第50話 決戦の地で

「流石にまずいわね。

 予想はしていたけど、このほどの規模だとは思わなかったわ。」


 ラヴィーネは、王城南側の海岸線に立っていた。

 沖には無数の幽霊船ゴーストシップが向かってきている。

 その幽霊船を取り巻く黒い霧のようなものは、全てヴァンパイアの群れだった。

 幽霊船から大砲の射撃が開始され、王都内の居住地区から火の手が上がっていた。


 ラヴィーネは、防御結界を張り大砲による攻撃を食い止めてたが、砲撃が増し、さらにヴァンパイアの先行部隊が接近してくるのが見え、いった。


「これは...中々キツイわね。」

 ラヴィーネは必死に防御に集中するも、冷や汗をかきはじめた。

「さあ、ここからが勝負よ!」

 ラヴィーネが気合いを入れると、左手にはめていた指輪が魔力の出力に耐えられずに割れ、その黒髪は翠玉エメラルド色に変わり魔力の放出に合わせ輝き始めた。


 ラヴィーネは左手を高く掲げて、防御結界を維持したまま右手に持った杖を突き出す。


『-Roar an tàirneanachー』!!

ラヴィーネの呪文と共に杖の先から雷光が迸り、近づいていたヴァンパイアたちを一掃していった。




 その時、王都を守っていた防御結界が突然厚みを増した。


「よく耐えたわねメーデイア! 加勢するわよ。」

「キルケ姉さん!」

 その場にキルケ率いる魔術師団が応援に駆けつけ、近づくヴァンパイアを撃ち落として行く。


それを見ていたエルゼベエトの目つきが変わった。


「何をもたもたしているの? 先にあちらを片付けるわよ!」

 エルゼベエトはそう言うと、大きな羽を生やし、窓からラヴィーネたちの方へ飛び立った。

 追いかけようとした僕に前には、ヴァンパイアが立ち塞る。


「邪魔だ!」

僕は、何体ものヴァンパイアを殺したが、次から次に窓からヴァンパイアが入ってくる。


その時、

「待たせたわね!」

その声とともに無数に光の矢が王の間を駆けめぐり、ヴァンパイアを焼いていく。

 さらに、飛び込んできたウルが僕の前のヴァンパイアを切り裂いていった。


「姉ちゃん、2回戦目は負けねえ。 どっちが多く殺せるか勝負だ!」

そう言ってウルはヴァンパイアの群れに突っ込んで行った。


「フリューあなたは魔女を追いなさい!」

エレナはそういうと、僕に多重の支援魔法を重ねがけしていく


体力回復

移動速度向上

反応速度向上

防御力向上

攻撃力向上


「ありがとうエレナ!」

僕は強化された力で、王城の窓から飛び出した。


 僕は、王城の周りに飛んでいたは無数のヴァンパイアの位置を正確に把握し、飛んでいるヴァンパイアを踏み台にして宙を駆けていく。


「見なさいウル! あれが私の英雄に力よ!

 私との愛の結晶の力で空を飛んでいるわ!!」


ウルは呆れて言った。

「ほんと、姉ちゃんってアレだよね...」



 僕が追いついた先では、ラヴィーネとエルゼベエトが接近戦を繰り広げていた。

 エルゼべエトは飛び回りながら黒い雷撃を放ち、ラヴィーネはそれを防御魔法を防ぎながらも反撃を繰り出していた。


 両者の高速の戦闘により、周りは近づけなかったが、僕はそこに割って入った。

 

「魔女の相手は僕がやる! ラヴィーネは幽霊船を抑えて!」


「分かったわ。 

 と言っても分が悪いわね。

 何隻沈めても焼石に水だわ。」


 幽霊船の船団はもう間近に迫って来ていた。

 相手は数千匹のヴァンパイア、それに対して僕らの戦力は、もう二十数名しか残っていなかった。


 僕の前の高台に、魔女エルゼベエトが降り立ち、その赤い瞳で見下ろした。

「その絶望の目が見たかったのよ。

 ここまで来ただけすごいけど...

 でも、もう諦めなさい。そして後悔しなさい。

 あなたの大切な女たちはここで死ぬわ。

 あなたは絶望の中、私のおもちゃになるのよ。」


「誰が、誰がそんなことを望むか!

 僕は諦めない、絶対にお前を殺す」

その時僕は暗殺者としてのスイッチが入った。

 沸騰していた気持ちは冷めていき、目は魔女の指先までの動きに集中した。

「差し違えても殺す...」


 

 その時だった、

 海を見下ろす岬の先端に、薄い水色のドレスを着た少女と、その子と手を繋ぐ白いドレスを着た赤い髪の女性が立っていた。


 あれは、イブリンとアイリス?

