第109話 聖都ユグドラシルにて
僕らが王国領に入る直前、早馬が訪れ婚姻の儀の中止が伝えられた。
それとは別に王国の代表者との会談の申し入れがあり、イブリンの安全を考えて会談場所をエルフの結界により守られている聖都ユグドラシルに指定し、僕らは急遽迷いの森に向かった。
迷いの森の入り口に差し掛かるとイブリンはダークエルフの護衛隊長を呼んだ。
「ここまでの護衛ご苦労様でした。
エルフを刺激したく無いからあとは私たちだけで大丈夫です。
あなたたちは先に魔王城に戻ってください。」
イブリンの言葉じゃ護衛隊長は慌てた。
「いいえ、私たちはここで姫様を何日でも待ちます。」
「私はフリュー達やエルフの戦士たちがいるので大丈夫よ。
あなた達のような貴重な戦力を邪魔に感じている訳ではないわ。
ただ近いうちに戦力を動かす事態が起こる。
だからあなた達は先に戻ってラミアに戦力を整えるように伝えて欲しいの。」
「かしこまりました」
隊長は、イブリンがエルフとダークエルフの過去のわだかまりを気遣ってくれているのを感じ、素直に護衛隊を連れて魔王城に戻って行った。
「私はイブリン様たちと一緒にいて良いんですか?」
などとララムが場違いを感じて戸惑っているとイブリンは優しく言った。
「大丈夫よ、ララムは私の友達でしょ?
それに王国の代表はたぶんララムの友達が来ると思うわ。
さあ行きましょ。」
イブリンはそう言ってララムの手を握って迷いの森に入って行った。
僕らが森に一歩踏み入れると、そこには既にエルフの戦士たちに取り囲まれていた。
しかし、僕らの姿を確認すると警戒を解き、戦士たちの代表が前に出てきた。
「ようこそおいで下さいました魔王様、私は警備隊長を務めるアリュールと申します。
私が聖都までご案内いたします。」
「こちらこそよろしくね。
私たちはここでローゼンブルク王国の使者と会談を予定しているの。
明日か明後日には到着すると思うから、通してあげて欲しい。」
「かしこまりました。
警備の者に指示しておきます。
それではご案内しますので私に付いてきてください。」
アリュールはそう言って、森の奥へと向かって行った。
しばらく森を進むと突然視界が開かれ、そこにユグドラシルの大樹が現れた。
以前来た時と何も変わらず、その大樹の根元に街に灯りが見え、幻想的な光景が広がっていた。
「もしかしてイブリンはここに来るのは初めてだっけ?」
先を歩いていた僕はそう言って後ろを歩くと、イブリンは問いかけも聞こえなかった様で、立ち止ってユグドラシルの大樹を見上げていた。
イブリンは人形のように動かず、ただその瞳だけが金色に輝いていた。
(イブリンは魔眼を使って何かと交信をしている……)
長い間そのままの状態が続いていた。
そしてしばらくして突然目を閉じるとそのまま意識を失って倒れた。
「イブリン!」
僕はすぐさまイブリンを抱き抱えるたがイブリンはそのまま眠ってしまった。
それから数時間後、僕らは女王へカティア様の宮殿にいた。
僕らはイブリンが眠る寝室の前で待っていると、エレナが寝室から顔を出した。
「いま目覚めたわよ。
かなり消耗していたけど魔法で回復させたからもう心配は無いわ」
イブリンに付き添っていたエレナに招かれ、僕とエレナ、そして女王へカティア様とその娘のキルケが寝室に入った。
僕らが入った時、イブリンはベッドの上に座ってまだぼうっとしていた。
「初めまして魔王イブリン様、私がこのユグドラシルの女王へカティアと申します。」
そう言って頭を下げた。
イブリンは目覚めたばかりでまだぼうっとしておりキルケを見て呟いた。
「お母さん?」
「イブリン様、私はあなたのお母様ではありませんよ。
もしかしてお母様と似ていたのかしら?」
そうキルケから言われイブリンは悲しそうだった。
「そういえば確かラヴィーネにもそんな事を言っていたわね。」
そう話すエレナにキルケが言った
「ラヴィーネの様に、このエルフの森から旅立って帰ってこない同胞は多くいるのです。
彼女たちは子孫を残すために強い英雄の血を求めているの。
それが先代の魔王であったのであれば、その可能性は十分あるわ... ね、お母様」
へカティア様はイブリンに聞いた。
「そうね私の子も何人か旅に出ているから、もしかしたら私の子、キルケたちの姉妹かもしないわね。
お母様の名前は覚えていますか?」
「お母様の名前はペルセポネ、でも本当の名前じゃ無いの。
本当の名前は亡くなるまで誰にも話さなかったってお父様が言っていたわ。」
イブリンがそう言うと、へカティア様は何かに気づいたようでイブリンを優しく抱きしめた。
「名前を明かさなかったのは、きっとあなたの為よイブリン。
メーデイアがラヴィーネと名乗っているように、名前を明かせないのはこの国での地位が高い者、少なくとも女王であるこの私との血縁があるということ。」
「私のおばあちゃんということ?」
「おばあちゃんと呼ぶのはやめて欲しいのだけど... そういうことになるわね。」
両親を亡くしているイブリンは、女王へカティアが自身の肉親と知ってその胸の中で泣きだした。
「おばあちゃんって呼んでいい?」
イブリンの願いにへカティア様は困った顔をして答えた。
「……仕方ないわね。
あなただけよ、他の者がそんな事言ったら許しませんから。」
しばらくしてイブリンは泣き止むと話し始めた。
「私はこのユグドラシルの樹と繋がって啓示を受けたの。
今私たちに危機が迫っていて、乗り越えるには私たちだけではダメなの。」
いつになく取り乱すイブリンに僕は聞いた。
「僕たちは何をすればいい?」
「私がユグドラシルの木から伝えられたのは断片的でしかも夢の中の様なイメージでしか無いの。
そこで何が起こるかは分からないし、もしかしたら何も起こらないかもしれないわ。」
へカティア様がイブリンに言った。
「あなたは自分が夢に中で見たことで周りを動かすのが怖いのね?
それでも私たちはイブリンの見たことを信じるわ。」
「わかったわ、でもまもなく王国の使者がここに来る。
そこで今王国で起こっている危機を伝えられるはず。
その話を聞いてから、全てを話します。」
そうイブリンは言った。
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