第9話 宿屋の夜
私は兄さんに連れられてこの怪しい宿に来た日の夜。
「リン、どうだい味は?」
私は、夕食時に出された料理に目を丸くしていた。
「兄さん...美味しいなんてもんじゃないです。私が食べてきた中で一番美味しいかも。」
出された料理は、フォレストボアのシチューとフォレストボアの串焼き、あとサラダとパン!
フォレストボアは兄さんが狩って持ち込んだものだけど高級食材なんですって。
私が、夢中で食べてると女将さんのグリンダさんが声をかけてきた。
「美味しいかい?
こんな店だけど味には自信があるから喜んでくれると嬉しいね。ありがとう。」
「いえいえ!こちらこそありがとうございます。
こんな美味しい料理初めて食べました!」
と私が答えると、グリンダさんは、
「こんな上等な食材はなかなか手に入らないからね。あなたたちには逆に感謝しないといけないよ。」
と言った。
「昔はフォレストボアなんて、よく市場に並んでいたと思ったけど...,最近は厳しいの?」
という兄の問いかけにグリンダさんは困ったような顔で言った。
「この街に魔族領の亜人の村からの難民が流れてきてるんだよ。
だから食料の調達も厳しいのさ。
最近、魔王が倒されただろ?
勝った側の腹いせかね? 王国の兵隊が村を襲ってるって聞いたよ。」
その話を聞いて兄は難しいそうな顔をしていた。
「王国の兵隊が常駐している街は彼らを受け入れないから、この誰でもウェルカムな街に流れてきたんだろうね。
別に魔族領にあったって私らに悪さしていた訳じゃないし、この町でも悪さをしないから元のゴロつきよりよっぽど信用できるんだけど...」
「グリンダ、僕がここにいる間、狩りをして食材を取ってくるよ。
そこでお願いなんだけど、店で余った食材を亜人の難民に分けてあげて欲しいんだ。」
兄の頼みを聞いてグリンダさんは驚いていた。
「そんなこっちにしてみれば良いことずくめじゃないか?
もちろん構わないけど、悪いのは王国の兵隊であってあんたが責任を感じる事なんて無いんだよ?」
「これは僕の偽善さ。
あと怪しい僕らを匿ってくれるグリンダへのお礼かな。」
そう兄は苦笑いをしながら言った。
「そうだ!ちょっと待ってな!」
そうグリンダさんは閃いたように言うと、奥に引っ込み皮袋を持って戻ってきた。
「それじゃあこれを持って行って!」
とその皮袋を兄に渡した。
「これはマジックバッグ?すごく高価なものじゃないか!」
「先日ここで何日も泊まっていた魔術師の冒険者が借金のかたに置いて行ったものさ。
こんな物もらっても、この街でこれを売っても足元を見られるだけさ。それに盗賊の手に渡ったらまずいだろ?あんたに持っていってもらえると助かるよ。
あんたには返せないほどの恩がある。
上等な食材ももらえる。
こういうのをウィンウィンって言うんだろ?」
こうして私たちは希少なマジックバッグを手にいれたのでした。
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美味しい食事の後、私と兄さんは部屋に案内された。
最上階の特別の部屋なんだって。
と言っても、客室に仕立てた屋根裏部屋なんだけど、他の部屋より他の部屋の音が聞こえにくいんですって。
「この部屋は階段をあげて床板を閉めたら部屋って分からないから安心だろ?
まあゆっくりしなね。
あとリン。何かされたら叫ぶんだよ。
私がその役目、替わってあげるから」
とグリンダさんはニヤニヤしながら言った。
私が、「結構です!」と怒って言うと、「それじゃごゆっくりー」っと笑いながら階段を降りて行った。
ふー、落ち着いて見ると部屋には大きなベッドが一つだけだった。
「兄さん…私は小さいからソファーに寝ます。
ベッドを使ってください!」
私が緊張していうと、兄さんは
「広いからベッド2人で寝れるよ。
それに、何を緊張しているのか分からないけど、僕がリンを襲うとか思ったのなら今更でしょ?僕がその気になれば初日に襲ってるよ。」
「それはそうですが...」
普通こういう場所では緊張するじゃないですか?兄さんは、優しいけど無神経です!
そう思いながら、私は兄さんのベッドに潜り込んだ。
今日は眠れないかも!?っと思ったんだけど
私は目を閉じると、すぐに眠りについた。
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「もう寝たの?はやっw」
リンを拾ったのは僕の気まぐれだった。
王都を離れた後、すぐに追手の暗部機関に襲撃され、それを返り討ちにした。
勇者たちに捨てられ自暴自棄になっていた僕は、他人と関わることが嫌だったらから、暗部機関の一員として連れてこられた子供達は殺してしまった方がいいと考えていた。
だから、リンを連れてきたのは本当に気まぐれで、彼女がかわいそうとか、救いたいとかいう気持ちは全くなかった。
そんな気まぐれだったが、それからもう半月ほどリンと過ごしている。
リンとの生活は僕を変えた。
僕一人ならどうやっても生きられるが、リンはそうはいかない。
食べるものを用意して、清潔を保ち、よく眠れる環境を作らなければならない。
僕は不思議とそのことを煩わしく思うことは無かった。
いや逆に自暴自棄となっていた自分が少し救われたようだ。
この感情は何だろ?
僕は12歳の子供に恋愛の情を抱くような嗜好はないけど。
これはあれだ!昔孤児院で飼っていた仔犬に抱いた感情と同じかも?
それを言ったらまたリンに怒られるな。
そんなことを考えながら僕は眠りについた。
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