第117話 悪魔召喚

「何をやってるんだ!」

 後方にいた作戦参謀ヴァシリーは焦りを感じていた。

「お前たちは勇者の3分の2の力を持っているというのに8人いて歯が立たないだと。

 全く連携が取れていないじゃないか!」

 

 ヴァシリーの怒りに横で控えていた、研究員が震え上がっていた。

「恐れながら……、私たちは戦術までは」


「人工勇者の育成を研究者などに任せていたのが間違いなのだ。

 魔法師団を前に出せ、敵は2人だけだ多少の犠牲はかまわん、強行突破しろ!」



 ヴァシリーの指揮で、全軍が前身を開始した。

 帝国軍の兵は北門を出ると、魔法師団が前方に防御結界を展開してアインたちを掻き分けて前進した。


 アインは自分たちを無視して全軍が進んでいくことに混乱した。


「何をやっているんだ? ここは僕らが任されていたんだぞ! 止まれ、止まれ……止まれ!!」

 アインは、精神干渉波を放って兵を強制的に停止させた。


「はぁ、はぁ、はぁ、、、」


 肩で息をするアインにフィアが話しかけた。

「アイン、このままじゃやられちゃうよ?」



 その時、海上から光の束が帝国軍に放たれた。

ーーービシュン!ーーーー


 エスメラルダ二世号の魔導砲が無防備の帝国軍を側方から薙ぎ払った。


「きゃあっ」

 フィアが悲鳴をあげ、アインはうずくまる。

 本体に中央にいたアインとフィアは、ドライの防御結界に守られてかろうじて無事であったが、魔導砲の熱線は帝国軍の3分の1を焼き払った。


「……僕は悪くない...僕は悪くない...」

 アインは惨状を目にして頭を抱えて疼くまっていた。


「……アイン? あなたが指示を出してくれないと私たち死んじゃうんだよ?」


 フィアは、うずくまるアインの肩を揺り強引に顔を上げさせたが、アインの顔を見て息を飲んだ……

 アインの顔には深い皺が刻まれ、老人の顔となっていた。


「……フィア? そこにいるの?

 何も見えないし何も聞こえないよ……

 ここは真っ暗だよ、誰か僕を助けてよ…」


 そう言うアインの目からは血の涙が滴り落ち地面を濡らした。

 アインから流れ落ちた血に涙は足元の地面に吸い込まれ、そこから地面に亀裂が入り黒い霧が吹き出してきた。


 ブシューー

 

「ひぃ!」

 フィアは急いで飛び退きアインから離れたが、アインの足元の裂け目は深くなり、たち登る黒い霧は増えていった。

 そしてアインは徐々に地中に飲み込まれていった。


「なんなのあれは?」

 ラヴィーネも理解できない状況にただ呆然と見ており、3対1で戦っていた人工勇者とアイリスも、お互いの攻撃を中止してその黒い霧から離れた。



 突然地面の裂け目は大きく広がり、そこから獣のような巨大な腕が現れ、鋭い爪が裂け目を掴んだ。


「何かが這い出てくる……」

 ラヴィーネは、アイリス元に駆けつけて防御結界を展開する。


『グオォーーーー』


 地中から不気味な雄叫びが上がり、雄牛のような角が現れたかと思うと、山羊のような見た目のドス黒い顔が這い出してきた。


 その身の丈は人の5倍ほどあり、背中には真っ黒な猛禽類のような翼、獣のような太い足に鋭い鉤爪を持っていた。


「……なんですか、あれは?」

 アイリスの問いにラヴィーネは息をのんで答えた。

「あれは悪魔デーモン、しかも上位種のアークデーモンよ……

 偽勇者の精神が崩壊して悪魔を呼び寄せたんだわ」



 アークデーモンは海上を向くと、くわっと口を開き、そこに光が集まっていった。


「ダメッ!」

 ラヴィーネが何も出来ないまま、アークデーモンの口から光線が放たれた。


ーーービシュン!ーーー


 アークデーモンから放たれた燃え盛る光の束は、アリタリアの防御結界を貫通してエスメラルダ二世号の船体を貫き炎上した。

 船は、真ん中から真っ二つに折れて沈んでいった。


「アリタリア!」

 アイリスがアークデーモンに向け駆け出そうとしたところをラヴィーネが引き留めた。


「待って! あの攻撃は防御結界じゃ防げない、一旦距離をとって!」


「しかし!」


 アークデーモンはアイリスの方を向くと、いまだに炎が燻る口が開かれ2発目が放たれた。


ーーービシュン!ーーー


 アイリスは飛び退き、放たれた光線の一部はラビィーネの防御結界で逸らしたが、余波を受け止めたアイリスの大剣が、半分から溶けて落ちた。


「その剣じゃ無理よ! 一旦引くわよ!」

 ラヴィーネはそう言うと、アイリスを自らのローブに包んだ。


「ーーà sealladh agus a 'gluasadーー」

 呪文を唱えるとラヴィーネとアイリスは霧となって消え、そして離れた丘の上に瞬間移動した。



 ヴァシリーは高笑いしていた。


「ははははっ、デーモンが加勢に来てくれたのか、悪魔など信用出来なかったがなかなかやるではないか」


 アークデーモンは、その声を聞きゆっくりとヴァシリーの方を振り向いた。


『我 を 呼んだ の は、 お前 か?』


 その声は音で無く、ヴァシリーの心に響いた。


「おおデーモンよ! そう、私がお前を呼び出した。 私の命令に従い魔王国を滅ぼしてくれ!」


『なぜ お前が 我に 命令 を? 』


「は? 私がお前の契約者だ、悪魔は契約に従うものだろ」


『世界を 滅ぼす の は、 構わん。

 だ が、 何故

 お前 を 生かして おく と 思った か?』


 ヴァシリーはその意味を理解して我に返った。


(何故私は悪魔を支配できると思ったのか?)


 ヴァシリーはそれまでの高揚していた感覚は、突如絶望に変わった。


 ヴァシリーは、我にかえると馬に鞭を入れて逃げ出した。


「悪魔は味方ではない! 殺すんだ!」


 突然のヴァシリーの命令に兵たちは混乱していたが、我にかえった者が弓や魔法等で攻撃を始めた。

 しかし、それらの攻撃にアークデーモンは傷一つ負わせることは出来なかった。


 アークデーモンは逃げていくヴァシリーを殺そうと再び口を開き、そこに光が集まっていく。

 

 まさに熱線を放とうとしたその時、アークデーモンの背後から巨大な火の玉が迫りその翼が燃え盛った。


ーーーボワンッ!ーーー


「アインの仇よ!」

 そこにはフィアがワンドを構えていた。


 アークデーモンは翼を一度羽ばたかせると、燃えていた火は消えた。

 アークデーモンは、その冷たい目でフィアとそれを守るドライを見つめた。





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