第104話 海賊の島

 海賊が潜んでいる群島の海域に入って3日目、アリタリアとマーカス副長が海図から潜伏可能な島を絞り、そこを虱潰しに当たっていたところ、8つ目の島に差し掛かったところ。船首に立ち見張りにたっていたアイリスが声を上げた。


「あの島の崖の上に見張りが立っているぞ」


 マーカス副長が望遠鏡で確認したところ、人影は見付けられなかったがしばらく探していると、アイリスが加えて説明した。

「木々に偽装した監視塔の隙間から見ているんだ。

 あの剥き出しになっている岩の左上の方」


「あ、あれですか?

 これだけ距離があると船乗りの目でも見つけるのは難しいが、さすがですね。」


 マーカス副長はその発見をアリタリアとラヴィーネに報告した。

「正面の島の可能性が高いわね。

 規模はどのくらいだと思う?」


 アリタリアの問いにアイリスが答えた。

「捕まえた盗賊の話だと、海賊は大型船2隻を持っていて、島のアジトには洞窟があってそこには100人くらいがいたたらしい。

 そうなると組織は多くて300人ってところか。」


 黙って聞いていたラヴィーネが作戦を説明した。

「まだ距離があるからこのままやり過ごして別の島の島影に隠れて夜を待ちましょう。

 この船の火力と私たちが居れば、なんとかなるかもしれないけど、今夜は月明かりも無いし念の為に夜襲をかけるわ。」


 その作戦にマーカス副長が意見を言った。

「この辺は岩礁も多く月明かりのない入江に入るのは危険ですよ?」


 その意見にラヴィーネが答える。

「この船は沖で待機して、私とアイリスが先行して島に入るわ。

 合図に明かりを掲げるから、そうしたら突入して欲しいの。

 上陸艇を一艘借りるわよ。」


 ラヴィーネの説明にアリタリアが同意した。

「分かった、でもその潜入には私も同行させてもらう。

 あなたたち2人に上陸艇の操船は無理よ。」

 その意見にラヴィーネも納得した。


 エスメラルダ二世号は、作戦どおり別の島の死角に入ると、旋回して島影で夜を待った。

 そして日が沈みあたりが真っ暗になると星明かりを頼りに海賊の島の沖まで移動した。


 そこで、上陸艇を降ろす作業を開始した。


「ずいぶん年期が入っている小舟ね。」

 ラヴィーネの質問にマーカス副長が答えた。

「こいつは我々が預かってはいるけど、フリューの舟なんですよ。

 ほら横に船名が彫られているでしょ?」


 その小舟の船体には『シャドウブリンガー号』と彫られていた。


「あらこの舟はんじゃなかった?」

「ああ確かに一度のを、わざわざ引き上げたんですよ。

 よくご存知で、そんな事までフリューに聞いてたんですか?」


「あれ? フリューには聞いてないけど、じゃあ何で私この舟のこと知ってたんだろう……

 なんとなくイラっとして沈めたって記憶があるのだけど夢かしら??」

 ラヴィーネはあまり経験の無い既視感に困惑していた。


 

 ラヴィーネ、アイリス、アリタリアの3人は、

アリタリアの認識阻害の術で身を隠し、昼間に見つけた物見台の反対側の岸から無事上陸した。


 そして丘を登って入江を見下ろす位置に移動し、ラヴィーネは暗視の魔法で入江の状況を確認する。

「ビンゴね、洞窟からうじゃうじゃ怪しい男が出入りしているわ。」


「入り口は一箇所」

 同じ光景をアリタリアも確認していた。

 そんなアリタリアを見てラヴィーネが言った。

「あなた人にしてはなかなか器用に魔法を使うわね。

 風と光を使いこなせるの?」


「いいえ、私は聖属性以外なら中級レベルまで全属性を使えるわ。」

 自慢げなアリタリアにラヴィーネは驚いた。

「おせいじじゃ無いけど王宮魔術師にもなれるわよ。

 なんで海賊なんかに?」

アリタリアは少しムッとした顔をした。

「海賊なんかっていうのは気に入らないわね。

 私から言わせれば、そこまで魔法を使えるあんたがに仕える方がよほど理解できないわよ。」


「ふふふ、海賊なんかって言ったのは謝るわ。

 魔術を探求したい魔術師が宮廷魔術師を目指すのだけど、その魔術を探究心なく使えるようになったのなら、それはとてつもない才能よ。

 化け物級って言ってもいいわ。」


「なんか褒められた感じしないけど…」


「無駄話はそれくらいにしませんか?

 ほら今、出てきた男2人、フードを被っているけど海賊にしては妙に歳が若い、それに何か得体の知らない力を感じる」

 アイリスは、魔法を使わずに身体能力で細かい観察をしていた。

 そんなアイリスを見てアリタリアはぼそっと呟いた。

「化け物ってこういうのを言うのよ。」


 アリタリアの呟きで脱線しそうになるのををラヴィーネが静止した。

「静かに! それじゃあ作戦を説明するわよ。

 私が騒ぎを起こして注意を引くから、その隙にアリタリアが洞窟に侵入するの。

 あなたの認識阻害の魔法は十分機能するわ。」


「高く買ってくれてありがとう。

 でも一番危険な所を任せてくれて嬉しいわ。」

 アリタリアは皮肉まじりで言ったが、ラヴィーネは首を振った。

「アイリスには、あのフードの二人を相手にしてもらう。

 私の目で見てもあの二人は別格、人質を逃すのにはあの2人は絶対に排除しなければならないわ。

 出来る?」


 アイリスは剣を見て言った。

「正直、力を抑えて勝てる相手では無いがこの剣では全力に耐えられない...」


 そんなアイリスにアリタリアは腰に下げていたレイピアを差し出した。

「アイリス、あなたレイピアは使える?」


 アイリスはレイピアを受け取ると軽く振るいさらに気を込めて形をなぞってみた。

「これは?」


「使えそうね。

 このレイピアは迷宮で見つけた宝剣、アーティファクトよ。

 聖剣には劣るけど、生半可な力じゃ壊れないわ」


「ありがたい、これなら十分戦える」

アイリスはアリタリアに感謝した。


「さあ私が合図したら行動開始よ、それまでに持ち場に急いで」

 ラヴィーネの指示で3人は走り出した。

 

 

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