第12話 ゴモラ強襲

私、第一王子アーサーは進退行き詰まったところにきてしまったようだ。

魔王討伐の栄光の中で、3人の美姫が手に入る寸前まできていたところ、そこで道を誤ったのか、聖女エレナと賢者ラヴィーネは私の前から去った。

まだ望みはあるとはいえ、勇者アリシアは私のことを嫌っているのは確かだった。


「あんたを信じてここまできたのだぞ、サイロス叔父。これでは反逆者じゃないか?」


私は宰相サイロスに恨みがましい目で見て言った。


「アーサー王子、私は王家の繁栄を願って行動しておりましたが、もう兄上、いやフリードリヒ国王は、王子も私も信用しておりません。

ここまま王政からの身を引くか、血塗られた王の道を選ぶかです。王の道を選ぶことはも喜ぶでしょう。」


サイロスも、謀略家のジョブに抗えなかったか。

私も、覇王のジョブに従おうじゃないか。


の意見は分かった。我も腹を決めよう。

王の寝室には、深夜に暗部の暗殺者を向かわせろ。必要なら火を放て。

賢者ラヴィーネを、国家転覆を目論む逆賊として捕えよ。」


「かしこまりました。

ところで反逆者フリューの件で情報が入っています。どうやら無法都市ゴモラに潜伏しているかと。」


「フリューは今後一番の障害になりかねん。絶対に逃すな」


「魔族領内で掃討作戦中であった、第二辺境騎士団を向かわせてゴモラを街ごと殲滅します。」


「あの狂犬部隊か?ちょうどいい噛み合って相互倒れても好都合か。」


病気療養中の国王に代わり、アーサー=ローゼンブルクの名において、表向きには、亜人に侵略された都市の解放として辺境都市ゴモラの壊滅命令が下された。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ボス!大変です。

王国の騎士団が魔王領からの帰りにこの街に真っ直ぐ向かってきているとの情報が入ってやす。」


ゴモラの筆頭顔役であるミゲーレの下に部下が駆け込んできていた。


「面倒だなぁ。うちには今亜人たちを抱え込んでるぞ。難癖つけられると面倒だなぁ。」


ミゲーレは思案した。


「ボス、亜人たちを追い出すってのはどうですかい?」


「ばかやろ!街の仁義に反しない限り誰でも出入り出来るってのがルールだ。

亜人であろうが、魔族であろうが、仁義を守るものを追い出しちゃいけねえ。

第一存在が迷惑だからって理由で追い出せるならお前を真っ先に追い出してやる」


「...ちげえねえや」

部下はミゲーレの話に納得していた。


「追い出しちゃならねえが、いつでも逃げれるように亜人たちに話を通しておけ。

他の組織にも連絡して動けるやつは全員警戒に当たらせろ」


そうミゲーレは部下に指示を出した。

さらにミゲーレは別の部下を呼び止め指示を出す。


「天使の栖のグリンダにも、王国の騎士が向かってきていることを伝えろ、あそこには今あのガキが戻ってきている。

ガキに話を通しておくんだ。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日、僕とリンは夜行性の巨大猪を狩に、深夜森に来ていた。

夜明けごろにゴモラの街に戻る途中で、森に焦げ臭い匂いが漂うのを感じた。


そして、丘を超えてゴモラの街が見える場所にきて気づいた。


「兄さん。街が燃えてる。」


リンがそう言って驚愕していた。


「あれはただの火事なんかじゃない。放火された戦争の炎だ。

僕は街に行く、リンはここにで待っていてくれ。マジックバックに金を入れて置いて行く。もし僕が戻らなければリンは別の街に逃げるんだ。いいね。」


僕がそういうと、リンは泣きながら言った。


「いやよ兄さん!私も一緒に行く。」


そう言ってすがりついてきた。

時間はない。

僕は、懐に潜ませていた薬をリンに嗅がせ眠らせると、木々の茂みにリンを隠した。

これで半日は起きない。


そうして僕はゴモラの街に走った。


入り口には衛兵は誰もおらず、街にもほとんど人はおらずただ火が放たれた家が燃えていた。

またいくつかの家には甲冑を着た騎士が入り込み略奪を行っているようだった。


あの騎士の紋章には見覚えがあった。

『第二辺境騎士団』

通称狂犬部隊と呼ばれ、騎士とは名ばかりで、魔族領の村々を襲い掠奪を繰り返していた集団だった。


僕は、気配を消しながら宿屋天使の栖に急いだ。


宿屋は火はついておらず、明かりは消えていたが、出入り口ドアは壊されていた。


僕が中に入ると、2階の奥の部屋から物音がした。

僕が気配を消して飛び込むと、そこにはベッドの上で裸で押さえつけられているグリンダと、甲冑などを脱ぎ捨てた裸の男が2人がかりでグリンダを押さえつけていた。


「なんだてめえは邪魔するな!」


男の一人が僕に飛びかかってきたことから、それをかわして、首を捻り一人を殺した。

その間に剣を拾おうとした男についても、背後に回って近づくと素手で首を捻って殺した。


グリンダの前で血を見せたくないと思い、僕は2人を素手で仕留めた。


グリンダは、涙を流して僕に飛びつきしばらく胸に中で泣いていた。


「また助けられちゃったね。」


ひとしきり泣いた後、体にシーツを巻いたグリンダはベッドに座って話し始めた。


「ボスのミゲーレから王国の騎士団この街に迫ってきていることを聞いて、うちの娘たちは鉱山跡に逃したから、この宿には私一人さ。

私は宿屋を守るため残っていたところこのざまさ。」


「なんで王国兵が王国の街を襲うんだよ?」


僕の疑問に対してグリンダは言った。

「さあねぇ。押し込んできた奴らの話では抵抗する奴は火を放つんだって。

抵抗しなきゃ略奪したり女を犯したりするくせにね。

あと、入る時にこう言ってたよ。「亜人を匿っているだろ」って」


「ララムたちが危ない!

グリンダは、屋根裏部屋に隠れているんだ。僕はララム達を助けに行く」


「前みたいに止めたって行くんだろ?気をつけるんだよ。」


僕はグリンダに見送られ難民キャンプに向かった。



教会の屋根の上に立ち難民キャンプの状況を確認した。

その光景はひどい有様だった。


全てのテントには火が放たれ、地面には殺されている多くの亜人が見えた。


数百人ほどの兵士が略奪した酒や食べ物で祝杯をあげている。

女や子供が奴隷のように笏をさせられているのが見える。


僕には索敵範囲内の敵意や感情を読み取るスキルがあるが、多くの兵はすでに戦意は消え快楽を求めている。


これは地獄か?

魔族でさえここまで欲望にまみれることはない。

こいつらは魔王領でこんなことを繰り返してきたのか?


僕は、こいつらを引き込んできてしまった原因が自分にあると思っている。

ゴモラの街の火の手を見てから今まで、街のみんなに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

それと共に、この兵たちには強い殺意が湧いた。


僕には、勇者アイリスのような多くを薙ぎ倒す能力はないし、賢者ラヴィーネのような殲滅魔法もない。

増して癒し手エレナのような人を癒す力なんて持っていない。

そんな僕に出来ることは...


僕は光景を見て考えを巡らせた。

中央の丘の上に大きな天幕が張られ、その周りを武装を固めた兵士が囲んでいる。

複数人の気配が。

何人かの女、いずれも羞恥、憤怒、諦め、悲しみの感情を持っている。

その中央には男、快楽、傲慢、性欲。

この男がこいつらの親玉か...


そう確信すると僕は天幕を目指して駆け出した。

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