第118話 贄
『我 の 贄 となれ』
アークデーモンが、その目で見つめると人工勇者のフィアとドライは動けなくなった。
(これはアインの力……?)
フィアには、アークデーモンがアインの精神感応能力を取り込んでいることが分かった。
アークデーモンはドライの防御結界を何も無かったかのように破ると、中にいたフィアとドライを両の手で掴み上げた。
「ひぃ……」
怯えるドライの顔にアークデーモンの開いた口が迫り、そのまま頭からかぶりついた。
グシャグシャ
その咀嚼音を聞いてもフィアは何も感じ無かった。
ドライを喰らいつくすとフィアを見下ろした。
(ああっ、アインと一つになれる)
そしてアークデーモンはフィアを喰らった……
「なんてやつなの?」
遠方の丘で遠見の魔法で見ていたラヴィーネが呟いた。
アイリスは戦いでいつになく恐怖を感じていた。
「あれは危険です。 魔王以上の強敵です。」
「それはそうでしょう。 地に落ちたとはいえ神にも近い存在よ。
ほら見て、防御魔法と火炎魔法を使っている、今食べた偽勇者の力を取り入れたんだわ。」
帝国兵の魔法や矢の攻撃は、アークデーモンに届く前に防御結界に防がれ、兵たちはアークデーモンの手のひらから放たれる火の玉で焼かれていった。
「防ぐ必要もないのに、取り入れた力を試すほどには知恵はあるようね。」
「ラヴィーネ、こころなしかあのアークデーモンは先ほどより大きくなっていませんか?」
「精霊核の力を取り入れて成長しているんだわ。
アークデーモンが過去に現れたのは今から約1000年前、その時にエルフのほとんどが死んだと伝えられているわ。
アークデーモンは命を喰らって成長する、特に強い精霊の命を」
ラヴィーネは、種族の危機を感じていた。
残った人工勇者たちは、防御結界を張ってアークデーモンに対峙していた。
「目を合わすな、心を開くと取り込まれるぞ!」
そう言ってツヴォルフが3人に指示した。
「ツヴォルフ、フュンフ、フィアツェーン、ゼクス僕の指示に従うんだ。」
アインの声にヒュンフは顔を上げてしまった。
その瞬間、防御結界は消え去っていく。
フュンフ以外の3人は後方に逃げたが、フュンフはぼうっとしたままその場で立ち尽くしていた。
アークデーモンは、ヒュンフを掴み上げると頭から食べ始めた。
「ふざけるな!」
ツヴォルフは素早い動きで間をつめハルバートを掲げてアークデーモンに斬りかかった。
その動きはアークデーモンより速く、ツヴォルフは背後に回り込み背中の翼を斬りつける。
しかしその攻撃は二枚となった防御障壁に阻まれツヴォルフは弾け飛ばされた。
アークデーモンは体制を崩したツヴォルフの足を捉えて釣り上げた。
「くそ!くそ!くそ!餌になってたまるか!」
ツヴィルフが暴れてハルバートを振るうがアークデーモンには傷一つ付けられず、アークデーモンはハルバートを持った手を掴むとそのまま引きちぎった。
「……うぎぁあ!」
アークデーモンは高々とツヴォルフを釣り上げると大きな口を真上に開き、一口で飲み込もうとした。
その時
ーーードガァン!!ーーー
『誰 だ?』
アークデーモンが振り向くと離れた丘の上にワンドを構えたラヴィーネがおり、その前をアイリスが全速で走っていた。
『邪魔を す る のか?』
アークデーモンの開いた口に魔力が光となって集まっていく。
「すまないフリュー!」
かけるアイリスの右手のひらにも光の粒子が集まっていった。
アイリスは聖剣ライトブリンガーを具現化させるとアークデーモンに向けて構えた。
===ビビジジュュンン!!!===
お互いが放った光の束が空中でぶつかり合い大きな爆発が起こった
ーーードッガァン!!ーーー
視界を満たしていた光が消えていくと、徐々に状況が見えてきた。
アイリスは片膝をついて荒い息を吐いていたが、その身はラヴィーネが張った防御結界に守られ全身が光り輝いていた。
アークデーモンは全身が焼け爛れ、いまだ煙が燻っていた。
『聖剣 だ と?
我が 宿敵 が この ような 場 所 に いたとは ・ ・ ・
復活 に は血 血 が 足りん
しばし 預け る』
アークデーモンは、そう言い残すと黒い翼を広げて飛び立って行った。
「逃げられた?」
そういうアイリスにラヴィーネが後ろから声をかけた。
「良くて引き分けよ。
あのまま続けばこちらも全滅していたと思うわ。」
「確かに……
アークデーモンはどこに行ったのでしょう?」
「あの方向からすると奴が向かったのはルクトヴァニアよ。
1000年前に根絶やしにされたのはエルフだけじゃ無かったの。
アークデーモンはヴァンパイアを贄に復活する気なんだわ。
ルクトヴァニアにはフリューたちが向かっているはずだから、私たちも後を追うわよ。」
アイリスは手に持った聖剣を見て言った。
「咄嗟に、聖剣を召喚してしまいました……」
「フリューなら大丈夫よ。
彼の強さは武器じゃないでしょ?」
二人は遠い場所にいるフリューに思いを馳せた。
ーーーーーーーーーーーーーー
その頃、フリューたちはルクトヴァニアの領海に入っていた。
先ほど、突然フリューが腰に下げていた聖剣ライトブリンガーが輝きだして消えたことから、アイリスに聖剣を抜かねばならない危機に直面しているだろうことが分かった。
「アイリスたちが心配?」
エレナからそう聞かれ僕は素直な気持ちを答えた。
「心配と言えば心配だけど...、でも2人なら大丈夫さ。
きっと危機を切り抜けているよ。」
僕には2人が当面の危機を回避したのを感じた。
「イブリンは大丈夫?」
先程までイブリンを看病していたエレナに様子を聞いた。
「今はぐっすり寝ているわ。」
イブリンは、聖剣が消える直前に大きな何かを感じて気を失っていた。
気を失う前にイブリンは不案を感じていた
「イブリンが気を失う前に話していたんだけど...
最近、魔眼による予知と実際の動きにズレがあって、予知していた状況が時間的に早かったり、場所がずれたりするんだって。
だからイブリンは予知に従って、みんなを動かすことに不安を感じているみたいなんだ。」
それを聞いてエレナは当然のことのように言った。
「予知からズレが生じるのは当然よ。
だって、私たちが予知を回避するために動いているのだから、その行動を起こしたじてんで未来が変わっていくのよ。」
確かにその意見は腑に落ちた。
「イブリンの予知を無視して何もしなければ、その危機は当然訪れるし、予知の回避が全てうまくいくわけではない、でも動かないよりはマシでしょ。」
僕はイブリンが突然気を失ったことに動揺していたけどエレナは冷静だった。
「ヴァンパイアロードは、下級のデーモンがヴァンパイアを使って上位のデーモンを召喚しようとしていると言っていたけど、それも回避出来るの?」
僕の問いにエレナは顔を曇らせた。
「イブリンが気を失ったのは魔力に大きなうなりを感じたからよ。
私にも禍々しい魔力が感じられたわ。
上位種のデーモンはどこかに出現した、しかもルクトヴァニアとは離れた場所でね。」
エレナはそう言うと南東の方角を見つめたが、その方角はエレナとラヴィーネの存在が感じられた方向だった。
「まさか……」
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