第105話 アジトへの突入

「ーーーDèan spreadhadh!ーーー」

 ーーードガァン!!ーーー

ラヴィーネの呪文と共に、3カ所の監視塔が同時に爆発炎上した。


 その合図をみてエスメラルダ二世号が動いた。


「魔導砲、撃て!」

 マーカス副長の号令で湾内に停泊していた海賊船に魔導砲が放たれた。

ーーーシュルルー、ドガァン!!

 船体に魔導砲の一撃を受けて、船は爆発炎上した。


「敵襲!」

「迎撃急げ、出航準備だ!」

 港の船と小屋が燃え盛る中、洞窟から慌ただしく海賊たちが飛び出してきた。

 

 新たな魔道具の導入により、エスメラルダ二世号は魔導砲の連射が可能となっていた。

「次弾装填、目標左側敵船、撃て!」

 マーカス副長の号令により2発目が放たれたが、敵船の前方に張られた防御結界で防がれた。


「敵に魔導士がいる、緊急回避!!」

ーーービジュン!ーーー

 マーカス副長の咄嗟の判断により、直撃を避けたが船体に大きな衝撃がはしった。


「魔道具による防御結界は正常に作動しているが、あの威力で直撃を受けたらマズい。

 連続で回避しつつ距離を取れ!」


 停泊していた海賊船の船首に立っていたフードの男の1人が未だ残光が光る剣を構えて言った。

「あの船、俺の攻撃を避けやがったぞ。」

 ワンドを構えて防御結界を張っていた男が答える。

「兄さん! 最初の一撃も普通の砲撃では無かったよ。 早く沈めないと!」


 その時、男たちは殺気を感じて飛び退いた。

ーーービジュン!ーーー

その一撃で男たちがいた海賊船の船首部分が吹き飛んだ。


 男たちは桟橋に降り立って振り向くと、そこに輝くレイピアを下げた赤い髪の女が立っていた。

「よくかわしたな、褒めてやろう」


 男たちが揃ってフードを取ると、2人とも20歳に満たない同じ顔の少年だった。


「これは運がいいぞ、ツェーン」

「僕も手配書で見て知ってるよ。

 あれは勇者アイリスだよノイン兄さん」

「計算上、俺たちの力は勇者の3分の2だが、俺たち兄弟なら3分の4、いやそれ以上の力がある」

「僕らが最強だとアインに教えられるね兄さん」


 2人の会話に呆れた目でアイリスは見ていた。

「もう最後の会話は済んだか? 悪いが人攫いの仲間であれば子供といって見逃してやれんぞ。」


 アイリスはそう言いながら軽く斬撃を飛ばすと、ワンドを構えた弟ツェーンが防御結界で弾き返した。

 隙を狙って、素早い動きで切り掛かってきた兄ノインの攻撃をアイリスはステップでかわした。


 こうして港の桟橋を舞台に、2対1の攻防が始まった。


ーーーーーーーーーーー

 

 桟橋でアイリスと人工勇者による派手な戦闘が始まった。

 アイリスはわざと斬撃を派手に飛ばし、港の荷上げ倉庫などを破壊していった。


 その騒ぎを聞いて洞窟から出てきた海賊たちが人工勇者たちの支援に向かったが、飛び交う斬撃に近づけずに遠巻きに見ている状況が続いた。


 アリタリアは、その隙を見て自身に認識阻害の魔法をかけると洞窟に潜入した。


 洞窟の中はかなり広く、そして深くまで続いていた。

 アリタリアは、物陰に隠れながら時々出てくる海賊をやり過ごし、または始末して奥へと進んで行った。

 

