第116話 勇者・賢者 VS 人工勇者

 エスメラルダ二世号からの魔導砲による攻撃は、魔力を充填する時間のため散発的なものであった。


「船長、今回は上陸しないで良かったんですか?」

 マーカス副長に聞かれたアリタリアは不貞腐れていた。

「この船に勇者が乗っているように振る舞って欲しいんですって」


「まあ確かにそんなことは船長にしか出来ませんから仕方ないですね。

 勇者のようなってどうするんです?」


「そうね……じゃああれでも落として見せようかしら?」

 アリタリアはそう言って砦を飛び立った飛竜を指差した。


「結構距離ありますよ。

 あんな速ければ魔導砲でも狙えませんし。」


「任せなさい」

 アリタリアはそう言うと、後部甲板上には船倉にあった大型弩砲バリスタが置かれていた。

「いつのまに?

 ところでそんな物で当てられるんですか?」


「まあ見てなさいって!」

 アリタリアはそう言って巨大な矢をつがえると、バリスタを発射した。


 バリスタから放たれた矢は途中まで放物線を描いていたが、アリタリアが手に持ったワンドを矢の方向へ向けると、重力に反して高く登って行った。


 竜騎士は、その矢が向かってくることに気づいて回避したところ、矢が直前に向きを変えて飛竜の翼を貫いた。


「命中!」

「風魔法ですか? こりゃあ器用に魔法を使う船長にピッタリですね。」


「どうせ私の魔法は器用貧乏よ。」


「いや私は褒めているんですが……?」



 突然上空から飛竜が落ちてきたのを見て、ヴァシリーが笑った。

「自分たちだけ逃げようとするからだ。

 勇者たちが上陸する前に突破するぞ!」


 そう言うヴァシリーに人工勇者ツヴォルフが言った。

「俺たちを勇者と戦わせてくれよ、その為に連れてきたんだろ?」

 その発言に他の人工勇者たちもうなづいていた。


 ヴァシリーが言うことを聞かない人工勇者にうんざりした目を向けると、リーダーのアインがツヴォルフに言った。

「僕たちの出番はまだ先だ。

 必ず勇者は僕たちを追ってくる、その時に力を示せ。」


「アインがそう言うなら仕方がねえけど...」

 アインの命令にツヴォルフは嫌々ながら従った。


「良い判断だツヴォルフ、これから門を開ける防御結界を展開して攻撃に備えろ。

 すでに勇者たちが上陸して潜んでいるかもしれないぞ。」

 アインの命令で、人工勇者たちは体制を整えた。


 アインはヴァシリーが乗る馬の下に来ると小声で言った。

「ヴァシリー様、先ほどからの砲撃が勇者によるものとは思えません。

 勇者はすでにどこかに潜伏しているかと。」


「そうであればお前たちには好都合だろ?

 私が聞いている報告どおりなら、お前たち2人いれば勇者に勝てる、4人いれば賢者をも超えるのだろ?

 それが8人いるのだから、負けるはずが無いはずだ。」

 人工勇者の能力については、ヴァシリーは懐疑的であったがここでは頼らざる得なかった。


 しかし、研究者が語る能力については、アインが1番不信感を持っていた。

 人工勇者の能力については、遠距離攻撃力、接近戦での力、防御力、それら全てが研究者が想定した勇者の力の3分の2と計算されていたが、それらは各個体の特化した能力の数値であった。

(そもそも誰が勇者の力を測ったというのだ?)

 

 アインは、精神感応能力に特化した個体として、リーダーを務めていた。

 つまりは各人工勇者を魅了し従わせており、攻撃力も防御力も特出するものが無かった故に警戒心が強かった。



「全軍、進行せよ!」

 ヴァシリーが号令により、ゆっくりと北門が開かれて行った。

 

ーーービジュン!ーーー


 途中まで開いたところで、その瞬間光の束が分厚い北門の門扉を貫いた。

 本隊の中心部は、人工勇者の防御結界で防いだが、結界の範囲を超えた者たちはその衝撃波により散り散りに吹き飛んでいった。


 北門に通じている街道のはるか先に2人の人影が見えた。


 一人は巨大な大剣を構えており、その大剣の刀身は真っ赤に輝いていた。


「ラヴィーネ、どうやら連発は無理そうです。」


「仕方ないわね。」

 そう言ってラヴィーネはアイリスの大剣にワンドを向け、氷魔法で赤く熱せられた刀身を冷やした。


「それで戦えるでしょ? 刀身が持たないから連発はダメよ。」


「了解、突貫します!」

 アイリスは、大剣を構え直すと北門めがけて走り出した。



 その状況に呆然としていたヴァシリーが我に返って言った。

「な、なにをしている。 お前たちの出番だろ? 早く勇者を何とかしろ?!」


 アインは、人工勇者たちに指示を出す。

「僕を中心に密集形態だ。 ドライとフュンフは防御結界に集中して。

 他の者は防御結界から出るなよ。

 勇者の攻撃は防御に徹して、なんとか後ろの賢者との接近戦に持ち込むんだ。」


 人工勇者たちはアインの命令で体制を立て直していった。


 駆けてくるアイリスとの距離が縮まり、武器を持った4人が2人づつ左右に散会した。

「フィア、勇者を近距離魔法で牽制するんだ。」


「アイン、殺しちゃっても良いんだよね?」

 アインから指示を受けたフィアは、持っていたワンドから巨大な火の玉を放った。


 アイリスは、方向を変えて右方に散った2人に向かった。


「逃がさないわよ」

 フィアは、魔力を操作して火の玉を方向を変えたが、火の玉はアイリスにぶつかる寸前に更に方向を変えて、人工勇者の一人に直撃した。


ボッワッ!

人工勇者は消えない炎に焼かれていく。


「何してるんだフィア!」

 アインに叱責させたフィアは狼狽えていた。

「……私じゃないわ」


 その時ラヴィーネはその光景にほくそ笑んで見ていた。


 アイリスは燃え盛る人工勇者を斬り捨てると、もう一人と対峙した。

「ラヴィーネ、2人そっちに向かいましたが加勢は必要ですか?」


「必要ないわ」

 ラヴィーネはそう言うと呪文を唱えた。


「ーーà sealladh agus a 'gluasadーー」

 その瞬間、ラヴィーネの姿が霧となって消え、またはるか後方に現れた。


 アインは、1人倒されたことに焦りを感じていた。

「ツヴォルフ、ゼクス! 賢者は無視して3人がかりで勇者を仕留めろ! フィア、賢者に攻撃して牽制しろ。

 防御結界はドライ1枚でいい、フュンフは前衛3人を援護するんだ!」


 ラヴィーネは、フィアの攻撃を防御しながら呟いた。

「あら、防御結界を1枚にして良いのかしら?

ーーuisge tàirneanaichーー」


ーーーバリバリバリ!ーーーー

 ラヴィーネの呪文と共に、帝国軍の陣地に雷撃が落ちた。

 一部はアインを中心とした防御結界に守られていたが、その周りの帝国兵は雷に撃たれて倒れていった。


 

 


 

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