第10話 斥候の行方

私、賢者ラヴィーネは、半月ほど前からフリューの行方を追っていた。

大森林で暗部機関の暗殺者がフリューに返り討ちにあった事を聴き、私は早々と大森林を迂回した。

馬に加速のバフをかけ続け森を抜けた反対側に先回りした。


フリューは絶対ゴモラに立ち寄る。

それに賭けてゴモラに先回りしたのだけれど...


過去にフリューが滞在していた宿にて彼を待った。

がしかし...慌てて追いかけてきたから持ち合わせが無い...


「あんたが高貴な魔術師様だっていうのは信じるよ。でもさぁ。後からツレが来るって1週間もツケで飲み食いされても困るんだよ。そろそろ払ってくれないかい?」


と女将に話しかけられて私は焦った。


「ツレがこっちに向かっているのは間違いない...と思うんだけど...もうちょっと待ってくんない?」


私がそういうと女将は呆れたように言った。


「貴重なマジックバックってやつを預かっているから、あんたが逃げたりするとは思っていないよ。

だけど、いつまでも待ってはあげられない。

無理ならあのマジックバックをどこかで売ってお金を作ってきな?」


私は困った。

マジックバックは家が買えるほどの貴重な品物で売れば大金が手に入るけど、

でも、この街にはそれを売り捌く先がない。

どうしたものか考えていて閃いた。


「じゃあさ女将!このマジックバックを置いて行くからさぁ。何日かここにいさせてよ。

酒と食事付きで!」


女将は困った顔をしていたが、諦めたように言った。


「仕方ないね。こんなもの私にも売り捌けないけど、まあ価値はあるものだろうからあと何日かはいていいよ。

でも、お連れさんきたらきっちり払ってもらうからね。その時までこれは担保に預かっておく。」


そう言って救われた。


がしかし、それから数日後、フクロウ便により同僚の宮廷魔術師から手紙が届いた。


『国王が何者かの襲撃を受け危険な状態、すぐ戻られたし。』


事態は私の予想を超えていた。

私は、王都に戻るべくゴモラを立つことにした。

「女将、緊急で立たねばならなくなった。

約束を守れなくてすまないが、マジックバックを受け取って欲しい。」


「困ったねぇ。まあいいわ、マジックバックは水瓶に代りにでも使わせてもらうよ。

若い女の一人旅なんだから気をつけて行くんだよ。」


「ありがとう女将、ここの食事は美味しかったわ。また来るよ。」


「次来る時は金を持ってきな!あとマジックバックも買い戻しておくれよ。」


私は女将に見送られ、ゴモラを後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


私エレナ=オーランドは、フリューを追って王都を離れた。

と言っても、フリューの行方に関する情報はなかった。


私は小さい頃からレアなスキルを一つ持っていた。

   『英雄の守護者』

これがどのようなスキルかは私にも分からないし、スキルの鑑定をしてくれたお父様も聞いたことがないと言っていた。


私は、このスキルがあるが故にお父様に言われ勇者一行に参加した。

そして私が勇者一行に参加した際、私の近くに英雄の存在を強く感じた。

だから『英雄の守護者』は、勇者アリエスに付き従う定めにある者とそう思っていたのだけれど。


実際、勇者一行に参加した後の私の癒しの力は、それ以前に比べて格段に向上していた。


「フリュー、じっとしてください。」


「ありがとうエレナ、いつも僕ばかり迷惑かけちゃってごめんね。」


「そう思うなら自分をもっと大事にしてくれなければ困ります。」


攻守に秀でた勇者アイリス、鉄壁な装備で守りの要である聖騎士アーサー

それに比べてフリューは、1対1の戦いや、森などでの戦いではずば抜けて強いけれど、多数の敵の殲滅や、守備戦などを苦手として、一番ケガをしていた。

私はフリューを手のかかる弟の様に思っていた。


アイリスとアーサーと一緒に魔王の城に入った時に私は違和感を感じた。

それは、フリューが別行動して単身で魔王を挑みに向かったので、私は手のかかるフリューを心配して不安を感じているだけだと思っていた。


しかし、魔王を討ち取ったの後、王都に凱旋したパレードの中でその違和感を強く感じた。

   私から英雄が離れて行く…

その違和感の正体に気がついたのはその時だった。

 私の英雄は勇者アイリスじゃなくフリュー?


その後、

「勇者アイリス=ブレイズ、聖女エレナ=オーランド、賢者ラヴィーネ=イスマイル、三人は第一王子アーサー=ローゼンブルクとの婚姻を命ずる。」

 サイロス宰相から、フリューが王都を離れたのを聞き、そして、国王の命令でアーサー王子との婚約が言い渡された。


   王妃の座など私は望んでいない


 私はどうしようもない焦燥感にかられ言葉が出なかった。


私にはこの国の王妃となることより、英雄の守護者としての自分でありたい。


だから国王の謁見の際に、問題がある行為だと知りつつ、自分が孤児院の出であることを公の場で公表した。


 迷惑をかけてしまったお父様に謝罪した時、お父様からフリューが追放され、追手が迫っているかもしれないことを聞かされた。

   聖女の名声など私はいらない

 私は迷うことなくフリューを追いかけることにした。


王都を出て、フリューの行った先の手がかりは無かったけれど、私には英雄フリューの居場所が感じられた。


「待ってなさい。私の英雄!」


私は、馬に乗り無法都市ゴモラに向かった。



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