第11話 難民キャンプ

ゴモラに来て1週間がたった。

僕とリンは、その間毎日のように森に入って鳥や獣を狩った。


「リン!5秒後に上空にジャイアントフェザントが飛んでくる。5・4・3」


2・1は指で数える。


バサバサバサッ 上空に大きなキジが現れた。


リンはすかさずクナイを投擲すると、見事キジの首に当たりキジが落ちてきた。


「やったよ!兄さん!」


「すごいぞリン!ここ数日でクナイの腕は上達したな!」


「すごいのは兄さんだよ。見えないうちにキジが飛んでくるタイミングが分かるなんて!」


夕方になり僕らはキジを3羽担いで門に帰ってきた。


「今日も大量だなリン。」

「ありがとうございます。」

いつもの衛兵から声をかけられた。


「血抜きはしてあります。これを皆さんで食べてください。」

僕はそういうと担いでいた3羽のうち1羽を衛兵に渡した。

「毎日悪いな!何にかあったらいつでも俺たちを頼ってくれ。」


僕らが宿屋天使の栖に戻ると、建物の前に立っている女給兼娼婦のお姉さんに声をかけられた。

「フリュー君、美味しい食材いつもありがとね。

遊びたかったらお姉さんサービスしちゃうからいつでも声かけてねー。」

彼女がそういうと、

「ヨナさん!兄さんをそういう遊びに誘うのやめて下さいって言ってるじゃないですか!」


リンは怒って僕の手を引いて宿屋に入る。

それが日課となっていた。


僕らが宿屋の裏に回ると、持っていたキジ2羽の他、マジックバックから巨大なキジ、ジャンアントフェザントを取り出した。


「本当にこのバックはどういった構造になっているのかね?」

女将グリンダがつぶやいた。


「あとはウチのコックが捌いておくから、これを持っていってくれるかい?」


グリンダはそういうと、大きな蓮の葉に包まれたジャイアントボアの肉の塊を出してきた。

僕はそれをマジックバックにつめる。


「じゃあ行ってきます。夕食前には帰ります。」

と言って、宿屋を後にした。



町外れの教会の裏手に、大きなテントが並んでいる一角がある。

ここが亜人たちの難民キャンプとなっていた。


僕らを見つけると、女の子が一人手を振りながら駆け寄ってきた。

その女の子のクリーム色のロングヘアの間から羊の様な角が生えていた。


「フリューさんリンさん!」


「やあララム、みんなで食べるには少ないけど足しにしてくれ」


そう言って僕はビックボアの肉塊を渡した。


「ほんと助かります。私たちも場所を借りて野菜とかを作ってるんですけど、どうしても栄養が偏っちゃいますから」


彼ら獣人族の多くは狩猟を得意としていたが、どうしても難民の身で武器を持って街を出入りするのは問題があり、野菜を作ったり、街で下働きしながらなどで生活をしていた。


そんな生活でもララムは明るく元気に難民キャンプで炊き出しの仕事をしていた。


「ちょっと待ってください。」


ララムはそういうとポケットから、白、赤、緑などカラフルな毛糸で作った腕輪を渡してきた。


「迷惑かもしてないけどこれ受け取ってくれますか?

