第106話 洞窟に最深部にて

 青い光が漏れる部屋に入った時、ラヴィーネとアリタリアは、言葉もなくただ怒りに震えていた。

 その青い光は大きな水槽から漏れており、その周りに研究者らしい白衣の男たちが作業をしていた。


 ラヴィーネはその青い光を放つ装置を見つめながら、認識阻害の魔法を解いた。


「誰だお前は!」

 突然その場に突然現れたラヴィーネに、研究者が声を上げた。

 出入りしていた海賊の1人が小刀を取り出に向かってくるとラヴィーネはその男に手をかざした。

「ーーーReothadhーーー」

 ラヴィーネが呪文により男は瞬時に凍りつき死んでいった。


「そこのお前、これが何か説明しなさい。」

 ラヴィーネが冷たく言うと研究者の男は震え上がった。

「こ、これは精霊核を作っているんだ。」


 その男の首に認識阻害を解いて突然現れたアリタリアが剣を突きつける。

「この水槽で骨になりかけているのは何かと聞いているんだ...」

 アリタリアはそう言ってさらに詰め寄った。


 男が答えられずに上方をチラチラ見ながら苦悶の表情を浮かべていた。

 その時突然上空からの気配を感じアリタリアが飛び退くと、問い詰められていた研究者が氷の柱に貫かれた。


「また我々の邪魔をするのか? 忌々しい下等生物が」

 見上げるとその部屋の天井付近に黒い蝙蝠の羽を羽ばたかせた男が浮いていた。

 その目はヴァンパイア特有の金色の瞳ではなく、黒目と白目が逆転していた。


「ヴァンパイア...いやレッサーデーモンか?」

 ラヴィーネの問いにレッサーデーモンは笑った。

「よく分かったな、お前はエルフか?

 お前も精霊核となるがいい」


 ラヴィーネに気を取られている隙を狙って、アリタリアがレッサーデーモンにファイアーボールを放った。

 しかしレッサーデーモンはその蝙蝠の羽で易々とファイアーボールを跳ね返した。


「アリタリア、こいつはヴァンパイアとは違う。

 通常の攻撃魔法は効かないわ。

 防御結界を貫くから、攻撃はかわしなさい!」

 そう言いながら、ラヴィーネはレッサーデーモンから切り出される氷の矢をかわして距離をとった。


「魔法耐性が高い厄介な相手ね。」

 アリタリアは岩の影に飛び込むとそう呟いた。

 レッサーデーモンは中央に降り立つと、ラヴィーネとアリタリアの隠れている岩に氷の矢を放って削っていく。

「ラヴィーネ、何か手はないの? このままだとまずいわよ。」


「手がないことも無いけど。

 レッサーデーモンが余裕そうに見えて、あの場所を動かないのは、あの青く光る水槽を守っているのね。

 それなら……」


 ラヴィーネは突然岩陰から顔を出すと呪文を唱えた。

「ーーーleig seachad meteoriteーーー」

 呪文と共に虚空から突然現れた隕石が中央の装置に降り注いだ。


ーーードッカーン!!ーーー

 装置は爆発して青く光る水が溢れ出した。

 青の青に水の中には半分溶解した人魚の死体があった。


「おのれ下等生物が!」

 水槽を壊されたレッサーデーモンは怒り狂い、飛び立って向かってきた。


「で、装置を壊した次の手は?」


 アリタリアの問いに答える前にラヴィーネは走り出していた。

「逃げるのよ!!」


「ちょっと、説明してからやりなさいよ!」

 アリタリアは慌ててラヴィーネを追いかけてきた。

 

 ラヴィーネとアリタリアは浮遊と加速の補助魔法を巧みに使って洞窟を駆け抜けて行くと、後を追うレッサーデーモンの無差別な攻撃で、途中にいた海賊たちが巻き込まれて死んでいった。


