第15話 自由都市ゴモラ

僕とリン、エレナの3人は1週間ぶりにゴモラの街に戻った。


狼男の木こりブランさんの話では、あの後、騎士団は指揮官が死んだことで、早々ゴモラを出て行ったそうだ。

信じられない話だが、この1週間で街はかなり復興しているらしい。


ゴモラの入り口には、いつもの衛兵が立っていた。

「おお!英雄様一行のお帰りだ!」


僕らにそう声をかける。

僕が通行料を払おうとするとそれを止められた。


「やめてくれ。街の英雄から通行料なんて取れねえよ。これからはアンタらは顔パスだ

さあ行ってくれ!」


そう言って門を通してくれた。


僕が街に騎士団を引き込んでしまった。


僕はその思いから申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


街に入ると火災の跡となってる家が幾つもあったが、通りには出店が並び不思議なほど活気があった。

エレナとリンには出店を見て回ってもらい、僕は一人この街の筆頭のところに向かった。


筆頭の屋敷は大通りに面していて、僕が尋ねるとそのままボスのところに通してくれた。

この街の筆頭顔役であるミゲーレの部屋に入ると僕は頭を下げた。


「この街に騎士団を引き込んでしまったのは僕が原因だ。責任は僕にある。」


僕が頭を下げ続けているとミゲーレは言った。


「顔をあげろ、調子に乗るなよ坊主!」


ミゲーレの一括に僕は恐る恐る顔をあげると、ミゲーレは言った。


「このゴモラを舐めるな!

お前ごときのせいでこの街がどうにかなると思ったか?

ここに来るまで道を見たろ?俺たちは何も変わっちゃいねえ!」


「だが、奴らは僕がいるから...」


僕が話そうとするのをミゲーレは制止して話を続けた。


「まあ聞け、坊主には知らなかったようだから教えてやる。

たまたま今回お前がいた時だったが、この街では数年に一度はこんな事はあるんだ。

このゴモラが兵隊が攻められるのなんて慣れっこなんだよ。」


ミゲーレは、これまで怒ったような態度から変わって自慢げに話し始めた。


「この街はなぁ、実質この王国で唯一の独立した自由貿易都市なのさ。

 魔王領に住む奴らは、何も野蛮人じゃなく文化的な生活もしているし、それぞれ地元の産業がある。

 このゴモラでは魔王領からも王国内からも人を受け入れて税金もかけずに商売しているのさ。

 それを王国は面白く思っていない。だから時々難癖をつけて兵隊が嫌がらせにくる。」


「それでも人が多く死んでるじゃないか。

亜人の難民キャンプも襲われた。」


僕が言うと、ミゲーレは山を指差しこう言った。

「あの鉱山跡地は、この街のシェルターになっているんだ。

 兵隊が近づいていることを街の奴らに伝え、ほとんどの街の奴らは逃げ込んでいた。

 まあ、多少の略奪はあるがそれは計算のうちよ。

 今回死んだ奴らのほとんどは、兵隊に恨みを持ち一矢報いるために抵抗した者たちだ。

 こう何度も責められればそういう奴らもいる。特に難民キャンプの移民たちは多く恨みを持っていた。だから殺された。

それをお前が責任を感じる必要はない」


ミゲーレは優しく言った。


「それでも逃げ遅れて犠牲になった奴はいる。

お前は体をはって守ってやっただろ?

あの天幕には連れ去られた女たちが集められていたんだ。

お前が親玉の首を刎ねた。おかげで奴らは退散した。それが結果だ。この街じゃ俺を含め誰もお前を恨んじゃいねえよ。」


「ありがとう。ミゲーレ」


僕は、ミゲーレの屋敷を離れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕はエレナとリンと合流して、亜人のキャンプに向かった。


そこは以前のようにテントが立て直され、さらに王国軍が置いて行ったテントも活用されているようだった。


「リンさん、フリューさん!」


向こうからララムが駆けてきた。


「良かった!みんな無事で!」

「ララムこそ無事でよかった!」

ララムとリンは抱き合って喜びあっていた。


「エレナさんもありがとうございました。」


ララムはエレナにも挨拶をした。


「エレナを知ってるの?」

僕が聞くとリリムが答えた。


「エレナさんには、あの後、多くの仲間が癒しの術で助けて貰ったんです。」


「そうだったんだ。それでララム、よく無事で、僕も嬉しいよ。」


僕がそう言うとララムはモジモジして話し始めた。


「実は私、あの時無事でも無かったんです...

私は兵隊に捕まってしまって、あの天幕に連れていかれました。

そこで恥ずかしいかっこにされ、野蛮な大男に奉仕させられる寸前だったんです。

その時フリューさんが助けにきてくれて、

だからフリューさんにはすごく感謝してるんです!」


ララムはそう言うと、顔を真っ赤にしていた。


「また女を落とすなんて天然タラシね」

「兄さんはいつもそうです」

エレナとリンで僕を白い目で見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


僕らは今晩泊まるため、宿屋天使の栖に行った。

宿屋は壊れた扉も元通りになっていて、中の食堂も盛況であった。


僕らが尋ねるとカウンターにいたグリンダが飛び出してきて僕に抱きついてきた。


「フリューーー!無事でよかった!!」


エレナとリンは横で僕を白い目で見ていた。


その晩、僕らは久しぶりに豪勢な食事をしながらお互いこれからの話をした。


「僕はまだ自分の責任に後ろめたい思いは残っているけれど、それでもこのゴモラの人たちに救われたんだ。

このゴモラという街が好きだけど、でも僕がいるとまた同じようなことが繰り返される。

だから、この街を出ることを決めた」

僕がそいうとリンは

「私は兄さんについて行く」

と言ってくれた。


「それじゃあ、次はどこに行こうかしらね?」

そうエレナは楽しそうにしていた。


王国で追われて逃げているのに、なんでそう楽しそうなんだろう?


「エレナも僕と来てくれるの?」


僕が聞くとエレナが驚いた顔をしていた。

僕が不思議そうにエレナを見てるとエレナは慌てて言った。


「なになに、私にも行くか行かないか聞いてるの?ここであなたと離れる気は無いわよ!?」


エレナは心外だとばかりに言った。


「あとこのパーティのリーダーはあなたよ、あなたが決めなさい。」


やれやれ


「僕に一つ考えがあるんだ。

 リリムたち獣人の一部が、これから魔王領に帰って村を復興させるって話していた。

 落ち着いたら、僕はその復興を手伝いたい。」


その案にリンは喜んだ

「私もララムを助けられるなら行ってみたい。私の友達と言えるのはララムだけだもの。」


「なかなか英雄らしい考えね。

その英雄らしい行いを続けていれば、きっと真の英雄になれるわ。」

エレナが、満足そうな顔をしてそう言った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る