第34話 魔族領の村

 僕とラヴィーネ、エレナ、リンの4人は、馬で魔王城を目指した。


 魔王討伐への旅の後は、魔王軍は散り散りになっていたものの、魔王領自体の支配は続いていた。

 王国騎士団も今のゴタゴタで引き上げており、実質的には元の国境線のまま戦線は膠着していた。


 とりあえず魔王軍との間をとりなしてもらう為、僕たちはララムたちの村に向かっていた。


「そろそろ説明してくれるんでしょうね。

魔王軍の支配する中、魔王城まで行く意味を。」

馬で移動中にラヴィーネが聞いた。


 僕の説明が足りないことでラヴィーネも少し怒っているようだ。

 それでも僕を信じてついてきてくれてくれた3人を信用して僕は秘密を話した。


「実は....」


「「「何ですって!」」」

僕の話に3人は唖然としていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「兄さん!」

リンが、気配に気づいたようで僕はうなづいた。


 僕らが魔王領支配下の森を進んでいたところ、周りを何者かに囲まれていた。


「止まれ!」


 その言葉に僕らが馬を止めると、僕らの前に若い男が木の枝から飛び降りてきた。


 年齢は僕と若いくらいか?

 シルバーの狼ような耳、太いフサフサの尻尾を持つ、獣人だった。

 僕は、その獣人の子供からただならぬ戦闘力を感じた。


 現れたのは一人だったが、周りの木の上には5人ほどの殺気を感じた。


「ここからは魔王領の領域だ。このまま引き返せば何もしない。」

とその獣人は言った。


「僕らは、魔王城で合わなければならない人がいるんだ。 なんとか取次を願えないか?」


「王国の奴らにそんなことが出来るか?!

戦争はまだ続いているんだぞ!」


 獣人はそういうと牙を向いて威嚇し、それに合わせて周囲の殺気も上がった。


「待ってくれ! 僕は敵対の意思はない。

 この先の村にいるララムという女の子に取り次いで欲しい。

 僕らはララムとは友達なんだ。」


「ララムだと?」

僕の言葉に獣人の目の色が変わり殺気が少し薄くなった。

 獣人の子はリンの前に駆け寄ってくると、クンクンと左腕の匂いをかんでいた。


「これですか?」

リンが袖をまくるとそこにララムに貰った毛糸で作った腕輪があった。


 すると次に僕のところに来て同様に左腕の匂いを嗅ぎ、獣人が僕の袖をめくって腕輪を確認する。


「これは『戦士の加護』の腕輪だな。 ララムの匂いがする。」


うーむ、獣人はしばらく考えて言った。

「オイラの名前はウル、ララムの兄貴だ。この腕輪はララムが信じた証、オイラはおまえらを信じるよ!」


 ウルがそういうと、木の上から5人の獣人が飛び降りてきた。

 同じく獣人だが種族はバラバラだった。


「さあ、村まで案内する、ついてこいよ」

僕はウルに連れられて村に向かった。




「ララム、帰ったぞ!」

その声を聞いて、作業をしていたララムが顔をあげた。


「あ! リンちゃんにフリューさん!」

ララムは満面の笑みを浮かべ、リンと抱き合って再開を喜びあった。


「それよりもごめんね。 復興を手伝うとか言っちゃって」

リンが謝るとララムはニコニコして言った。


「全然いいよ。兄ちゃん達とも合流できたから人手はなんとかなっているんだ。

 それよりもフリューさんが無事でよかったよ。」


「ありがとうララム。君とウルはあまり似てないけど、兄妹だって聞いてびっくりしたよ。」


「それはね。フリューさんとエレナさんと一緒。私たちは村で一緒に育てられたけど、実の兄妹じゃないの。」

とララムは言った。


「フリューさんのことはララムから聞いていたよ。ララムを助けてくれたんだってな。

疑って悪かったよ。」

ウルはそういうと頭を掻きながら笑っていた。


「あっ。」

僕は、やるべきことを思い出して言った。


「僕らは魔王城である人に合わなければならないんだ。

 誰か取り次いでくれる人を知らないか?」


僕がそう言うとウルは胸を叩いて言った。

「オイラはこう見えても、ワーウルフ狼人族の戦士なんだぜ。

 オイラの父親は死んじまったが、狼人族の長だったんだ。

 ララムの恩人ならオイラが人肌脱ぐぜ。」


ウルのその言葉を聞いて僕は正直に言った。

「僕らは勇者一行の仲間だった。

 もしかしたら君の父親を殺したのは僕らかもしれないんだ。」


 そう僕が言うと、ウルは苦笑いしながら言った。

「何も思っていないというと、嘘になるよ。

 でも、オイラはフリューたちのことをララムやあの街にいた仲間に聞いているんだ。

 フリューが自分の命をかけてララムとオイラの仲間を守ってくれたことを。

 だから、それまでのことは水に流すよ。」


「ありがとうウル。」

僕は、心からウルに感謝した。



 ララムたちの村には3日滞在して、その間に森で食料を調達したり、エレナが怪我人を治療したりなど村の手助けを行った。


『ーàiteachー』

ラヴィーネの呪文により、荒地が開墾されていった。

「この大賢者に何をやらせるのよ...」


「そうは言っても困っている人を放っておけないそんなラヴィーネが僕は好きだなぁ。」


「子供が揶揄うんじゃないわよ。」

ラヴィーネはぼそっと言いながら顔を赤く染めていた。


「ほら次は雨を降らせるわよ!私の農耕魔法をみなさい!」

『ーUisge!ー』

ラヴィーネが呪文を唱えると開墾された土地に雨が降り注いだ。


 3日間はあっという間にすぎ、僕らはララムたちの村を出発する。


「じゃあまたねリンちゃん。絶対また会えるわよね。」


「ララムも元気でね。大丈夫、兄さんが戦争を終わらせてくれたら、いつでも会いにこれるわ。」



僕たちは、別れを惜しんで村を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る