第13話 戦場を駆ける


僕は外周部から突入し、天幕を目指した。


取り囲む兵を無理やり蹴散らして行く。


一人、二人!...これで5人!


立ち塞がる兵はナイフで仕留めたが、10人目の兵の眉間にナイフを突き立てた時、僕のナイフは砕け散った。

僕は、落ちている短剣を拾うと再び中央を目指した走った。


「何やってるんだ止めろ!」


「無理だ、動きが見れない!」


「化け物か?!」


「恐れずに取り囲め!」


兵たちの悲鳴と怒号とで、徐々に兵たちが騒動に気づき集まってくる。


密集したところで動きを止められれば僕は死ぬ。


僕はさらに速度をあげた。


剣が折れれば、死んだ兵の剣を奪って戦い続けた。

もう何人殺したかは数えていない。


こんなの僕の戦い方じゃない。

そんなことは分かっているけど、焦りと怒りが僕を暴走させていた。


それから僕は数十名の兵を殺した。

だけど、徐々に包囲は狭まり、僕は追い詰められてきていた。


あと少し...


その時、中央の天幕が開かれ、中から上半身裸で巨漢の男が現れた。


男は、先に斧のような刃がついた槍、ハルバートを脇に抱えていた。


「こいつがシャドウエッジだ!!全員で一斉に取り囲こめ。躊躇して逃げたやつは、俺がその首を刎ねる!」

その声に兵たちがざわついた。


コイツさえ殺せれば...

しかし僕の体は限界に達し、意識がもうとうとうして死を覚悟した。


!?

その瞬間、僕の体が淡く光を纏った。


これには覚えがある。誰だか分からないけど、僕に支援魔法をかけてくれている。


体力回復

移動速度向上

反応速度向上

防御力向上

攻撃力向上


光の中で僕は幾重にも支援魔法が重ねがけされていくのを感じた。


怪我が治った訳でもなく、血も足りない。

1分ほどの間、無理やり能力を引き上げるだけの危険な魔法であった。

...が、僕は今その力を欲していた。


超加速!


僕は体内の気を脚部に集中し、一瞬にして巨漢の男まで間を詰め寄った。


「何だと!」


巨漢の男は焦って大ぶりにハルバートを振り抜く。

しかし僕は地面に伏してそのハルバートをかわすと更に加速して男の背後に回り込んだ。


そしてその首を跳ねた。


男は血飛沫をあげながら、首の離れた胴体が倒れていく。


一瞬の静寂の後、誰かが叫んだ。


「団長が討ち取られたぞ!誰か奴を殺せ!」


僕は支援魔法の力が切れ、体から全ての力が抜けるようにその場で膝をついた。


周りの兵たちは、僕の満身創痍の様子を、

見てじりじりと間を詰めてきた。


「さすがに終わりか...」


親玉を討ち取ったことで僕は一応の目的は果たした。

僕のせいで迷惑をかけたのは心残りだったが、僕の命で許してほしい。


そして僕は意識を手放そうとしていた...


「立ちなさい! 立って!」


そこに兵をかき分け、光り輝く何かが近づいてくる。

目を凝らすと白馬に乗ったプラチナブロンドの女性が駆け込んできた。


馬には防御の強化魔法がかけられ、攻撃を跳ね返していた。


聖女エレナ=オーランド


僕を見捨てて追放した人、僕を裏切った人、僕が恨むべき敵...


僕は反射的に最後の力を振り絞って立ち上がると、彼女の手をとって彼女の後ろに飛び乗った。


僕たちの乗った馬は、そのまま兵士をかき分けて駆け抜けた。


そして兵たちの囲いを突破すると、間も無くしてゴモラの街を離れた。


僕はエレナにしがみつきながら意識を失った。


ーーーーーーーーーーー


僕は夢を見ていた。


「姉さん待ってよ!」


僕は孤児院にいたて、血のつながらない兄弟たちに囲まれていた。


孤児たちは、親に捨てられたリ、両親を失ったりなど来る理由は様々だが、時々くる大人に連れて行かれる理由も様々。

兄弟のように暮らしていても突然の出会いと別れを繰り返していた。


姉のように慕っていた女の子が裕福な家庭に貰われていき、僕は泣いていたところで目が覚めた。



「兄さん!無事で良かった。」


気づくと僕はベッドに寝かされていた。

横にはリンが付き添っていた。


「ここは?」


僕がぼうっとしてそう聞くと


「街から離れた木こりのおじさんの家。

ここに匿ってもらっているの。」


そうリンが答えるとガタイのいい男が、入ってきた。

狼その男は鋭い牙が生え、鋭い目と三角の耳、犬のような毛に覆われていた。狼男?


「おっ!英雄どののお目覚めか?

今何か食うものを用意するから待っててくれ。

おっと、彼女には感謝すんだな。

あんたを付きっきりで介抱してくれたんだ。」


そう言って部屋を出て行った。


「リンありがとな。あと置いていってすまなかった。」


僕が謝ると、リンはクビを振るだけで優しく微笑んでいた。


彼女たち?僕は記憶が鮮明になるにつれ、思い出し、僕は彼女との再開を考え怯えた。


その時、ドアが開き彼女が入ってきた。


聖女エレナ=オーランド


僕は捨てられたおびえる子犬のような目で彼女を見て震えた。


彼女は悲しそうな、それでいて少し怒ったような目で僕を見ていた。


「何を怯えてるの?あなたが小さい時に姉さんを信じなさいって言ったわよね?」


姉さん?彼女がいうその響きに僕は覚えが無い。

僕らが旅していたこと聖女エレナは常に優しく、控えめで、勇敢な女性、そしてちょっとだけよそよそしい人というイメージを持っていた。


僕は少し混乱していた。


「僕を追放したあんたが!

なぜ僕を救った?」


僕の拒絶した態度にエレナは涙を浮かべ、僕に抱きついてきた。


僕は彼女の胸に中に抱かれた。




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