが……」


「…が?」


「その追手は目を金色に輝かせて、蝙蝠のような羽を生やして飛んできました。」


 その報告を聞いて、ラヴィーネは納得した。

「追ってはヴァンパイアね?

 その砦は偽勇者の研究施設だと思いわ、となると予想どおりリドニア帝国は黒ね...」


「何があったのか聞いても?」

 ウェヌスの問いに、ラヴィーネが人魚が誘拐されていた事を説明したところ、そこ話を聞いてウェヌスは怒りに震えていた。


「ウェヌス、その施設の場所や規模、警備体制などを詳しく教えてちょうだい。

 これから私たちはその施設に強襲をかける、危険を伴うけどウェヌスには案内してもらうわよ。」


「もちろんです、私も出来る限りのことをします...

 いや、やらせてください。」

 そう言ってウェヌスは同胞の復讐を決意した。


 その話を黙って聞いていたティアマトはラヴィーネに聞いた。

『盛り上がっているところ悪いが・・・・・・、我に何か出来ることはあるか?

 帝国は我を怒らせた、帝国を滅ぼすのであれば手を貸すが?』

 

「そうね、ウェヌスの得た情報によると帝国の艦隊は東の果ての海峡を超えて南部に向かっているわ。

 その侵攻の阻止に手を貸して欲しいの。」


『分かった、だが共闘するには誰か通訳が必要だな。

 ちょうど人魚の一人に我の言葉を解する者がおったはず、その者も来てもらおう』

 ティアマトはそう言うと再び潜って行った。



 エスメラルダ二世号の出港準備が整ったころ、ラヴィーネは高い場所に立ち船員を見回した。


「それじゃあ出航準備は良いわね?」

 ラヴィーネが号令をかけようとしているのに気づきアリタリアが阻止した。


アリタリア「言わせ無いわよ! エスメラルダ二世号、リドニア帝国に向け」


アイリス「発進!」


「あいマム!」

 アイリスの号令に、マーカス副長は思わず号令を返してしまい、船員たちは苦笑いしながら、号令に従い帆を展開してしまった。


「マーカス…?」


「いや、これは...」

 アリタリアに追求されマーカスが困っているのを、アイリスは笑いを堪えて横目で見ていた。



ーーーーーーーーーーーー



 リドニア帝国の皇帝の宮殿に青龍連邦の竜騎兵が降り立った。

 

 竜騎兵は宮殿の執務室にて、皇帝ドミトリー二世とヴァシリー作戦参謀に偵察の結果を報告した。


「迷いの森から王女キルケが率いる魔術士と魔法戦士の一団が南方へ出立しました。

 先頭に魔王国ファーレーンの魔王と、ローゼンブルク王国の王妃候補の帯同を確認しています。」


 その報告にヴァシリーが確認する。

「それは魔王に間違い無いのか?」

「はっ、飛竜による高高度からの確認ですが遠見の術に長けている者が確認しています。

 まで確認しているので魔王に間違いないかと」


 皇帝がヴァシリーに言った。

「王国南部の侵攻の阻止に動いたと見て間違いないな。」


「はい、私の想定通りの動きです。

 それに魔王が吊られたのであれば、必ず魔王国軍も南部へ向かうでしょう。

 その隙をついて私が魔王城を落として見せます。」


「分かった、お前が自ら指揮して魔王城を落として見せろ。」


「はっ、準備ができ次第出立します。

 先日の汚名を返上させるため、人工勇者を帯同させます。」


 ヴァシリーはそう言うと竜騎士を伴って執務室を出て行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーー


 日が暮れた後、街道を馬車が進んでいた。


「さあ、もういいわよ」

 御者席にいたエレナが認識阻害の魔法を解いた。

 手綱を引いたエレナは、町娘の服装を着て変装していた。


 荷台に乗っていた僕とイブリンが、隠れていた藁の束から顔を出した。

 イブリンは空を見上げて言った。

「もう竜騎兵はいないわ。」


「よく魔法で姿を消していた竜騎兵に気づいたわね。 私には見えなかったわ。」


「魔法で隠れてたから気付いたの。

 私の目には魔法で隠れた者など光り輝いて見えるのよ。」


 

 僕らの馬車は夜通し走り、明け方には小さな漁村に着いていた。

 その漁村の桟橋には魔道具による通信で呼び寄せていた大型船が待機していた。


「よく危険な旅に応じてくれたわね。

 しかも通信の宝玉なんて希少な魔道具を持っているなんて、大きな商会の商船かしら?」

 イブリンが感心しているので僕が説明した。

「いや商船じゃ無いよ。 自由都市アバロンの私掠船さ。

 船長は貴族でもあるけどね。」


 僕らが桟橋に着くと船の上から声をかけられた。

「しばらくぶりフリュー、借りを返す時が来たようね。」

 声をかけてきたのは、褐色の肌に船長の帽子がよく似合うリディだった。


「やあリディ、ほんと久しぶり。

 ところでドレイク船長は?」


「親父様は丘に上がってアバロンで貴族様をやってるわ。

 今はこのシーガル号の船長は私よ。」


「それは驚いた、キャプテン・リディよろしく頼むよ。

 こちらが僕の仲間のエレナ=オーランド」


 紹介されエレナは軽く頭を下げた。

「私のことはエレナと呼んで、よろしくねリディ」


「知っているわ。

 タンジェ海峡でヴァンパイアの船を盛大に焼き払っていた神官様でしょ?

 あの光景は鮮烈に覚えているわよ。」


 リディから握手を求められ、エレナは握手を返した。

「まあそんな事もあったわね、若気の至よ。」


「こちらが……」

 僕はリディの耳元に近づき小声で話した。

「魔王国ファーレーンの魔王様だ」


 リディは僕の説明を聞いてきょとんとしていた。


「私はイブリン。 そうねぇ魔王様じゃなく姫様とよんでほしいわ! よろしくね。」


 イブリンがそう言って気さくに握手を求めると、リディはおどおどしながらも握手に応じた。

「よろしくお願いします……姫様?」


 船に乗り込むとイブリンは初めての船旅にワクワクしており、全てがもの珍しく、出発準備に追われる船員の動きを眺めていた。


 出発準備が整うとリディ船長が号令を発した。


「そろそろ準備は良いわね? シーガル号発進するわよ」


 シーガル号のもやいが解かれ、船は北西に向けて出発した。

 


 




 

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