第35話 魔王との回想

 あの日、

僕らは魔王城攻略の最後の段階にきていた。


「待て待て!!俺は魔王の仲間ではない。魔王に背いた身だ。敵の敵は味方というだろ?

 魔王の秘密を教えるからここは見逃してくれ。」

 敵将バラモスが卑屈な笑いを浮かべながら命乞いをしてきた。


 バラモスはヴァンパイアと他の魔族の血を引く男で、確かにこのバラモスの配下が仲間であろう魔族と小競り合いをしている中、僕たちは割って入った。

 バラモスが魔王の裏切り者である可能性は否定できなかった。


聖騎士アーサーが言った、

「もしおまえの言うことが本当であれば見逃してやれない訳ではない。

 このアーサー聖騎士の誇りをもって誓おう。

 しかし、もし嘘があったら勇者のスキルでバレるぞ。その時はお前を殺す。」


 バラモスは、膝を付き冷や汗を流しながら言った。

「先代魔王は少し前に死んだ。今の魔王はまだ子供だ。」


「なんだと?」


 アーサーが勇者アイリスを見て確認するとアイリスはうなづいて言った。


「言葉に嘘は感じられない。」


「そうだ嘘じゃないだろ?

 先代魔王は、私の主人の手の者に暗殺された。

 今魔王の座にいるのは魔王の娘よ。

 まだ魔王としての力もないな。

 お前ら、いや貴公たちなら殺すのは造作もないことだ。」


 バラモスは立ち上がると言った。

「もういいだろ?

 魔王の間はこの塔の上だ。

 下の階には雑兵がいるが、たいした数じゃない。

 上には魔王の側近である魔将ラミアが側使いでいるが、ここまで来た貴公たちならラミアなど敵ではないだろう。

 さあ、早く行って殺してくるが良い。」


 そういうと、バラモスは卑屈な笑い顔を浮かべながらその場を去っていった。


 勇者アイリスは思い詰めたように言った、

「私の剣は正義の剣だ。なんの力もない子供を殺すことは出来ない...」


アイリスは顔が青くなりながら膝をついた。

「魔族の子供相手に遅れを取ってフリューに怪我をさせてしまったことがあっただろ。

 私は弱い相手が苦手だ。

 力無い者を殺そうとすると、私は動けなくなってしまう。

 魔王を殺すことは私の役目なのに...」


 僕はこの戦いの中で違和感を感じていた、魔王軍と我々の違いは何なのだろう。

 確かに魔王軍は国境を侵害し、人の村を襲うのも見てきた。

 しかし、魔王領に入ってから見る風景は、王国の村々と変わらないものだった。

 魔王だからと言って、敵だからと言って殺さなければならないのか?

 僕はこの戦いに疑問を持っていた。


 でもここで勇者が魔王を討たなければこの戦いは終わらない。

 王国軍も下がる機会を逃してしまう。

 そう考えて僕は言った。


「アイリスの代わりに僕が魔王を討つよ。

 僕なら上の階に忍び込みのは簡単でしょ?

 下の階で揺動してくれたら僕は忍び込む。

 それで終わりだ。僕らは帰ろう王都へ。」


「すまないフリュー。私のために...」

アイリスはそういうと涙を堪えていた。



 作戦どおり、アイリスたちが突入するのを合図に、僕は壁をよじ登って上層階のテラスに上がった。


「あなたは誰?」

僕がテラスに上がると、そこには可憐な少女が立っていた。


 5〜6歳くらい?、薄い青色のドレスを着ていた。

 綺麗な金色の長髪で金色の瞳、頭の両側には小さい角が生えていた。


「君は魔王かい?」


「私はイブリン、魔王の娘よ。お父様はまだ帰っていないわ。」


その言葉に僕は顔をしかめた。


 その時、部屋のドアが空いて女が剣を抜いて飛び込んできた。


「イブリン様お下がりください。この男は敵です。」


 その女は、軍服を着ており、腰まで伸びた赤い髪の美しい女だった。


「私は魔将ラミア、勇者の仲間ですね、姫様はやらせません。」


 ラミアは、僕と少女の間に割って入り、剣を構えた。


その時少女は言った。


「待ってラミア、このお兄ちゃんは怖くないわ。

お兄ちゃんの心は私を哀れんでいる。

私には見えるのよ。」


少女は全てを見透かした目で僕を見ていた。

 魔眼か...


ラミアは慌てて言った。


「そうなのですか? では目的はなんなんですか?」


「僕は、魔王を殺しにきた、、んだけど、

なんかやる気がなくなっちゃった。

 この子は魔王である自覚もないんだろ?」


そう僕は頭を掻きながらそう言った。


「ラミアって言ったっけ?

 なんで魔王軍は僕らに敵対するの?

 僕はこの国に来て思ったんだけど、教えられていた魔族と違ってみんな普通なんだなぁって感じたんだ。戦争をする理由ってなんだろうって。」


「君の名前は?」


「僕はフリュー、勇者一行の斥候だ。」


「フリューか、斥候にしては力を感じるが、、、良いでしょう。

 どうせ私では歯が立ちそうにありません。

 あなた達に大義はありませんよフリュー。

 この戦争の発端は、我々が生まれるより前、その時代に王国は侵攻してきた。

 我々はこの光が当たらない恵まれない土地でも、耐え忍んで生きてきました。

 なぜこの地が攻められねばならないのですか?」


「生まれる前に何があったか分からないけど、戦争を続ける理由にはならないだろ?

 なんであなたたちは、いまだに王国内に入ってくるのさ。」


「我々魔王軍が一方的に正しいとは言いません。

 でも、あなた方の魔王様の命を狙ってますよね? 現に先代の魔王様は殺された。向かってくる以上我々も戦わねばなならないのです。」


 僕は悩んだ。なんか会話に違和感を感じる。でも、、、


「君らの認識はわかった。

 でも僕はしがない斥候で、僕には君たちを見逃す権限は与えられていない。

 そして君たちを殺さないと僕らが引き下がれない。」


 僕がそういうと、ラミアは剣の柄に手をかけ身構えた。


「ちょっと待って!僕はとは言っていないよ。僕に案があるから聞いてくれないか?」


 僕はそういうとラミアに僕の案を説明した。


 ラミアは僕の案に同意してくれた。

 ラミアには魔族の遺体を持ってきてもらい、王の間にその血をぶちまけてもらう。

 そして、その遺体はラミアの魔法で消し炭にしてもらった。


「すまない。姫様のためです。」

ラミアはその魔族の遺体を弔っていた。


 その作業の間、僕とイブリンはテラスで話をしていた。


「君は王国の人のことをどう思う?」


「分からない。お父様は人は怖いって言ってたけど、私は私とお兄ちゃんは同じだと思うわ。

私には角があるけどね。」


「そうだね。可愛い角だね。」


「いいでしょ?お父様はもっと大きな角なのよ。」


「そうか、それはかっこいいだろうね。」


「でしょ!」


「お兄ちゃんも立派な角が生えてくると良いよね。」


そういうイブリンの笑顔を見てると、僕は少し悲しい気持ちになった。



「じゃあね、お兄ちゃん。またお話ししましょ。」

イブリンは笑って手を振っている。


「恩にきますフリュー、王国にもあなたみたいな者がいるとは知りませんでした。

 もっと我々は話し合うべきなのでしょう。

 その時を楽しみにしています。」


 ラミアはそういうと隠し扉からイブリンを連れて去っていった。



 そしてしばらくして勇者たちの到着を待ち僕は言った。


「魔王は僕がしたよ。」

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