第51話 決着
「戦いをやめろ! 王国は負けた、武器を捨てるんだ!」
エルゼベイトが死んだ直後、王国軍の指揮官たちは呪縛を解かれ、今まで自分が行っていた行為に呆然としていた。
王国軍は、全面降伏という形で王都は連合軍に占拠された。
エルゼベイトが死亡した地には、僕たちとキルケら魔術師団の他、城を占拠したアウグストとリンら一団、北方から突入した魔将ラミアらが集合していた。
そこから、ヴァンパイアロードが率いる『ルクトヴァニア』の艦隊が、水平線の向こうに消えて行くのが見えた。
その光景を見てラミアが言った。
「ルクトヴァニアはここから北西にある海峡を挟んでさらに西にあり、元々この王国を攻め入る戦略的な利点はありません。
餌場として期待していたのでしょうけど、退ける力を見せた今、国境を接していないこの王国に危険はありません。
ただし、それは我が魔王国ファーレーンが間にあるからです。
ファーレーンがルクトヴァニアに侵略された場合には、直接国境を接することになるのを忘れないでください。」
ラミアの言葉にアウグストが同意した。
「それは肝に命じておくよ。
ヴァンパイアどもの狙いは、魔王国ファーレーンとローゼンブルク王国の衰退だろ? 我々が争っている場合じゃないことは心得ているさ。
王国の体制が整ったら、正式に国交、いや同盟を結びたいと考えている。
もう少し時間が欲しい、人手も足りないしな。」
「ああ、それなら私に良い案があります。
我が国から大使を派遣するので、人手の足しにして下さい。」
「それは良い考えだな、優秀な大使を頼むよ。」
「はいあの者です。」
ラミアが指差した先には、ラヴィーネがいた。
「我が魔王四天王が一人、大賢者ラヴィーネ様を我が国の大使として派遣します。」
突然指名されてラヴィーネは、唖然とした。
「その設定まだ生きてたの?
まあ国の立て直しには手伝うつもりだったけど、長い間はだめよ、抜け駆けする奴がいるから。」
そう言ってラヴィーネはエレナを見た。
「あらあら大賢者様は人気ね? 私たちののことは心配なさらず、ゆっーくりと王国の立て直しを頑張ってくださいね。」
エレナの煽りにラヴィーネは言った。
「魔将ラミア。 私一人では力不足です。
聖女エレナの派遣もお願いします...
いや待って!
王国に立て直しには英雄フリューの派遣をお願いします。エレナはやっぱり要りません。」
「ちょっとあんた何言っちゃってるのよ!」
エレナとラヴィーネの争いにリンとウルは呆れていた。
「姉さんたちは、平常営業ね。」
「おいらも、もう慣れたよ。」
その時、岬の方向から、勇者アイリスと魔王イブリンが手を繋ぎながら、こちらに向かって歩いてきた。
「なぜ姫さまがこの地に?」
それを見たラミアが、首を傾げながらイブリンの元に走って行った。
アイリスは、別れた時と変わらず、感情の無い人形のような表情をしていた。
「イブリン、助けてくれてありがとう。」
僕が礼を言うとイブリンは首を振った。
「ううん、違うの、私は何もしていない。
アイリスがこの場所に行きたいと願ったから私が連れてきただけ。
アイリスはまだ何も話せないけど、私にはアイリスの願いが、時々聞こえるようになったの。
だから、助けたのは私じゃ無いのよ。」
「じゃあ、あの攻撃はイブリンの命令でやったことではないのね?」
ラヴィーネの問いにイブリンはうなづいた。
アイリスの右手には聖剣ライトブリンガーが握られていた。
「僕はアイリスを救出したあと、その聖剣は海に投げ捨てたのになぜ?」
「フリューはアイリスが危険視されないように聖剣を捨てたのでしょうけど、聖剣は勇者の一部なの。
精霊の剣があなたの一部なのと同じよ。
だから宝物庫とかにしまっておいても無駄、危険な武器でも持たせておくしかないわ。」
そうラヴィーネが説明した。
「だから言ったでしょ。すぐによくなるわって! アイリスには私が付いているから大丈夫、心配しないで。」
イブリンは僕にそう語りかけた。
「イブリン、改めてよろしく頼む。 僕らの大切な仲間アイリスを君に託させてもらう、その代わり僕は君の力になるよ。」
アイリスの表情には何の感情も感じられないが、以前より穏やかな表情に見えた。
そこでラミアから話しかけられた。
「そのことについてお願いがあります。
姫さまの四天王であるフリューと、エレナには、魔王国内、いや、この大陸に巣くうヴァンパイアを狩っていただきたい。
ドラゴンスレイヤーとヴァンパイアスレイヤーのコンビなら簡単な仕事だと思います。
姫さまへの恩返しにもなりますし、一石二鳥ではありませんか?
あと、うちのウルもオマケで付けましょう。」
「そりゃあフリューと旅をするのは異論は無いけど、その『ヴァンパイアスレイヤー』って二つ名はなんとかならないかしら?
とても恥ずかしいのだけど。」
「それについてはあなたのジョブだと聞いております。 正しく相応しい呼び方だと...」
ラミアの回答にエレナは肩を落とした。
「まあ、僕も異論はないよ。
放っておいて良い存在じゃ無いしね。」
そこでリンが口を挟んだ。
「じゃあ私も行きます!」
「ちょっと待ちなさいリン! あなたは私が使うの。
王国には諜報活動が出来る貴重な人材を遊ばせておく余裕はないのよ。
あなたの能力はバレているわ、いつまでも猫をかぶって妹キャラを演じるのもいい加減にしなさいよ。」
ラヴィーネは、リンの襟首を掴んでそう言った。
「ううう...」
リンは涙目でラヴィーネを見た。
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