第110話 ユグドラシルの啓示

 その翌日、ローゼンブルク王国の使者としてリン=オーランドが聖都ユグドラシルに訪れた。

 

「お久しぶりです兄さん。」


 森の入り口まで迎えに行った僕に挨拶したリンは、しばらく見ないうちに美しく成長していた。

 僕がリンの成長ぶりに驚いているとリンが首を傾げた。

「なんです?ぼうっとして。」


「いやリンが綺麗になってて驚いていたんだよ。」


「兄さんこそ女性にそんなお世辞が言えるまで成長したんですね。」


「いや、お世辞じゃないって! 本当に綺麗になってて驚いたんだって!」


「やめてください、私はもうすぐ人妻ですよ?」


「あっ...別に口説こうとかとう言うんじゃ無いんだけど...」

 慌てる僕にリンは笑っていた。


「はははっ! 冗談ですよ。

 素で女の子を口説くから勘違いされちゃうんですよ? 兄さんのそういうところは変わってないですね。」


 僕らがそんな事を話しているうちにユグドラシルの街の入り口に差し掛かり、僕らを見つけてララムが走ってきた。


「リンさん!」

「ララム?」


 二人はお互いの成長した姿に驚いていたが、抱き合って再会を喜んだ。


「ほんと久しぶりですね。

 王様と結婚すると聞いてびっくりしましたよ。」

「それはまあ成り行きなんだけど...

 ララムこそ宿屋を経営しているんですって?

 今度寄らせてもらうわ。」

「えっ、うちは王妃様を泊められるような宿屋じゃないんですよ」

 そう言って困っているララムに僕は口添えした。

「ララム、君は先日も魔王国の王を泊めてるんだよ。

 しかも君たちは一緒のベッドで寝てたでしょ?」

「あっそうでした!」

とぼけるララムにリンが爆笑していた。

 昔と変わらぬリンの姿を見て僕は懐かしくもあり、また寂しくもあった。



 リンが到着するとすぐに会談の場が設けられた。

 場所はへカティア様の指示でユグドラシルの麓にある精霊の祠となり、そこにはイブリンの希望でララムも同席した。


「リン、結婚おめでとう。

 今はそれどころでは無いけど、全てが終わったらお祝いをするわね。」

 イブリンから声をかけられ、リンは頭を下げた。


「ありがとうございます。

 お呼びしておいて理由も言わずに勝手に中止にして申し訳ありませんでした。

 その理由についてお話ししますが、ローゼンブルク王国だけの問題ではありません。

 だから、私は助けを求めにここに来ました。」

 リンはそう言って話し始め、自由都市『ミドワルド』が陥落し王国の自治区である『グリンデルブルク』が狙われていること。

 そしてリドニア帝国、ルクトヴァニア、青龍連邦の三国が結託して侵攻を目論んでいることを説明した。


 イブリンはリンの話を聞いて自分がユグドラシルの大樹からもたらされた啓示と矛盾がないことを確信し、その対抗策を考えた。


「このままだと間に合わない……」

 イブリンが思い悩んでいると、イブリンに語りかけるように祠の壁が点滅を始めた。


「精霊の樹が何かを言っているのね?」

 へカティア様がそう呟いた。


 イブリンは天を見上げユグドラシルの啓示を聞きとると、その内容を説明した。

「未来は不確かだけどまだ間に合うわ。

 危機を回避するためにユグドラシルから伝えられた啓示は2つ。

 一つは遠い帝国の地、そこに神の意に反した存在が作り出されている。

 その地にはアイリスとラヴィーネ、そしてその協力者たちが向かってくれているわ。

 そしてもう一つは北方ルクトヴァニアの地、こちらの情報はこれだけで、そこに何があるかはわからないけど、選ばれし者のみがたどり付けるの

 こんな不確かな話で危険に向かわせるのは不本意なのだけど...」


 イブリンが申し訳なさそうな顔をしていると、エレナが言った。

「あなたを信じるわイブリン。

 アイリスとラヴィーネが啓示によって行動しているなら、残りの選ばれし者は私とフリューね。

 私たちはルクトヴァニアに向かうわ。」


「大丈夫さイブリン、僕らがなんとかするよ。」

 

「ありがとう」

イブリンはそう笑顔で感謝を伝えたが、その裏ではまだ不安を抱えていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー


 その後の軍議は深夜まで続いた。


 みんな疲れ果てて寝てしまったが、僕は寝付けずに宮殿のバルコニーに出てユグドラシルの大樹を眺めていた。


 そんな僕に、バルコニーに出てきたエレナが話しかけてきた。

「出発は明日よ、眠れないの?」


「エレナこそ、ルクトヴァニアは遠いよ。」


「私は大丈夫。 

 多くが船旅になると思うから、そこでゆっくり休めるわよ。

 神の意に反した存在...帝国では先日の偽勇者が作られているのだとと思うわ。

 ラヴィーネたちが心配?」

 

「いや、彼女たちの強さは戦った僕が一番知っているさ。

 ラヴィーネとアイリスは僕よりずっと強い。

 それよりも、最後のイブリンの顔が気になったんだ。

 イブリンはまだ全てを話していない。

 何かをユグドラシルから聞いているのだと思うけど... 」


 僕に意見にエレナは笑った。

「ふふふ、さすが私が見込んだ英雄、よく見ているわ。

 でもなら大丈夫、きっと解決できるわ。」


「エレナは知っているの?」


「そうね、でも話せないわよ。

 女の子には秘密があるの、必要な時にイブリンが話すと思うから信じて待ちなさい。」


 エレナの言葉に僕はため息をついた。

「はぁ……、エレナは時々お姉さんに戻るよね。

 子供扱いするけど、僕もかなり成長したんと思わない?」

 

 僕がそう言うとエレナはニヤニヤし始めた。

「へー、フリュー君も大人になったんだね?

 じゃあ今晩は久しぶりに一緒に寝るわよ!

 いや、……寝かさない?」


「えっ? どうしてそうなるのさ?」

 僕が慌てるのも聞かずにエレナは僕の腕をつかむと、グイグイと寝室に引っ張って行くのであった。

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