 勇者と魔王が手を取り合って、戦場を見下ろしていた。

 イブリンの顔はいつもの様ににこやかであり、アイリスの目は以前として光は無いが、その表情は凛々しく、以前の勇者の顔だった。


 勇者アイリスは、右手を前に突き出すと、そこに激しい光の粒子が渦が集まっていく。

 光の粒子は、アイリスに手から伸びていき剣を形作った。

 アイリスの手には『聖剣ライトブリンガー』が握られていた。


 光はさらに集中し聖剣を包む。


ビシュン!


 剣先から一条の光が放たれ、幽霊船の船団を駆け巡りった。

 光線が通った後には激しい爆発が起こり、その一撃により数十隻に幽霊船が爆発炎上していった。

 


 船団の最後尾に、他の船と違い黒を基調としながらも煌びやかな帆船があった。

 この船団の旗艦であり、ロードが乗船していた。

 王は、見た目は美しい青年であり、その顔は青白く、そして冷たい目をしていた。


 「ロードよ、思った以上に被害が出ておりますがいかがいたしましょう。」

お付きの老執事に問われた王は答えた。


「あの女の誘いに乗ってここまで来たが、これ以上の被害は割に合わん。

 餌場の収穫など次でよい、あと10年でも100年先でも、我々には時間はあるのだから。

 それよりも今代の勇者は魔王と手を組んだのか? なかなかやるではないか?」


「いや王よ。ここに導いたのは勇者ではなく、英雄と呼ばれる少年だと聞いております。

 あの精霊の剣を使いこなしていたと。」


「それはなかなか興味深い。私も会ってみたいものだ。

 今度機会があったら我が城に招こうではないか。これは楽しみが出来た。

 さあ爺、我々は撤退する。」


吸血鬼の王ヴァンパイアロードはそう言って船室に降りて行った。


 勇者による一撃の後、幽霊船ゴーストシップの船団が突然停止した。

 そして反転して向きを変えていく。

 浜辺まで来ていたヴァンパイアたちも船団の動きに合わせて引き上げて行った。


 その状況を見て魔女エルゼベエトは、呆然とした。

 今まで幾人もの者たちを破滅に導いてきた自分が、破滅に向かっている。

 他人の絶望を欲した自分が絶望していることが何故か滑稽に見えた。


「ははっ、ははははっ、、、」


「あの女は何を笑ってやがるんだ?」

「さあ?」

騎士団を突破して、リンの導きでたどり着いたアウグストは、大船団が離れていく光景と、岸辺で魔女が笑っているのを見て状況が理解出来なかった。


僕は一人エルゼベエトに近づいて行く。


「もう決着を付けよう。」

 僕は、シャドウブリンガーを構えて切り込んで行った。

 エルゼベエトは髪をメデューサの蛇に変えて応戦してきたが、僕のシャドウブリンガーは易々と蛇を切り裂いていった。


「なぜ? さっきまで切れなかったものが何故切れる?」


「いや僕が強くなったんじゃない。

 あんたが弱くなったんだよエルゼベエト。

 あの太陽を隠していた力はあなたのものじゃ無いよね?」


 皆既日食が終わるように、太陽を覆っていた黒い陰は徐々にかけて行く。


 王の間に日差しが差し込み、繭に光が当たるとその部分から燃え上がっていった。

 エルゼベエトが王城を見た時、繭があった塔から火の手が上がっているのが見えた。


「ああ...私の子供たちが...よくも私の子供達を…」

エルゼベエトの周囲から黒い霧が現れるとそれが渦となり、周りのものを吸い込んでいった。

 エルゼベエトの周囲にいたヴァンパイアたちは黒い霧となって吸い込まれ、その渦は徐々に大きくなっていった。


ラヴィーネは焦っていた。

「あれは魔力の暴走よ。 

 離れて! 魔力量が多い高位の魔術師が暴走を引き起こすと周囲の魔力を吸い込みやがて爆発するわよ。」

 

『大丈夫』

僕の頭の中に誰かが語りかけた。


「わかった、やるよ!」

 僕は、魔力の渦めがけ駆けていくと、精霊の剣を構えその渦めがけて飛んだ。


ビシュン!


 その瞬間、岬の上にいたアイリスから再び聖剣の光が放たれ、黒い渦を貫いて渦を蹴散らした。

 渦の中心には目は赤く光る魔女エルゼベエトがいた。

「みんな死ねばいい。」

エルゼベエトは一旦霧散した魔力の霧を再び集めようとしたが、僕はその懐に踏み込みんだ。


ブシュー!


 僕がシャドウブリンガーでエルゼベエトの胸を貫くと、その背中からは黒い霧が吹き出す。

 その霧が完全に消えた時、エルゼベエトは絶命した。

 エルゼベエトの遺体は、太陽光に照らされた部分から灰になり消えていった。



「終わったのか?」

「終わったみたいですねぇ。」

アウグストとリンは呟いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る