第92話 神の儀式

 アイリスは、ウルの元に駆けつけたところ、ウルはまだ苦しみながらも意識を保っていた。

「ごめんよ、あいつら火がついた建物から出てきたんだで油断した…」


「大丈夫だ、しっかりしろ!」


ーーーピキィーンーーー

 その時、周りを囲むように光の壁が現れ、教国の兵の前進が止まった。

 白馬に乗ったエレナがワンドを構え、防御障壁が展開していた。

 

 そこにフリューたちが駆けつけてきた。

「アイリス! 無事か?」

 

「私は大丈夫だが、イブリン様がダークエルフに連れ去られた……」


 

「こりゃあ、いかん!

 教国兵は頭が正気のまま身体を乗っ取られているのか?

 エレナと俺はこの兵たちをなんとかするぞ」

 ゴードン神父の指示にエレナはうなづいた。

「ここは私達に任せなさい。

 リンはウルの手当てを出来るわね?」


「分かりました。」

 リンは、アイリスが抱えていたウルを引き取ると手際よく治療を始めた。


「ラヴィーネ、アイリス、僕らはイブリンを追うよ。」


「わかったわ。

ーーーreothadhーーー」

 ラヴィーネが呪文を唱えると、燃えていた屋敷の火が消え、みるみる凍りついていった。


「さあ行くわよ」

 フリューたち3人はイブリンが消えた後を追った。


ーーーーーーーーーーーーー


 僕らは離れの屋敷を抜け神殿に入った。


「この先に大勢のダークエルフの気配を感じる... 女も子供もいるよ。

 弱者を殺せないアイリスの弱点を突いたんだろうね、ここは僕が相手をする。」


 僕の提案をアイリスは拒否した。


「これではいつまでも同じことの繰り返しだ。

 フリュー、これから私はお前の横を歩むために、私はあえて人道から離れることをしなければならない。

 もうお前に置いていかれるのはまっぴらごめんなんだよ。」


 アイリスはそう言うと先頭に立ち礼拝堂の扉を開いた。

 祭壇にはダークエルフの長老が立ち、その周りに100人以上のダークエルフが待ち構えていた。


「私は勇者アイリス!

 お前たちでは私たち3人の相手はつとまらない、そこを開けろ!」

 アイリスの警告に、老ダークエルフは答えた。

「はなから勝てるとは思っておらんよ。

 私らはテミス様が器を得るまで時が稼げればいい。

 ここにいる我が同胞は進んで女神の為に死ぬ覚悟をした者。」

 そう言うと、ダークエルフたちは魔力を集めて結界を張った。


「それで時間を稼いだつもり? みくびられたものだな」

 アイリスは、似合わない残忍な笑みを浮かべると、聖剣ライトブリンガーに力を集めていく。

 聖剣に集まる光の粒子は、目を向けられないほど光り輝いた。

 

「ちょっと! あなた加減を知らないの?」

 ラヴィーネは慌て僕と自身とを包み込む防御結界を張った。


「私は覚悟は出来ている。

 こんな神殿なんてどうなったっていいのよ!」

 アイリスはそう言いながら、光り輝く聖剣を上段に構えた。


「ハアッ!!」

 アイリスは気合いを入れ聖剣を振り下ろすと剣先から伸びた光の束が神殿の天井を貫き、祭壇にある双子の女神像ごと切り裂いた。

 祭壇上に居た長老とその周りにいた数人のダークエルフは姿形無く蒸発した。


「ここは私に任せて、フリューたちは先に行きなさい!」

 アイリスは、そう言うと切り掛かってきたダークエルフを躊躇なく切り捨てた。


「アイリスあんたの覚悟、よくわかったわ。

 フリュー行くわよ。」

 ラヴィーネはそう言うとアイリスが切り裂いた斬撃の跡を走った。


 アイリスは微笑みながら僕に手のひらを向けて片手を上げた。

 パチンッ

 僕はすれ違いざま、アイリスの手のひらを叩くとラヴィーネを追いかけた。


「さあ勇者に弱点があるとは思わないでね。

 死にたいなら殺してあげるわ。」

 アイリスの聖剣には再び光の粒子が集まってきていた。

 

ーーーーーーーーーーーー


 僕とラヴィーネが進んだ先には、祭壇の裏手に地下に通じる階段があり、その先から不穏な空気が流れ出ていた。


 僕ら階段を降りると、その先にはまた広い空間が現れた。

「地下神殿ってところかしらね。」

 ラヴィーネと僕は地下神殿を進んだ。


 その先に再び扉が現れ、僕は意識を集中して中の気配を探った。

「この先にイブリンがいるよ。

 それと神々しいオーラが……」


「アマティアラ、女神テミスの化身ね。

 いいフリュー、これから私がいうことを聞いて。

 あなたが大司教から受け取った本に書いてあったのは、神による精神支配だけじゃなかったの。

 この先で行われているのは、新たな依代への神の降臨の儀式よ。

 私に考えがあるから、私を信じていう通りにして、わかった?」


 僕が頷くと、ラヴィーネは僕に指示を与えた。

 それは僕には素直にきける事ではなかったけれど、ラヴィーネの言葉を信じる事にした。


「いいわね、少しの間あなたと離れ離れになるけど、私は絶対にあなたの元に帰ってくる。

 私を信じなさい。」

 ラヴィーネはそういうと、不意打ちに僕に口付けをした。


 僕が呆然としていると、ラヴィーネは笑って呟いた。

「あなたは隙だらけね」


 

 僕らが扉を開けると再び広い空間が現れた。

 その先には小高い祭壇があり、その上に寝かされたイブリンと、イブリンの胸に手を当てて目を瞑り祈っているアマティアラがいた。


 アマティアラは目を開くとラヴィーネを見て少し驚いた顔をした。

「賢者ラヴィーネ、あなた生きていたのね?

 それもそこの英雄と一緒に、どうやら神である私を騙していたようね。」


「女神テミスと呼んだ方がいいかしら?

 あなたはミース教の信者全てを欺いていたのでしょ? 

 お互い様じゃないかしら?」


「この魔王の娘を助けに来たのか? もう儀式は終わっているもう遅いわ」

 アマティアラは、年老いた顔をさらに醜く歪めた。


「その器を殺したところで、あなたは消滅しないでしょうけど、それでも再び力を取り戻すのには長い時間がかかるでしょ?

 私たちは魔王を助けたい、あなたは長寿で新鮮な器が欲しい、そこで提案があるの。

 私のこの身体をあげるから魔王を返してくれない?」


 ラヴィーネはアマティアラの目を見てそう言った。

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