第29話 地下迷宮の秘密

 僕らは、ゴーストのお爺さんの案内で先を進んだ。


「爺さん、案内してくれるのありがたいが、ドアを通り抜けて行くのはやめてくれ。

 俺たちはドアを開けないと先に進めないんだ。」


「ほっほっほっ、お主は誰だったかな。

、、、、ああ暴竜のところに行くのだったなぁ。ついてくるがいい」


アウグスト卿はエレナに小声で耳打ちをした。

「この爺さん大丈夫かよ?」


「そうね、ゴーストは生前ほどの知能はないからこんなものでしょうね。

 あと、怒らせないようにね。感情のままに生きてるだけだから。」


「いや死んでるけどな。」


 アウグスト卿は、そう呟くと先をゆくゴーストの後を追った。


 この迷宮は、入り組んだ通路ではなく部屋と廊下で繋がれていた。


 ゴーストを追って部屋を飛び込むと、10数体のアンデットが現れ、僕らに襲いかかってきた。

  

 僕は、1体のアンデットの背後を取り首を跳ねると、アウグスト卿も1体を剣で仕留めていた。

 その間に、ラヴィーネは3体のアンデットを焼き殺していた。


『ーholly lightー』

エレナの呪文を唱えると、室内が眩く光り残りのアンデットは消滅していった。


「おいおい!爺さんも消しちゃったんじゃねえだろうな」


 アウグスト卿焦って言うと、エレナはすまして言った


「お爺さんはもう次の部屋に行っちゃったわ。急いで追いかけましょ?」


 アンデット系の魔物がところどころで現れる中、ドアをすり抜けて進んでいくゴーストを追いかけるのは、至難の業だった。


 僕らはこうして迷宮を最短距離で攻略して行った。



 長く続く廊下の先の扉の前で、ゴーストのお爺さんは待っていたが、その顔は悲しそうだった。


「どうしたんですか?」


僕が聞くとお爺さんは僕の目を見て言った。


「この扉を開けると、私がいたところと同じような牢獄となっている。

 通路の左右は独房があり、その一つにお仲間がいるだろう。

 そしてその先進んだ部屋にある扉が暴竜の寝床に繋がっておる。

 ワシの案内はここまでじゃ、この先で妻と娘が暴竜の生贄になったからな。

 この先は行きたくない。」


お爺さんは、悲しそうにそう言った。


「ここまでの案内ありがとうございました。」


 僕が手を差し伸べると、お爺さんも握り返してくれようとして、手がすり抜けた。


「ほっほっほっ」

お爺さんはそれを見て笑った。


「必ず暴竜『ニーズヘッグ』を殺してきます。」

僕はそういうと、僕たちはドアを開け部屋に入って行った。


「ほっほっほ、頼んだぞ!

おっと、名乗っておらんかったな。

ワシはこの城の城主、

アルベルト=ローゼンブルクじゃ」


その声に僕らは驚いて振り返るとゴーストの姿は消えていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


「あの爺さんローゼンブルクと言っていたな。

まさか俺のご先祖様かもしれんとは...

 竜をらねばならない理由が増えちまった。」

アウグスト卿は呟いた。


「まあいい感傷に浸るのは後だ、今はリンを助けるのが先だ、先へ進もう。」


 僕らは牢獄を確認しながら先に進んだ。

 ところが独房を一つ一つ確認するもリンは居なかった。


 独房のある廊下が終わり、その先の扉を開けた。


 そこには椅子に座ってリンが待っていた。

 リンは、飛び上がって僕に抱きついてきた。


「兄さん遅いですよ。待ちくたびれました。」


「悪かったリン、無事でよかった。」

僕はリンの頭を撫でながらそう言った。


「リン、おまえ牢屋の中に飛ばされたんじゃ無かったのか?」

アウグスト卿が聞くと、リンは言った。


「飛ばされましたよ。私は斥候スカウトですよ。鍵を開けて出てきました。

 この先は嫌な感じがするのでここで待ってたんです。

 そういえばアウグスト様?

 私、罠には気をつけるよう言いましたよね?!」


「ああー悪かった! 悪かった! いや、あれだ、先祖の爺さんにビビっちまって、なぁ?」


 アウグストはそういうと、僕らに同意を求めた。

「僕たちもいろいろあったんだよ。少しここで説明するよ。」


と僕は助け舟を出した。


 するとリンが言った。

「私の方も、この部屋にあった記録を読んで、わかったことがありますのでお話します。」


僕らはリンにゴーストのお爺さんの話をした。


「そうだったんですね。でも、それとアウグスト様が迂闊なのは関係ないですよね。」



そうラヴィーネがリンに言った。


「リンってアウグに辛辣よね。」


「私は、アウグスト様の様な大男じゃなく、優しくて私より5歳くらい歳上が男性が好みですから。」


「ずいぶん、好みが具体的ね。」


リンは話を切り替え、話し始めた。


「ところでこの部屋にあった記録の話ですが、ここには、日誌のようなものと、暴竜の生贄になった人の名簿がありました。

 私にはエルフの方はお名前は読めなかったんですけどね。」


「まあ言語が違うからね。私も本名はラヴィーネじゃないし、あ、逸れたわね話を続けて。」


「今お話がありました。

 アルベルト=ローゼンブルクという方の名前もりましたよ。

 この城の城主様だったんですね。

 暴竜がこの地に封印されることになった経緯ですが、暴竜がこの地を荒れた荒野にしちゃったんです。

 そこで、エルフとこの国の国王が謀議を図り、まず暴竜のために豪華な寝室を作ったんです。

 そこに暴竜を誘い込み、毎日生贄を捧げてもてなしました。

 生贄は、発端となった王家とエルフから捧げられたことが書いてありました。」


リンの説明にラヴィーネが言った。

「なるほどね。言い伝えと辻褄が合うわ。」


「それからは、竜を捉えるための準備を整えたとあります。

 そして竜を眠らせ結界を作ったと。

 記録はそこで切れていました。」


「竜に悟られないように爺さん等を中に残したまま結界を張ったんだろう。可哀想にな」

そうアウグスト卿は言った。


「あ!忘れてました。」

リンは小さな長方形の木箱を取り出して言った。

「これが壁の隙間に隠されていたんです。

 この木箱は私にも開けることが出来ません。 それに不思議なんですが、木なのに石の様に硬くて壊せませんでした。」


ラヴィーネはその箱を手にとって確認した。

「時間停止の結界が貼られているわ。」


『ーsgaoil an seulaー』

ラヴィーネは呪文を唱えて、その木箱に口付けをした。

 するとその木箱は、早回しで時が過ぎるように朽ちていった。


 アウグスト卿が力任せに壊すと中から、古い本が出てきた。

 アウグスト卿がその本をパラパラめくると、顔を顰めた。


「なんて書いてあるか読めないぞ。」

と言い本をヴィーネに手渡たした。


「これは古いエルフによる文字ね。

 基本エルフは口伝で伝えるから文書として残っているのは珍しいのよ。

 ちょっと時間をちょうだい。」


そういうとラヴィーネは、本を読み始めた。


 それからしばらくしてラヴィーネは言った。

「これはお手柄よリン。あなたがいなければ見つからなかったわ。」


「何が書いてあったのラヴィーネ?」

エレナがそう聞くと、ラヴィーネは答えた。


「これはエルフが暴竜『ニーズヘッグ』を捕えるまでに研究を重ねた記録よ。

 概ねエルフに伝わる口伝と一致するけど、言伝えにないことも書かれていたわ。

 ニーズヘッグを倒すヒントとなるね。」



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