第17話 魔女キルケ

荷馬車が街に近づくにつれ、丘の上に腕を組み仁王立ちする人影が見えてきた。


その人影は小柄な女性でその肌は雪のように白く、肩までの翠玉エメラルド色の髪、特徴的な尖った耳。

見た目の歳は二十歳そこそこに見えるが、見た目からは歳は測れない。

彼女はエルフ族だからだ。


エルフ族の女は、荷馬車を見下ろして言った。


「懐かしい顔がお揃いのようね。

あなたたち私が隠遁生活してるって不義理が過ぎるんじゃないかしら?」


エルフの女は怒っているようだった。


「そう言うな、ワシも立場上おいそれと来れないことは分かるだろう。

ボッタスも私もお前のことを忘れたことなど一度もない。」


その言葉に、エルフの女は言った。

「フリッツ、私はあなた達と別れたあとも、ずっとあなたたちを心配していたの。

あなたには教えて無かったけど、その腕輪はね、盗聴器になってるのよ。」


「何だと!なんてことするんだ!」

その言葉にフリードリヒ国王は慌てて腕輪を外した。


「あんたが追い込まれたら助けようと思ったのよ。でも、その女が近くにいれば私の出番はないでしょ?」


そう言ってエルフの女は、ラヴィーネを睨んだ。

ラヴィーネはビクッと身構えて愛想笑いをしていた。


「おい!あんた私のことさっき引きこもり魔女って言ったでしょ?

だーれーが!引きこもり魔女よ。

ここで引きこもってるのは、あんたのせいでしょあんたの」


「なんだキルケ、ラヴィーネ、お主ら知り合いか?」

ボッタス医師が聞くとキルケは答えた。


「ラヴィーネ?この女の名前はメーデイア、私の妹よ。

この女がこの聖都をほっぽらかして出歩くから私がここにいるんじゃない。好きで引きこもっている訳じゃないわ。」


その時、それまで黙っていたラヴィーネが話し始めた。


「よくぞ見破ったわねキルケ姉さん、さすが私の姉。」

そう言って右手にはめていた指輪を外すと長い黒髪が翠玉エメラルド色に変わり、耳が伸びて尖り、キルケとよく似たエルフ族の容姿に変わった。


「これは驚いた、雰囲気はよく似てるかと思ったがまさか姉妹だったとは。」


フリードリヒが驚くと、キルケは呆れて言った。

「さすがは姉、じゃないわよ。俗世の賢者ラヴィーネが活躍した期間と、メーデイアが家出している期間が丸被りなんだからバカでも分かるわ...」


怒る姉に対して妹は飄々としていた。


「そんなに怒らないでよ。

私には私の使命があるの。遊んでた訳じゃないわ。

それに導き手としてフリードリヒは譲ったでしょ?立派な王になったから良いじゃない。

今度は私の番。」


妹が自由気ままなのはいつものことだった。


「まあいいでしょう。今回の王子らのクーデターのことは私もだいたい把握しているわ、ここは安全だから今後のことについてゆっくり考えましょう。」


キルケはそう言ってフリードリヒらを街に案内した。



ーーーーーーーーーーーーーーー



エレナとリンが寝静まった深夜、僕はゴモラを抜け出した。


ここまま僕が付いていっては迷惑がかかる。

僕らが逃げるためには、僕にはやらなければならないことがあった。


ゴモラの顔役ミゲーレが得た情報から、王都に帰還中であった王国軍が反転してゴモラに向かっていること。

そしてその指揮官として勇者アリシアが率いていること。

このことから、僕への討伐部隊であることは明らかであった。


そこで一団を大森林に引き込み、僕がゴモラを離れたことを相手に分からせること。


大森林の大木に登り眺めると遠くからの王国兵の一団が向かっているのが見える。

兵士たちは。長旅に疲れており、戦意は低く感じられた。

中央には王国の旗を掲げ馬に乗った騎士の一団がいる。


この距離では見えないが、その中央に勇者アイリスの存在が感じられた。

また彼女もここにいる僕の存在を見ていることがわかった。




私は胸のペンダントを握りしめてフリューを感じた。

このペンダントは、フリューと私が共に戦ったあかし。最後の彼との繋がりだった。


「勇者アイリス、大森林は迂回してゴモラに向かうべきかと思いますが。」


私の監視役として付けられた近衛騎士団長からそう進言される。

私だって出来ることなら迂回したい。

そう思いながら騎士団長に言った。


「あの大森林に反逆者フリューはいます。ゴモラに行くことは無意味でしょう。

私の意見を聞くならば、森に入るべきではないと思います。森に入れば多くの兵が失われますから。

騎士団長あなたならどうしますか?」


こんな逃げるようなことを言うのは指揮官として相応しくないが、意に沿わないフリューの討伐を命ぜられたのだ、このくらいの愚痴は許して欲しい。


それに言葉に嘘はなく私自身どうすべきか決めかねているのは事実であった。


「そうですなぁ。どうせ王都に戻ってもこの兵ら村々の略奪の責任を取らされるんです。

ここで多少死んでも反逆者を討ち取って手柄にすべきではないでしょうか?」


「多少で済めばいいけどね。逃げても私自身が責任を取らされるのだろ?

もう選ぶ道がないではないか...」


「そうですなぁ、そのまま進みましょう。」


「隊列を組んでそのまま大森林方向へ進め!」

そう騎士団長による指示が出された。









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