 しばらく行くと大きな広間にさしかかりその先が二手に別れている。

 片方は通路の先から青白い光が漏れ出しており、数人の男が頻繁に出入りを繰り返していた。


 アイリスはとりあえず人の出入りがない方の洞窟に入った。

 その奥に鉄格子があり、その前に男が二人立っていた。


 アリタリアは音もなく近づくと無詠唱で凍結魔法をかける。


「な、なんだこれは...」

 男たちはみるみる足元から凍りつき、騒ぐ間も無く命を落とした。


 牢の中には、多くの女たちが囚われており、そのうちの一人がアリタリアに気がついた。

「あなたはアリタリア様!」

「あなた...エイミア? また捕まっちゃったの?」

「はい...」

 エイミアは恥ずかしそうに答えた。


 アリタリアは人魚たちに言った。

「もう大丈夫、今鍵を開けるから隙をみて逃げなさい。 

 私の船が港まで来ているから、港を出て海に飛び込むのよ。」


「アリタリア様、ここに来てから定期的に仲間が一人づつ連れて行かれたんです。

 先ほども一人……」


「分かったがエイミア、私が助けに行くから逃げることだけ考えなさい。」


 アリタリアはそう告げると、元の分岐路に戻った。


「船が一隻やられたんだ、ここも長くはもたん早く装置を運び出せ!」

「それが今装置が作動中で、もう少し時間をください。」

「残りの人魚はどうしますか?」

「全然数が揃って無い、全員連れて行け」


 アリタリアはその会話を物陰に隠れて聞いていた。

(何を溶かしているの……)


 トントン

「ひぃ!」

 その時、突然肩を叩かれアリタリアが驚いて振り向くと、後ろには気配を消したラヴィーネが立っていた。


「……脅かさないでよ」

「ごめんごめん、悪かったわね。」


 ほっとして小声でアリタリアは聞いた。

「外はいいの?」

「思いの外アイリスが派手に立ち回っているんで手が空いたのよ。」


 アリタリアはため息をついた。

「はぁ、私が聞いてるのはそのアイリスは大丈夫なのって意味よ。

 私に目から見ても2人は只者では無かったわ。」


 アリタリアの心配をラヴィーネが一蹴した。

「聖剣を使いこなせるからアイリスが強いとみんなが勘違いしているけど……

 聖剣じゃなければアイリスの力に耐えられないだけで、あの力はアイリス自身の力よ

 あなたの貸してくれたアーティファクトのレイピアがあれば負けはしないわよ。」

 その答えはアリタリアも思いもしなかったが、今度は自分のレイピアが無事に返ってくるか心配になった。


「さてあの青い光が気になるわね。」

 ラヴィーネの意見にアリタリアは同意した。

「奴ら何かを溶かしているって言っていたわ。」


----------


 その頃桟橋では、アイリスと2人の人工勇者の戦闘が継続していた。


 周りから見たら互角の戦いが続いていたが、内心2人の少年は焦っていた。

「兄さん、早く倒さないと防御が続かないよ。」

「こっちも限界なら、勇者もそろそろ力が尽きるはずだ、もう少しがんばれ!」


 ノインが、再度長剣に力を溜めてアイリスの持つレイピアごと切り裂こうと上段から切り付けた。

 キンッ!

 両手で切り掛かった長剣を、アイリスは片手持ちのレイピアで軽く受け止めた。


 アイリスのその目は冷めていた。

「お前たちに問うが、その体内に宿る精霊の力はどこから得た?」


「さあな、俺たちは生まれた時から持っていた力だ」

 アインがそう答えると、アイリスはレイピアでノインに切り掛かり質問を続けた。

「違うな私には見えるぞ、その精霊の力はお前たちの魂の色と違う、奪った力だ。

 お前たち、無理やり精霊の命を奪って取り込んだな?」


 アイリスの怒りとともにその剣筋が鋭くなっていき、ノインはジリジリと後退して行った。


「なんで!? 俺たちは3分の2の力を持っているんじゃ無いのか?

 ツェーン手を貸せ!」


 ツェーンがノインとアイリスの間に防御結界を展開するも、アイリスのレイピアは防御結界を軽く切り裂いて前進して行った。


「もういい、お前たちの存在は不快だ。

 そろそろその精霊の魂を返してもらうぞ」

 アイリスはそう言うと、今まで見せて無かった速さで動き、ノインの目からはアイリスが消えたように見えた。

 

「兄さん!」

 ノインが振り向くと、そこにはアイリスに切り捨てられたツェーンが倒れていた。


「ツェーン! よくもツェーンを!!」


 ノインが振りかぶって切り掛かった瞬間、アイリスのレイピアが輝いた。

ーーービジュン!ーーー


 レイピアから放たれた光の束はノインの上半身を消し飛ばすと、後ろの海賊船の船体を貫いた。


 アイリスは遠巻きに見ていた海賊の方を振り向いた。

「次に死にたいやつからかかってこい。」


 アイリスの気合いに海賊たちは武器を捨てた。


 

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