第7話 勇者は己の過ちを知る

国王謁見後、聖女エレナは両親に謝罪しなければならないと言ってオーランド神官長のところへ行った。


一方控室に戻った私アイリスは、アーサー王子に問いかけた。


「フリューは王都を離れ、ラヴィーネもその後を追った。その上エレナまでも。

何かここにきて変なことになっている。王子は何か話を聞いていないか?」


「私は何も知らないよ。フリューが追放されたことは私の望むところではなかったからね。」


王子の何気ない言葉に私は反応した。


「ちょっと待て!追放だと?

フリューは自ら旅立ったのではないのか?私は追放など聞いていないぞ!」


アーサー王子は、一瞬しまったという顔を浮かべ、慌てて言い訳をした。


「君が傷つくと思って黙っていたが、フリューは王都から追放されたんだ。

フリューのジョブは斥候スカウトでなく暗殺者だ。

当然危険な犯罪者のスキル持ちはこの王都にはいられない。だから追放されたんだよ。」


「待ってくれ!人を殺すスキルなど私にもある。それなのにフリューだけが追放されるなどおかしいだろ。」

私は戸惑ってそう言った。


「君も知ってるだろ?

勇者の善のスキルは君を正義の道に誘う。

逆に犯罪者のスキルを持つものは、心が悪に染まりやすいことを。」


「その話は、私も聞いたことがあるが、でもフリューは暗部機関の人間だろ?

機関には他にも暗殺者がゴロゴロいるじゃないか?」


「君は何も分かってないな。」

王子は苛立ちながら答えた。


「暗部機関は正式にはこの国に無いことになっている。だから暗部機関なんだろ?

あいつらは、誰にも知られてはならず、孤児など家族がいない者から選ばれる。

魔王討伐の旅の間、勇者一行に5人目がいたことは隠し切れる事じゃない。公然の事実となっていたんだよ。

フリューは目立ち過ぎたんだ。」


さらに王子は呆れる目で私を見て付け加えた。


「それに君は、自分の立場を利用してフリューを表に出そうとしていた。...違うか?」


私は王子に指摘されギクリとした!

なんてことだ...私がこの国の闇を甘く見ていたというのか?

私は、フリューを自ら追放に導いてしまっただと?


アーサー王子は、うすら笑いを浮かべさらに言った。


「この際だから君には全てを教えてやる。

王都に帰還する直前に国王の命令書に申立人として君はサインをしただろ?

暗殺者シャドウエッジをこの王国の法に従い追放すると。

シャドウエッジこそが彼奴だよ。」


私は王子の言葉を聞き呆然とした...

こんなことが許される訳がない...


私は取り乱して王子に言った。


「あれはサイロスとお前が持ってきた話だろ?

暗殺者が王都にいるから緊急で命令書が必要だと、そう言っていたはずだ!

フリューだとは聞いていないぞ!

なぜ私たちの名前が必要かと聞いたら、大物だから相手が逆らわぬよう勇者一行の名前がほしいと、そう言ったじゃないか?」


「違う、あの時はこう説明したんだ。

と、大物で納得させるためには勇者一行の名前が必要だと!

よく考えてみろ、私は何も嘘は言っていない。」


アーサーの白々しい言葉に私は憤慨して言った


「詭弁だ!!

フリューと知っていたらあんな署名など書くわけがないだろ?!

なぜ私を騙したアーサー!」


アーサーは、私の怒声にも静かに答えた。


「逆に聞くがアイリス。

この王国の法で滞在が許されない暗殺者を、君の仲間だからという理由でいさせられる法があるのかい?

君は仲間だから他人だからという理由でこの国の法を変えられると思っているのか?

君は自分からはフリューを見捨てられない。

だから私が君に逃げ道をあげたんだよ。」


私は王子を睨みるつけるだけで言い返すことは出来なかった。

だが王子のいうことは屁理屈であり、到底納得できるものではなかった。


「あの文書は城門の詰所で宰相がフリューに示すと奴は諦めて出て行った。

私が知っているのはそれだけだ。」


あの私が署名をした文書をフリューに見せただと?


私がフリューと出会ったとき、彼はこう言った

「僕には名乗る名前がありません。」

と、私はその境遇に驚いたが、私の故郷の言葉で風を意味する『フリュー』と名付けた。


私がフリューが、出会う前にシャドウエッジと名乗っていたことなど知らないことはフリューは知っているはずだ。

私は自己弁護をしようとしたが、理性がそれを許さない。

それならなぜシャドウエッジを追放する命令書に私たちの署名がある理由があるのだ?

フリューがあの命令書を見れば、私たち4人が自分を追放したと考えるのが妥当だ。


その事実に思い当たり私は絶望した...


あのような詭弁に賢者ラヴィーネまでも乗るなど信じられない。


あの時を思い出せ、

確かあの時は勝利の祝杯をあげていた。

この話をされエレナは、聖職者として断罪はできないと席を立って出て行った。

酒好きなラヴィーネはかなり飲んで酔い潰れていた。


いやラヴィーネはこの巧妙な罠に気がついた...?

だから、フリューを追ったということか?

ラヴィーネらしく無い態度だと思ったがそうであれば辻褄が合う。


ーーーーーーーーーーーーーー


私は、エレナにこの私が知った事実を確認すべく、オーランド神官長の元に向かった。


「エレナなら、先ほど斥候の彼のあとを追ったよ。

君たちもいろいろ答え合わせが出来たようだね。」


神官長は、優しい顔でそう言った。

私はそこで神官長からエレナに伝えられた秘密を聞かせてもらった。

「王弟サイロスは謀略家のジョブを持っていてね。詐欺や偽証、偽造などの犯罪スキル持ちだ。」

その秘密に私は驚いた。


神官長は語った。


「私は人物鑑定の上位スキルでそれを知ったが、国王に頼まれ秘密となっていた。

このことが知られたら王権が揺るぎかねないとね。

王弟である宰相サイロスはこのことを誰よりも気に病んでいた。」


「だから、犯罪スキル持ちのフリューを追放したと?」


「そうだろうな。

君が王子に言われたとおり、法律を曲げて犯罪スキル持ちを、増して暗殺者を王都にいさせるべきかは私にはなんとも言えない。

だから宰相のやることは見てみぬフリをしていた。

それでもあの宰相のすることかとは私でも思ったがね。」


神官長、そこまで話すと急に頭を下げた。


「今回の事はすまなかった。

私は、法ではなく自分の正義を信じるべきだった。

国を思ってというのは私の詭弁だ。」


神官長は顔をあげるとさらに話を続けた。


「サイロスは、エレナが孤児院の出と知りながら、王子の妃にと画策していた。

私はその話に乗ってしまったのだよ。

子供がいなかった私たちにとってエレナは実の子だと思っている。子供の幸せの為ならばとサイロスのやることには見て見ぬふりをしていたのだよ。

それでもね。今日のエレナを見ていつまでも子供じゃないと気付かされた。

私のやってきたことは間違ってたってね。」


私は、神官長の謝罪を受けたが恨む気持ちなど無かった。


「サイロスは謀略家だ。

奴は人を信用しないし用心深い。

追放しただけで、安心するとは思えない。

そうエレナに言ったところ、急いで出て行ったよ。

親としては後先考えないあの子の行動が不安であるが、エレナがこの先どうなるかは彼女自身が決めることだ。

君はエレナと違って、まだこの国の王妃となれるし、貴族としての立場もある。

君は君の望むままに選択しなさい。」


神官長は寂しそうな笑顔でそう言った。


私は、私はどうしたらいいのだ...


今までずっと仲間と戦っていたのに突然一人にされた気持ちだった。






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