第16話 聖都ユグドラシル
王城執務室にてアーサー=ローゼンブルク国王代行に宰相ロイサルが報告を行っていた。
アーサー王子は呆れていた。
「狂犬部隊が敗走して戻ってきたって?フリュー一人相手に数百人が退散してきたのか?」
サイロスはなんとも困ったように報告した。
「その件について追加情報があります。
どうやら、ゴモラを制圧後に兵たちが勝利の宴を開いていた最中に不意打ちにあい、騎士団長ドーベンが討ち取られたとの事です。
襲撃者は、そのまま逃走したと...」
「あのドーベンがか?あの素行ともかく、腕は確かだぞ。1対1でフリューに勝てるとは思わないが、100人超える兵がついてただろうに。」
「それが...ドーベンは捕まえた女を侍らせ甲冑を脱いでいたとか。
失って惜しい人物ではありませんが、あのはみ出し者を集めた部隊を従えるのには適任だったんですがね。」
サイロスはそう報告すると苦笑いをしていた。
「それよりも大事な話が...」
サイロスはそういうと周りの文官に聞かせないよう小声で話し始めた。
「どうやら兵に追い詰められたフリューを救ったのは、プラチナブロンドの神官服を着た女だったとか。」
「なんだと...
聖女エレナがフリューを助けただと?」
王子は思いもよらなかった報告に唖然とした。
「白馬に乗って城門を出るエレナ=オーランドが目撃されています。
ゴモラでフリューを助けた女も白馬に乗っておりました、それに輝く防御魔法で、魔法や矢を跳ね返されたとの報告ですので間違いないかと。」
「ラヴィーネに続いてエレナまでもか、忌々しい!」
「それよりも、行方をくらました国王と同時に居なくなった賢者ラヴィーネの対応に急を要します。
国王逃走に賢者が手を貸していることは明らかです。
一旦フリューのことは捨て置いてもよろしいかと。」
その提案に王子はニヤリと笑うと次の指示を出した。
「いや、フリューの討伐は勇者アイリスにやらせろ。部隊は狂犬部隊を付ける。
お目付役を近衛騎士団にやらせて今回の国王失踪の失態を償わせろ。」
「なるほど、厄介者を一掃すると...良い考えです。直ちに勇者指揮の元、討伐部隊を編成させます。」
「さて国王のことだが、謀略家と賢者の読み合いは五分五分というところか?
国王を支援する辺境諸国との街道は封鎖したのだろ?」
「姿を隠す賢者を捉えるのは容易ではありませんが、国王派の貴族は全て暗部機関に見張らせております。
行方を特定するのは時間の問題と思われます。
議会貴族に根回しし、この度の魔王討伐の英雄である王子への支持を取り付けています。
賢者であろうが巻き返しは難しいかと。」
「慢心するなよ、相手は賢者ラヴィーネだ。」
「かしこまりました。」
宰相サイロスは恭しく頭を下げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
辺境の田舎道を藁を積んだ荷馬車が走っていた。
その荷馬車の御者席には年配の農夫が座り、荷台にはこれまた高齢の男性と、町娘が乗っていた。
御者席の農夫は言った、
「ラヴィーネよ、この格好は逆に目立つのではないか?」
その問に町娘は答えた。
「あらフリードリヒ、その格好もお似合いよ。それにしてもあなたが御者ができるなんて驚きだわ。」
「まあワシも、若い頃はアーサーの様にお忍びで旅をしていたことがあったからな。
この国のことは隅々まで知っておるわ。
なあボッタス。」
呼びかけられ高齢の医師は答えた。
「フリードリヒ、いやあの頃はフリッツといったか?世直しの旅は楽しかったなぁ。
このフリッツはな、こう見えて剣の腕もなかなかだったぞ。私はそのパーティで
今は医学や薬事療法が専門だが、これでも多少の治癒魔法くらいは使える。」
「あら、剣士、治癒師、魔術師が集まったんだ。最高のパーティね。
それよりフリッツ、行く宛があると聞いたけどどこ向かってるのよ。」
「お前さん、ワシがサイロスの
サイロスが知らない最強の仲間がいるのさ。
なあボッタス。」
ボッタス医師は愉快そうに言った。
「3人目の我々の旅の仲間か?もう会うのは30年以上ぶりだな。
ラヴィーネ、お前さんも知っているんじゃないか?魔術師キルケを」
「なんですって?
あの引きこもり魔女キルケ?
彼女が手を貸してくれるとは思えないけど。」
「それはそれ、ワシには彼女との契約があるのよ。ワシに困ったことがあった時になんでも言うことを聞くってね。」
フリードリヒ王の話にボッタス医師は口を挟んだ。
「逆じゃよ逆、キルケに何かあったらフリッツが助けるって契約じゃろ?」
「まあそれでも助けてくれるだろうよ。ワシと彼女の仲だからな。」
こうして荷馬車は進んでいった。
途中、何度が関所を通ったが、私の認識阻害の魔法により難なく通過した。
認識阻害の魔法は注意力を低下させる程度の緩いものだが、それ故に広範囲に作用し、この変装でも警戒されることが無かった。
荷馬車の先には大きな森が迫っていた。
「おっと、確かこの辺だな。」
フリードリヒ王が、左腕にはめられた腕輪を掲げると、腕輪に青い光が灯り、森へと続く道が開かれた。
「この森には認識阻害の結界が張られおり、ここ腕輪は通行証がわりだ。」
荷馬車は、森の中を進んで行った。
森は整地などされていないが不思議と木々が馬車を避けるように生えていた。
森を抜けると巨大な大木が立っており、その麓に建物の明かりが見えた。
「あれが聖樹、ここが聖都ユグドラシルの街だ。」
フリードリヒ王はそう呟いた。
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