第8話 無法都市ゴモラ

私の名前はリン

組織ではナンバーセブンとかセブンとか呼ばれていたけど、この後困るからってフリューさんが付けてくれた。

大森林の中で出会ったから『リン』なんだって。その安直さは腹立たしかったが、まだ彼が少し怖かったこともあり諦めていた。

でも今となっては私は彼のくれたリンという名前を気に入っている。


私は12歳、17歳である彼とは5個違い。

立ち寄る村では私たちは家族を装った。

親子は無理があるし恋人という設定はフリューさんが拒否した。ぶーぶー!

だから私との関係は兄妹という設定なんだって。

それからはフリューさんのことを兄さんと呼ぶようになった。

兄さんと呼ぶことは最初気恥ずかしかったけどもう慣れた。


大森林を出たあと、私たちは途中で動物や魔物などを狩ってそれを立ち寄った小さな村で売り、そのお金で食料を仕入れならが旅を続けていた。

寝泊まりは途中での野宿がほとんどだったけど、兄さんは組織の誰よりも強く、野外での生活のことはなんでも知っていて私に教えてくれた。

村で泊まるより森での寝泊まりの方が安心できるって不思議!

兄さんと一緒なら何年でも野外生活を続けられるという安心感があり、今までの暗部組織の生活よりかは毎日がずっと楽しい。


「ねえ兄さん。次はどこに行くの?」


「そうだねリン、この先にゴモラっていう街があるからそこに行くつもりだよ。

僕も勇者一行と立ち寄った街ではあるけど...ただちょっと治安が悪いんだ。

それだけに僕らのような怪しい人にはいい街だと思うよ。ずっと同じ服って訳にはいかないでしょ?」

と兄さんに言われ私は真っ赤になった。


「ひょっとして私臭い?ねえ臭いの!?」


はっはっは!!

兄さんは笑って言った。

「いつも水浴びしているし服だって洗ってるだろ?大丈夫だよリンは臭くないって!

それよりその黒装束が変なんだよ?

闇夜に目立たないからって街中じゃ逆に変でしょ?」


「それはそうだけど...」


私が困っていると、兄さんは言った。


「だからゴモラに寄るんだよ。あの街はお尋ね者だろうが誰でも受け入れてくれるし、金さえあれば何でも買える。そこでリンの服を買おうよ。」


最初会った時は怖くて、少しちびっちゃった位だったけど、兄さんは私みたいな足手纏いでも大事にしてくれる。

本当に優しい人だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


街道から少し離れた山の麓にゴモラがあった。

元々の活気のあった鉱山の街だったが、鉱山が枯れて閉鎖の後は、残った工夫と荒くれ者の街となっていた。


「リン、これから行く街には、税金を取れる産業はないから王国の駐在員はいないんだ。

法律を取り締まる者も居ないから、無法者が集まってしまってね。」


「それじゃ、食べていけないんじゃない?」


とリンが首をかしげる。


「誰でも受け入れるってことが、逆にそれが活気になっていてね。

仁義を守れば物の売り買いに税金がかからないから、行商人にも人気で金が集まるんだ。

ただ裏道に入っちゃいけないよ。リンみたいな可愛い娘は攫われちゃうからね。」


そんな話をしているうちに街の入り口についた。

そこには何人かの衛兵が立っていたが、決まった制服は無いらしく、それぞれ思い思いの格好をしていた。


僕とリンは、衛兵に声をかけた。


「僕ら兄妹は、行商人で魔獣の素材を売りに来ました。」


僕がそういうと、酔っ払った40過ぎの衛兵は黙って手を出してきた。


「あっ身分証明書ですね?」


僕がそういうと、衛兵は僕を睨んで言った。


「違う!通行料だ!通行料!

この町では身分証なんてクソの役にもたたない。裏通りで好きな身分証が金で買えるんだからな。」


衛兵はそういうと、ふんっ!と鼻を鳴らし手のひらを突き出してきた。


僕は懐から小銭をかき集めて衛兵に握らせると、「ん、行け!」と言って通してくれた。


入り口の門を抜けるとリンが小声で話しかけてきた。

「兄さんさっきのやりとりは全部知ってたんですか?」


「知ってたよ。

小銭をかき集めたのは僕が大金を持っていることを悟らせないためさ。

小銭だったけど相場の倍を払っているからね、すぐに通してくれただろ?

通行料って言ってるけどアレは衛兵への賄賂だからね。」

僕はリンに軽くウインクした。


「さーて、今日は久しぶりに宿屋で泊まるぞ!

買い物は明日だ。

今日の目的の宿屋はあそこさ!」


僕が指差した先は、一見していかにもいかがわしい連れ込み宿だった。

横ではリンが顔を真っ赤にしていた。


もう夕刻どきであり、宿屋の前には娼婦が立って客を引いていたが、妹を連れた僕には見向きもしなかった。


宿屋天使のすみか

なんかいかにもって名前だけど、僕はこの宿を知っていた。


僕は、恥ずかしがるリンの手を引いて宿屋天使の栖の暖簾をくぐった。


1階は飲み屋になっていて何人かの若い女中が客の相手をしていた。

ここで気に入った娘がいれば上の部屋に連れ込むってシステムらしい。


カウンターの中には茶色の長い髪の30歳くらいの女主人が細長いパイプを燻らせていた。


女主人は、店に入った僕と目が合うと目を見開いて驚いていた。


「あんた...フリュー!?

また来てくれたのかい?会いたかったよー!!」

そう言ってカウンターから出てくると彼女は僕に飛びついてきた。


横ではリンが僕を見上げ白い目で見ている。

この店の常連だと知って疑っているようだ。


女主人グリンダは、しばらく僕に抱きつきはしゃいでいたが、「ん、んっ」っと咳払いをするリンに気づいた。


「なんだいこの娘は?親子じゃないし、恋人って関係には見えないし...あんた家族はいないって言ってなかったっけ?」


「そんな事言ったっけ?

この子は妹〜って感じ?」

僕はグリンダの記憶力に冷や汗をかいた。


「この仕事はお客さんのことはどんな些細な事でも覚えているものさ。

でもなんで疑問形?

...まあ良いさ、この街には訳ありの人間なんてわんさかいる。フリューの妹なら歓迎するよ。」


そういうとグリンダはリンに手を出して握手を求めた。


「兄さんこの人は?」

リンは握手を返すと僕に聞いた。


「いや前に旅してた時にこの街に寄ったって言ったでしょ?その時にちょっと困っていたグリンダを助けたことがあったんだよ。」


僕がそういうと、グリンダがさも楽しそうにリンに言った。

「そうなの!

私が、この辺を縄張りにしているの組織のボスに見そめられ、俺の女になれーってしつこく迫られ困っていたことがあったの。

あの時はを感じたわ〜

その時にたまたまこの宿に泊まっていたフリューが助けてくれたのよ。

フリューって見かけによらず強いでしょ?

組織のアジトに乗り込んでそこのボスに直接交渉して話をつけてくれたの。

それ以降組織はこの宿に手を出さなくなったの。今でもよ。不思議よね〜」


グリンダは上機嫌だった。

リンは僕をさらに白い目で見ていた。


「兄さんそれホントなの?逆に狙われてここ危ないんじゃない?」


リンは心配しているので僕は説明した。


「大丈夫だよ。あの人は話が分かる人だったよ。それにボスって言ったってこのゴモラの顔役だし。

この街はね。選ばれた町長は居なくて、いくつかの組織の顔役が街を仕切ってて、そのまとめ役がその男さ」


僕の言葉にリンは苦笑いしていた。
















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