これは私たちの部族に伝わるお守りです。

『戦士の加護』をお祈りして私が作りました。」


「わー!素敵ー!!」


リンはそう言ってララム腕輪を受け取ると真っ先に左腕にはめた。

僕もリンに習って左腕にはめてみた。


「フフッ、兄さん私たち二人ですね!」


とリンが笑って言うと。

ララムも袖をまくり、腕を出してきて


「フフッ、3人おそろいです」


とララムも笑っていた。


ーーーーーーーーーーーーー



賢者ラヴィーネが王都に帰ると、真っ先に城に向かい、国王との面会を求めた。


宰相サイロスが言った。

「国王はお付きの医師以外、誰との面会も望んでいない。

賢者であろうと宮廷魔術師だろうと面会は認められない。

大賢者であろうともだ。」


「王に何があった?」


私の問いかけの対し宰相は


「寝室でお休みのところ侵入した侵入者に襲われたのだ。

ベッドにはられた結界のおかげで一命は取り止めたが、重篤とのことだ。

ご様態は陛下お付きの医師にしか分からん。」


と説明した。


「侵入者ですって?」

と私が呟くと


「暗殺を失敗して窓から逃げた。

暗殺の手口からして斥候フリューの疑いが高いと判断している。

なにしろ奴には動機があるからな。」

と宰相は言った。


私は考えた。


王の寝室は王の意思がないと開かない。

そういうような結界がはられている。

正攻法で面会をするのは無理だろう。


ベッドの結界を張ったのも私だ。

結界を破って重篤に至らしめた侵入者が、結界を理由に逃げるとは考えにくい。


フリューにはあの程度の結界は無意味だからフリューの可能性はない。


そう考えると国王は健在だ。


「分かった。私は自室で待機するから国王の容体に変化があれば連絡してくれ。」


そう言って私は王城を出た。


その日の夜、私は王城の塔の頂上に立っていた。


「なかなか骨が折れるわね。」


『ーNeo-aithnichteー』『ーcasg tuiteamー』


私は、自身に認識阻害の魔法、さらに落下速度減速の魔法をかけると、隣の塔から王がいる塔に飛び移った。


私は空中を漂うように移動して王の寝室の窓に飛びこんだ。


王の寝室の窓は外から認識阻害の魔法が張られており、一見して壁にしか見えない。

故に私は壁をすり抜けるように中に入った。


予想どおり窓は破られていたのですんなり王の寝室に入ることが出来た。


「お待たせ」


私はそういうと、ソファーに座る国王フリードリヒと高齢の宮廷医師ボッタスの前に現れた。


「やあ大賢者ラヴィーネ、久しぶりだね。」


そうボッタスは言った。

ボッタスは王宮の中で私の正体を知っている数少ない男の一人だった。


王は怪我などは無いけれど、顔色は悪く、疲れ切っている様子だった。


「フリードリヒ、何があったか教えてくれるかしら?」


私がそう聞くと、王は答えた。


「暗殺未遂よ。よくある話だ。

ラヴィーネ。お主の結界に救われたが、もうお主とボッタス以外は誰も信用できんよ。

首謀者は私にも分からん。

...がサイロスかアーサーかその両方ってところだろう。

王城の王の寝室の場所を外から正確に入るなど、内部の人間しかありえん。

族は暗部の人間だろうが、お主のお気に入りの斥候ではないことは明らかだ。」


などと言って王は落ち込んでいた。


「フリードリヒ、あなたシャドウエッジという暗殺者の国外追放の命令書を書いた記憶はある?」


私の問いかけに王は少し考えると、思い出したように言った


「ああ、あれはお主らは帰還する少し前だったな。

サイロスに言われて書いたものだ。

暗殺者スキルを持つものが城下で見つかったとか、そんなのよくある話だ。」


「それじゃあ、勇者一行の5人目、暗部出身の斥候の名前がシャドウエッジだったって聞いていた?」


「そんなの知るわけが無いだろ。斥候の名など覚えておらんよ...いや待てよ

暗部出身の斥候は『ナンバーセブン』という訓練生だと聞いている。

その後もサイロスはナンバーセブンと呼んで説明していたからな。」


「そうね。私もそう聞いていたわ。

そして本人もシャドウエッジとは決して名乗らなかった。

知っていたのは宰相サイロスとアーサー王子だけってところかしら?」


王は思案していたが急に気づき慌てた。

「ちょっと待て待て!

それではワシは、魔王討伐の功労者である斥候フリューの追放を命令したという訳か?」


「そうね。

しかも悪いことに私を含めて勇者一行4人の連名付き、それをあのサイロスやろうは、命令書をフリューに見せたらしいわ。

おかげで勇者も私もあの子に恨まれていることでしょうね。」


「なんだと!馬鹿なことを!そんなことをして何の徳があるのだ。」


「一つはサイロスが犯罪系スキルに過敏になっているというところかしら?

彼自身抵抗していても、心が悪に傾いているのを自覚しているのでしょうね。

2つ目は、フリューを追放を望んでいるのはアーサー王子よ。

彼が娶る予定の3人はフリューにメロメロですもの。私も含めてね。

3つ目は、実際彼が危険だというのは正しいわ。暗部の暗殺者20人が一切抵抗出来ずに返り討ちにあってる。王子にとっても宰相にとっても脅威と言っていい。」


「そうだとしてもここで手を引かねばまずいことになるぞ。」


「そうね、落ちぶれてもさすがフリードリヒね。王の器なのは認めるわ。

サイロスとアーサーは彼を過小評価しているわ。

彼が敵国に渡ったら、彼が仲間を得て反抗に出たらどうなるか?

あの子は自然と人を惹きつける何かがあるの。

サイロスはそのことを想定していない。

それを止めたくてここに来たけど無理そうね。

ボッタスあなた、王が重篤だって誰かに言った?」


「いや言っていない。」


「ボッタスはたまたま回診にきていたが、族が逃げてからこのドアは開けていないからな。

籠城用の非常食があるのでなんとか食い繋いでいお主を待っていたところよ。」


「やっぱりね。

外では王は重篤って言ってるわ。

そこ開けたらあなた達は消されるわよ。」


アーサー王子とサイロスの計画は9割方成功していた言って良いわね。

これから、どう巻き返しを計るか...


「さあ貴方たち!逃げるわよ。」


私は、男たちを立たせた。










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