「アリタリアあと少し! 出口よ!」

「ラヴィーネ、出てからの手は考えてるんでしょうね?」

「もちろんよ」


 ラヴィーネとアリタリアが洞窟から飛び出ると、外にいたアイリスとすれ違った。


「じゃあアイリス、あとは頼んだわ?」

「ええ? なすりつけ?」

 冒険者が迷宮探索で絶対にやっては行けないことランキング1位の戦略にアリタリアはドン引きした。


 アイリスは、突然でなんのことか分からなかったが、洞窟から出てきたレッサーデーモンを見て気がついた。

「まかせなさい」

 アイリスはニヤリと笑うとレイピアに光の粒子を凝縮させながら、レッサーデーモンに向かって駆け出した。


 レッサーデーモンが繰り出す氷の矢をアイリスはその剣で叩き切りながら距離を詰めていく。

「なんなんだお前は! まさか勇者だと!」


 レッサーデーモンは劣勢を悟って蝙蝠の羽を羽ばたかせ上空に逃げると、アイリスはレイピアを振り抜き溜めていた光の粒子を放った。

ーーービジュン!---


 その光の粒子はレッサーデーモンの羽を焼き、レッサーデーモンは地に落ちた。

「なぜ、ここに勇者が!」


「黙りなさい」

 アイリスは光をまとわわせたレイピアでレッサーデーモンの首を刎ねると、レッサーデーモンは首から黒い霧を吹き出しながら灰となって消えていった。


 その状況をコンテナの陰で隠れて見ていたアリタリアが呟いた。

「悪魔相手に一方的じゃない、勇者の本気を初めて見たわ...恐ろしいものね。」


「私やあなたに出来て、勇者アイリスに出来ないこともあるわ。

 むしろその方が多いはず。

 勇者はデーモンの天敵、だからアイリスに任せたってのが私の作戦よ」

 そう言うラヴィーネがアリタリアの肩を叩くと、アリタリアはため息をついた。

「はぁ...だからそれを先に説明しろっていうのよ。」


「ねえ! これで終わりですか?」

 アイリスは何事も無かったかのように戻ってきた。


 その時には、エスメラルダ二世号の船員たちは上陸しており、すでに港で生き残った海賊たちを制圧していた。

 そして、洞窟最深部からは捉えられていた、人魚たち約30人程が救出された。


 アイリスは、港で泳いでいた人魚が、陸に上がると足が生えて歩きだしたことに驚いた。


「そうすると人魚って普通の人間と区別が付きませんね。」


 アイリスの疑問にアリタリアが答える。

「そうね、私も最初に知った時は驚いたわ。

 魚の鰭は自在に変えられるらしいわよ。

 そういえば、あなたのところにウェヌスって人魚がいなかった?」


「ウェヌスが人魚? 諜報部にウェヌスという者はいるが...」


 その話を横で聞いていたラヴィーネが言った。

「そのウェヌスがセイレーンの戦士よ。

 彼女らは人になりすまして潜入するのが得意なの、この帝国の異変も彼女が帝国に潜入してもたらした情報よ。」

 そこまでいうとラヴィーネは表情を曇らせた。

「そのせいで人魚の里の異変に気づかなかったのは私の失態ね...」


「まあこれだけ助かったのだから、不幸中の幸いと思いましょう。」

 アリタリアはそう言ってラヴィーネの肩を叩いて慰めた。


 アイリスはレイピアをアリタリアに差し出した。

「これを返そう、すごく助かったありがとう」


「助けになって良かったわ。」

そう言ってアリタリアはレイピアを受け取った。


「すごい業物だな、これを使いこなすのだからアリタリアも相当出来るのだろ?」

 

「アリタリアは魔法戦士よ。

 私が保証する、かなり強いわよ!」

 ラヴィーネの言葉にアイリスは目を輝かせた。

「そうだろ? 今度手合わせをお願いしたい! いいだろう?」


 アイリスが迫ってくるのにアリタリアはたじろいた。

「何を余計なこと言ってるのよ、化け物あなたの相手なんて嫌に決まってるでしょ?

 あーもう!」


 迫ってくるアイリスにアリタリアは逃げ出した。


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る