第19話 迷いの森

「エレナ姉さん...

兄さんはどこに行ったの?」


リンの問いかけに私は答えた。


「分からないわ。

でもフリューがリンを置いてこのままいなくなるとは考えられないでしょ。

フリューを信じて待ちましょう。

ララムたちが出発する頃には帰ってくるでしょ。」


フリューがいなくなって3日、私とリンはまだゴモラに滞在していた。

ララムたち獣人の一団はもうゴモラを立つ準備を始めていた。


その翌日、『英雄の守護者』のスキルで感じてフリューと繋がっている感覚が薄れて行くのを感じた。


私は内心不安にかられていたが、それをリンに伝わらないよう平然を装った。


感覚が途切れている以上、この王国内で見つけることは難しい。

増して今の私は王国の反逆者の仲間。

今は彼を信じて待つしかない。



ーーーーーーーーーーーーーー


大森林での戦闘から3日後


近衛騎士団長オクトは、アーサー国王代理に報告に上がっていた。


「勇者アイリスが反逆者フリューを討ち取ったのは誠か?」


「ご説明したとおり勇者アイリスは、一人で戦いに挑みました。

 私は、勇者の振るった戦いの跡は確認していますが、反逆者フリューの死体は確認しておりません。

 勇者は、反逆者が渓谷の濁流に飲まれたと言っていました。

 私が説明できるのは以上です。」


オクトはそう説明した。

王子はイライラした様子で聞いた。


「お前は反逆者の死を確認していないと?

それでは勇者アイリスが奴を匿い逃した可能性もあるということではないか?

勇者は法を曲げてフリューを庇おうとした前科がある、今回もそうでないとは言いきれまい?」


王子のいいぶりにオクトは苛立ちを隠さずに言った。


「信用ならないのならば、王子は何故勇者に反逆者フリューの討伐を指示なされた!」


「今の私は王子ではなく国王代理だ。

近衛として貴様は私を敬うべきではないのか?」


 お前が我々近衛を蔑ろないがしろにしているのだろ...

 オクトは、内心の憤りを隠して言った。


「国王代理がおっしゃることに、可能性はないとは言い切れません。

ですが、それでは勇者ほどの強者が、意気消沈して塞ぎ込んでいるのは説明つかないでしょう。

今、勇者アイリスは完全に心を閉ざしています。

私にはあれが演技には見えません。」


「俺を蔑ろにする奴はみな報いを受けるのだ。

お前も覚えておけ。

これでアイリスも己の立場がわかっただろう。

オクト、ご苦労だったもう下がって良いぞ。」


アーサーの顔は満足そうだった。



オクト近衛騎士団長は、副官と共に王の執務室を出て隊舎に向かった。


「団長殿、反逆者フリューが死んだというのは本当でしょうか?」


「私がさっき説明したことが全てだ。私にも分からん。

ただ勇者は殺してはいけない相手を殺してしまったと、そう悔やんでいるのは事実だ。

まだ若い娘なのに王子も残酷なことをさせるものだ。」


オクトは、王子の態度に終始憤っていた。


「国王が失踪されもうしばらく立ちます。団員たちもよからぬ噂をしております。

国王はすでにお亡くなっていると...」


副官の言葉にオクトは答えた。


「いや、王は亡くなってはおらぬよ。

お前らは知らないが、ああ見えてお強いお方だ。それにあの侍医もいる。

同時期に居なくなった賢者ラヴィーネ殿もご一緒だろう。心配はいらんよ。」


「そうだと良いのですが...

では我々はこれからどうすべきでしょうか?

王が存命であれば我々は王をお守りする使命があります。」

副官の問いにオクトは答えた。


「我々も行く道を考えねばならない時にきた。これから信念に従うか王子に従うかをな。

私は信念に従うつもりだ。

断罪したければ宰相にでも申告するんだな。

そうすればお前が近衛の団長になれる。」


オクトのその言葉に副官は笑って答えた。


「やめてください。私は団長について行きますよ。我々は国王の近衛ですからね。これが私の信念です。」


「分かった。このことを団員全員に伝えて選ばせろ。私に付いてくる者は、明朝この城を出て国王の後を追う。」


オクトの言葉に副官は興奮気味に言った。

「了解しました!

うちに離反する者がいるとは思えませんが、一応このことを伝えます。奴らも喜ぶと思いますよ。

ところで団長は王の行方はご存知で?」


「まあ王との付き合いは長いからな。

こんな時に王が頼るあては心当たりがある。」


そう言って二人は隊舎に向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーー


僕は森の中で目覚めた。

近くに焚き火が焚かれ、体が温められていた。


体の節々に痛みがあり、身体が重い鎖を巻かれたように動かない。


しかし、不思議と目に見える怪我は無かった。

いや、これは治癒魔法?

傷跡は消えているものの出血の跡が見られ、僕は魔法で治療を受けたことがわかった。

...一体誰が?



次第に意識が鮮明となると、近くに人の気配を感じた。


「...ラヴィーネ?」


いや違うな。

一瞬、賢者ラヴィーネによく似た気配に感じられたが、僕に向けられている感情は『不審』だ。


美しく整った顔、白い肌、翡翠エメラルド色の長いウェーブのかかった髪、長く伸びた耳、初めて見たがエルフか?


その姿に僕は驚いた。

顔立ちは確かにラヴィーネに似てると思ったけど、僕自身が見間違えたことが不思議だった。


「あら起きたのね。よく無事だったわね。

普通死んでるわ。」


「助けてくれてありがとう。ここはどこですか?」


「ここはあなた達の言葉でいうと『迷いの森』。

普通は入ることは出来ないわ。

あなた何者?」


エルフに睨まれ、素直に答えた。


「僕はフリュー。たまたま崖から落ちて偶然ここに運ばれたみたいです。」


「ハァ...」

エルフは呆れた感じにため息をついた。

「あなたねえ...

濁流に流されたとはいえ、たまたまこの森に流されることは無いのよ。

そういうことわりなの。

でもない限り普通の人間はこの森に辿り着くことは出来ないわ。」


僕は困惑し

「エルフの加護?

僕はエルフに会ったのはあなたが初めてですが...」と答えた。


僕の言葉に、エルフは少し考えていた。


「あなたさっき目覚めた時、私を見て『ラヴィーネ』って言ったわね?

それは賢者ラヴィーネのこと?」


そう聞かれて僕は慌てた。

「そうです。でもあなたがラヴィーネと似てるはずないのに...僕変ですね。」


「ははぁ...、それね。」


その時、それまでこのエルフが僕に向けていた『不審』の感情は消えていた。


「いいわ、私についてきなさい。

もう体は動くでしょ?案内してあげる。」


気づくと、今まで身体が拘束されていた感じが消えていた。


「あっ挨拶を忘れてたわね。

私は『ヘカティア』。賢者の身内よ。」


僕は彼女の言葉に驚いた。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る