第113話 絶海の孤島
聖都ユグドラシルを出発したキルケ率いるエルフの戦士の一行は10日後には、アウグスト国王率いるローゼンブルク王国軍と交流した。
王国軍の使者であるリンが、アウグストに帰還の報告をした。
「下命のとおり、エルフの戦士たちの援軍をお連れしました。」
アウグストはリンの帰りを満面の笑みで迎えた。
「ご苦労だったなリン」
そんなアウグストにエルフの森の代表であり、アウグストの母親でもあるキルケが言った。
「ご苦労だったなじゃないわ、デレデレして情けない。
久しぶりに会った母への言葉は無いのかしら?」
「いやぁ、これは母上相変わらずお変わりなく。
ところでそちらのお方は?
俺も長く見てないが、まさか魔王...では無いよなぁ」
突然、国王の視線を感じてララムが慌てた。
「私は羊人族のララムと申します……
私は国王様の前に立てる様な身分じゃ無いのですが…」
そんなララムにリンが助け舟を出した。
「陛下、ララムは私の旧知の友人です。
失礼の無いようにお願いします。」
「そうよ、今回は魔王イブリン様の影武者をやってもらっているのよ。
遠目で見れば分からないでしょ?
どこで間者が見てるか分からないのだから、だからあなた達も魔王様と接するように応対しなさい」
キルケがそう忠告した。
「お、おう...
俺はアウグスト=ローゼンブルク、一応この国の王だ。
ララムと言ったな、リンの友人なら俺の友人も同じだ、よろしく頼む。」
アウグストはそう言って、ララムに手を差し出して握手を交わした。
「こちらこそお役に立てるようがんばりますので、よろしくお願いします。」
ララムはそう言ってお辞儀をした。
「ところで母上、我々はこれから陸路でグリンデルブルク自治区に向かうが、彼の地は王国領とは言え飛地だ。
道中に通るハイデルブルク公国は、同盟国ではあるが隣接する青龍連邦と対立していて国内がざわついている。
十分注意してくれ。」
そうアウグストが言うとキルケがうなづいた。
「分かったわ、ララムとあなたのお嫁さんは私が守るから安心しなさい。
ここは戦いの主戦場じゃ無いわ、あんたの父親の様につまらない事で命を落とすんじゃないわよ。」
キルケはそう言ってアウグストの背中を叩いて気合いを入れた。
アウグストは苦笑いをしながら部下に指示をだした。
「さあ、出発するぞ!」
国王の号令の下、ローゼンブルク王国軍は進軍を再開した。
ーーーーーーーーーーーーーー
フリューたちの乗ったシーガル号は、ルクトヴァニアに向かっていたが、近海に入ったところでイブリンがリディ船長を呼んだ。
「船長、私が示す方向に船を向けて」
イブリンがそう言って方向を指差した。
「ちょっと待ってください。」
リディは、慌てて海図を取り出した。
「今はこの辺ですから姫様の示した方向はこちらです。
その方角には何もありませんが……」
「いいえ何かあるわ。
この先で私たちに必要になる何かがあるの」
リディは判断に迷ったが、イブリンの目は金色に輝いており何か不思議な力を感じた。
「分かりました、進路を向けます」
リディはそう言って、シーガル号の進路を変えた。
それから半日が過ぎた頃、突然付近が霧に覆われていった。
その霧にリディは戸惑っていた。
「今まで晴れていたんだぞ、この天候の変化はおかしいだろ?」
「そう言えば...昔もこんなことがあったよね。
あれはそうクラーケンが発生源だった。」
僕の発言にリディが慌てた。
「ちょっとやめて、クラーケンなんか出たらおしまいよ。」
「待って、フリューあれを見て!」
エレナが指し示す方向に島影が見え、リディが慌てていた。
「海図にはこんな島は無いわよ」
「目的地はあの島にあるわ。」
そうイブリンが言った。
その時僕は強い気配を感じた。
「何か来る……、敵意はないみたいだ」
すると甲板に、執事の服を着た高齢のヴァンパイアが降り立った。
「私は、
王がお待ちです。
邸宅にご案内致します。」
「ヴァンパイア・ロードがこの地に?
僕らが何者か分かっているのか?」
僕の質問に執事ヨシュアが答えた。
「どちらの質問もイエスです。
ですが詳しいお話は私の役目ではありません、王が直接お話しするでしょう。」
その言葉は、攻撃的ではなく穏やかだった。
(敵意は感じないが……)
僕の後ろに隠れていたイブリンが前に出て言った。
「いいでしょう、我々をヴァンパイア・ロードの元に案内して下さい。」
「かしこまりました」
執事はそう言うと、島の桟橋までの方角を指示した。
船が桟橋に着くと、僕とエレナ、イブリンの3人がヴァンパイア・ロードの元に向かいことになった。
心配そうにしているリディの耳元で僕が小声で言った。
「リディは出航の準備をして待機して、何かあったら僕らを置いて逃げて。」
「分かったわ、でも海の女の誇りにかけてあなた達を置いて逃げたりしないわよ。」
「…わかった、必ず戻るから」
そう言って僕は先に下船したイブリンとエレナの後を追った。
港には豪華な馬車が待機していて、僕らはその馬車に乗せられた。
「なんか私たちが来るのを待っていたみたいね。」
エレナがそう呟くと、一緒に馬車に乗り込んでいた執事が言った。
「そのとおり、王はあなた方をお待ちになっていたのですよ。」
その言葉にエレナから睨まれ、執事は慌てた。
「そんな睨まないでください、あなたの怖さはよく知っております。
私たちに敵対する意思はありません」
「私の怖さですって?
私がヴァンパイアの宿敵と知っていて敵対する気がないと言うの?」
「そのとおりです。
そもそも私たちに敵対する力など無いのですから……」
イブリンがエレナを制止した。
「この人は嘘は言っていないわ。
執事の立場では話せないのでしょう、ヴァンパイア・ロードとお話しするしか無いわね。」
「それもそうね……
もう着いたようだけど、なんか地方領主の屋敷のようね...」
エレナはそう感想を述べたが、ヴァンパイア・ロードの邸宅は、城壁に囲まれた小さな砦のようであり、屋敷も豪華な作りではあったが、確かに王の邸宅という割には質素なものに感じられた。
「さあ皆さん、王がお待ちです」
執事に案内され、僕らはヴァンパイア・ロードの邸宅に入って行った。
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