第14話 エレナ=オーランド

「黙ってこのまま聴きなさい。」


僕はエレナ=オーランドの胸に抱かれながら彼女の話を聞いた。

あれほど避けていた彼女であったが不思議と嫌悪感は無かった。


「話はリンから聞きました。

私は今まであなたを裏切ったことは無いし見捨ててもいません。」


エレナはそう語り始めた。


「それに、あなたを追放する命令書に私は署名などしてません。」


僕のスキルでの鑑定では真性の命令書だった。

宰相サイロスの言葉にも嘘は無かったはずだ。


「でも、」


僕が何か話そうとすると、僕の頭を抱く力がさらに強められた。


「だから黙って聞きなさい。」


僕が混乱している中、エレナは話を続けた。


「あの日、宰相から暗殺者の追放書面にサインするよう求められたことは覚えています。

 私はお父様から、サイロス宰相のスキルに警戒するよう言われてました。

だから、その話がきた時に、詳しい話を聞く前に断ってその場を離れたのです。」


「それでも、あんたたち4人の署名があったじゃないか」


僕が泣きそうになりながらそういうと、エレナは


「宰相は、謀略と偽造の犯罪者スキル持ちです。

それは、あなたの鑑定スキルより強力なね。

 宰相には、他の書類に書いた署名を転写するスキルがあります。それで私のサインを写しとったのでしょうね。

後でバレても構わないなんて、私は舐められたものね。

 他の3人のことは分からないけど...

アリエスの場合は、彼女は法を司る神の寵愛を受けた分、法に縛られる弱点があるの。だから法に従った行いに疑いを持てない。

 ラヴィーネの弱点はもっと深刻ね。

 彼女はお酒に弱いくせに、お酒が大好きなの。あの日は結構飲まされていたから。」


そう言ってエレナは苦笑いをしていた。


「思い出して見て?私の署名にはなんと書かれていたかしら?」


「聖女エレナ=オーランド...そうか」


僕はいま気がついた、エレナは自ら聖女と名乗ったことは無い。


「そう私は癒し手であって、他人から聖女と呼ばれることがあっても自分から名乗ったことはないわ。」


そう、それがエレナの信念だったはずだ。

エレナの言葉に嘘はない。


僕は嬉しくって涙が出てきた。


「二つ名を自分で名乗ることほど恥ずかしいことないでしょ?」


僕が見上げると彼女は笑っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


僕は、ベッドの上で食事をしていた。


「僕はどのくらい寝ていたの?」


僕が寝ているベッドの上で、僕の足元あたりでゴロゴロしていたリンが答えた。


「兄さんは3日寝てました。その間エレナ姉さんが癒しの魔法をかけてくれて傷は塞がっています。あとは食べて失った血を増やせば元通りなんですって。」


リンは退屈そうにゴロゴロしていた。


「エレナ姉さん?リンはエレナのことを姉さんって呼んでるの?」


僕が不思議そうに聞くとリンが答えた。


「だってエレナさんって兄さんの姉さんでしょ?私の兄さんの姉さんなんだから私の姉さんじゃないですか?」


僕らがそんな話をしているとエレナがティーセットを持って入ってきた。


「フリューが私の弟だって話?

もちろんフリューは私の可愛い弟よ。」


 エレナはそういうとまた僕の頭に抱きついてきて、僕の顔を胸に埋めた。

 僕は、再会してからのエレナの態度に違和感を感じていた。


   なんか馴れ馴れしい。


 旅していたころも優しかったし、エレナはお淑やかで僕に気遣いしてくれていたけど。

 でも、こんなはっきりとした愛情表現は無かったはずだ。


 だから僕はエレナを引き剥がすとズバリ聞いてみた。


「エレナなんか少し変わった?」


僕の質問を聞いてエレナはニヤニヤ笑って答えた。

「今まで我慢していたから、それが表に出たのね。」


「確かに僕はエレナのだけど、昔はそんなこと言ってなかったと思うんだけど。」


「そうね。魔王討伐の旅の間は我慢してたの。

前から抱きしめたくってムラムラ..じゃなかったうずうずしていたわ。」

僕はエレナの態度に少し危機感を感じた。


「私には魔王討伐の旅の間、公表できない秘密があった。私は、オーランド神官長の実の娘ではなく、お父様とお母様に貰われた孤児だったの。

私が貰われて行ったのは今から10年前、私が10歳の時、そうノアあなたは7歳だったわね。」


   『ノア』

それは僕が孤児院にいた頃の名前だ。

僕は覚えている、仲良く遊んでくれたが、貴族に貰われていった日のことを。

 僕は驚いて聞いた。


「だって!姉さんは、綺麗なハチミツ色の髪で目の色も青かったじゃないか!?」


 僕がそう言ってエレナと目を見つめると、その紫がかった瞳の色が空色に変わっていった。


「この目はね。魔法で色を変えていたの。便利でしょ?

あと髪の色は脱色ね。お父様とお母様の間に青い目でハチミツ色の髪の子供が産まれるわけない。だからお母様に瞳と髪に色に合わせたの。」


「なんで黙ってたのさ?」


僕が恨みがましくそう聞くとエレナは悪びれることもなく答えた。


「黙っていたことは謝るわ。ごめんなさい。

でもオーランド家の娘としては孤児だったことがバレるとすごく困るのよ。

特に王子にバレちゃうといろいろとね。」


「それじゃあ、ここでバラしちゃまずいんじゃないの?」


「もう関係ないのよ。先日王様の前でバラしちゃったもの。

そのせいでアーサー王子との婚約も御破産ごはさん、せいせいしたわ」


姉さんは清々しい顔で言った。


「姉さんはそれで良かったの?」


僕が恐る恐る聞くと、エレナははっきりと答えた。




二人の会話を聞いていたリンが聞いた。


「それで、これからエレナ姉さんはどうするんですか?」


「その質問は、リンは私がいたらあなた達二人の邪魔になるって考えかしら?

残念だけどこれからは3人一緒よ」


リンは困った顔をしており、僕も驚いている。


「そんなつもりは...」


「冗談よ!ごめんなさい。

でも、私が一緒に行くのは冗談じゃなくほんとよ!

私は王国軍に囲まれているフリューを助けた。いまさら帰れる訳ないでしょ?

お尋ね者3人で仲良く行きましょ!」


そんな明るいエレナに

僕とリンは苦笑いするばかりだった...


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